23話 大繁盛の裏で
とある豪勢な部屋の中で、高級そうなビジネスチェアに腰を掛ける丸々とした男がいた。その男は机上にある紙へと視線を向けながら、不機嫌そうに眉根を寄せている。
「い、以上が今月の売上になります」
そんな肥満の男の前で、ピンと針金のように背筋を伸ばした細身の男は、額に汗を垂らしながら消え入るような声でそう告げた。
肥満の男は頬杖をつきながらジッと紙を見つめる。そして相変わらず不機嫌そうな表情のまま視線を細身の中年者へと向ける。
「ここ数ヶ月毎月のように最高売上を更新してきた。しかし今月のこれはなんだ? これではガルド兄様に顔向けができんぞ」
「そ、それは……申し訳ございません。全ては私共の努力不足でございます」
「ふんっ……まぁ大半は誤差の範囲ということで今月は目を瞑ろう。しかし、1つだけ見過ごせない項目がある」
肥満の男は紙をヒラヒラと揺らす。
「武器だ。なぜこうも極端に売上が落ちている? 冒険者共がごっそりと町から居なくなった訳でもないだろうに」
「じ、実は武器に関して是非メルド様のお耳に入れておきたい情報がございます」
「言ってみろ」
メルドと呼ばれた肥満の男の前で、身体の薄い中年者は身振り手振りを交えながら必死に声を上げる。
「最近露店の方でなにやら武器の販売と修繕を行なっている子供がおりまして……それがかなりの売上を上げているようです」
「露店で店を開く子供? そんなもの取るに足らない存在ではないか」
「それがどうも我々の想像以上に人気を博しておりまして。特に武器の修繕に関してはなんでも使い物にならない剣を、ものの数分で高品質の剣に変化させるようです」
「ほんの数分で修繕だと?」
頬杖をつきながら、メルドはトントンと机を叩く。
「は、はい。おかげで我々の商店で武器を購入するよりも修繕を依頼した方が得ではないかと冒険者の間で専らの噂でございます」
「…………」
メルドは机を叩くスピードを速める。
そのまま張り詰めたような空気が部屋を包む中、数十秒の無言の後、メルドが口を開く。
「早急に対処した方が良さそうだ。フォッサ、お主はどう考える」
メルドの鋭い視線に晒されながら、フォッサと呼ばれた中年の男はすぐさま回答をする。
「そ、その子を取り入れてはいかがでしょうか。そうすれば我が商会に相応の利が──」
「──ならぬ。そんな子1人雇ったところで大した利にはならぬだろう。……それにそんなことをすれば我がその子とやらに屈したみたいではないか」
「そ、そんなことは……」
「とにかく却下だ」
「で、では……今回も『暗剣』に依頼をし、秘密裏に処理をするのが1番かと……」
「ふむ『暗剣』か」
「か、彼なら間違いなく誰にも気づかれることなく対象を屠ってくれることでしょう」
「……わかった。フォッサ、その子を早急にかつ足がつかないよう処理するよう『暗剣』に依頼しろ」
「承知いたしました。では失礼いたします」
言葉の後、フォッサは丁寧に礼をした後すぐさま部屋を出た。
「…………」
1人になった所で、メルドは息を吐いた後、その口元に笑みを浮かべる。
「待っていろ露店の子とやら。我らの商売の邪魔をすればどうなるか、その身に存分に叩き込んでやろう」
そして言葉の後、メルドは小さく笑い声を上げた。