21話 露店と繁盛
2度目の露店開店の日がやってきた。
この日前回と同時刻に露店へと向かうと、剣や看板を設置する。
「今日は前回よりもお客さんがくるといいね」
「にゃ〜期待にゃ!」
時折シュムと会話をしながら作業を進めると、すぐに露店の開店準備が完了する。
「よし、それじゃ開店といこうか」
「はいにゃ!」
言葉の後、僕たちは前回同様に呼び込みを開始した。しかしやはりチラリと見るばかりで興味を持つ人はいない。
やっぱり今回もそんなもんかと1人思っていたその時、遠方から身なりの整っていない少年少女数人がこちらへとやってきた。
「あの、ここですか。武器を綺麗にしてくれるお店って」
「いらっしゃいませ。露店で武器の修繕を行なっている店ということであれば、うちだと思いますよ」
僕の言葉を受け、少女はパッと顔を明るくするとボロボロの短剣をこちらに差し出してきた。
「これでも、直せますか?」
「少々お借りしますね……」
言葉の後、僕は短剣をあらゆる角度から見る。
……これはすぐにでも折れそうな感じだな。まぁでも素材は大したものではないし、修繕自体は問題なくできそうだ。
「はい。これなら修繕可能ですよ。そうですね……銅貨1枚でいかがでしょうか」
「あの、ぜひお願いします!」
「わかりました。では少々お待ちください」
そう言うと、僕は彼女から銅貨1枚を受け取り、すぐさまハンマーを召喚する。そしてものの数分で修繕を完了した。
「はい。こちらでいかがでしょうか」
「わぁ……! ありがとうございます!」
「次あたし! あたしのも直して!」
「もちろん皆さん対応いたしますので、順番にお並びくださいね」
僕の声に少女たちは「はーい」と素直に返事をする。おそらくはスラム出身の彼らであるが、どうやら人の言うことを聞くとこができる良い子たちのようだ。
その後僕は彼らの武器を順番に直していった。料金としては皆一律銅貨1枚である。
彼らにとってはおそらく大金であろう金額だが、それでも渋らずに支払ってくれた。そして修繕完了した武器を見て喜んでくれるその姿に、僕とシュムの心はポカポカと温かくなった。
「ありがとうございましたー!」
「はい。気をつけてお帰りくださいね」
「はーい!」
少年少女を見送ると、再び僕たちの露店周辺には誰もいなくなった。
一応彼らの修繕を行なっている際、気になってか見にくる人も何人かいたのだが、どうやら依頼する必要性を感じなかったり、そもそも武器を持っていなかったりでそれ以降依頼をする人は現れなかった。
……ただ前よりは注目が集まっている気がする。あとはもう少し興味を引ける何かがあれば、きっとちょくちょく依頼してくれる人も現れてくるはずなんだけど。
はてさてその材料として何を行おうかとシュムと2人頭を悩ませていると、ここで唐突に辺りに騒めきが起こった。
……ん? いったいなんだろうか。
疑問に思い、その声の発生源へと目を向けるとそこには紫電一閃の皆さんの姿があった。
彼らはどよめきの中、一直線にこちらへ向かって歩いてくる。ルナさんに至っては遠方から思いっきり手を振ってきたため、僕とシュムは手を振りかえした。
こうして近くまでやってきたところで、メリオさんが口を開く。
「頑張っているようだね」
「メリオさん! 皆さん、来てくださったんですね!」
「この前話を聞いてから、どうしても気になってな! タイミングを見計らってこうしてみんなで来たというわけだ!」
実は露店で武器屋をはじめたことは、この前の護衛依頼の際皆さんに話していた。
その時予定がなければ応援に行くと言ってくれていたのだが、まさかこうも早く、それも全員で来てくれるとは思わなかった。
「わー! わざわざありがとうございます!」
「ありがとにゃー!」
「感謝されるようなことではないよ。ただ応援に来ただけだからね」
「でもさ、さすがにここまできてバイバイは違くない? せっかくなら何か修繕依頼しようよ!」
「それもそうだね……よし、なら俺の剣の修繕をお願いしようかな」
そう言うと、メリオさんは身につけていた長剣をこちらに手渡してくる。
「前回修繕してもらってそこまで日が経っていないからね。どちらかというと簡単なメンテナンスになるけど、どうだろうか」
僕は剣を受け取ると、すぐに言葉を返す。
「はい! 大丈夫です!」
「料金はいくら位になりそうかな?」
「そう……ですね」
僕は迷った。正直普段懇意にしてもらっていることもあり、いくらでも安い値段で受けることはできる。ただメリオさんたち紫電一閃の皆さんは性格的にそういうのを嫌がりそうな節があるのだ。
……よし、ここは正規の値段でいこう。
「銀貨1枚いただければ、以前修繕した時よりもさらに強固にすることが可能です」
「本当かい。ではそれでお願いするよ」
「はい! お任せください!」
やりとりの後、僕はメリオさんから銀貨1枚を受け取った。それにより紫電一閃が僕に修繕依頼をしたことが周囲にも伝わったのか、露店の周りに何人かの人が集まってきた。
……紫電一閃の皆さんの力で注目が集まっている。これはチャンスだぞ。
僕は内心そう思うと、以前行った実演のように衆目の中でハンマーを召喚し、早速剣の修繕へと取り掛かった。
……うん、やっぱり少年少女の武器とは違って魔力消費が凄まじいな。でも僕もあれから成長している。だからこれくらいなら全然問題はない。
こうして開始から10分ほどで僕は修繕を完了した。あらゆる角度から目をやり、問題ないことを確認した後、僕はうんと頷き、剣をメリオさんへと手渡す。
「こちらで完了になります。いかがでしょうか」
「うん、完璧だよ。相変わらず凄まじいね」
「ありがとうございます!」
メリオさんの言葉に僕は笑顔で頭を下げる。すると今の一連の流れを見てか、周囲からザワザワと様々な声が聞こえてきた。
「あのメリオが褒めてる……ってことは本当に凄腕なのか?」
「今見たろ! あのレベルの武器をたった10分で修繕してるんだぞ? 本物だろ!」
「それに料金も銀貨1枚だってよ。あの仕事でその値段なら武器を買うより、修繕してもらった方が安くつくんじゃないか?」
「あぁ、間違いねぇ。こうしちゃいられねぇ。今すぐ武器とってこねぇと!」
「あ、俺も!」
そんなやりとりと共に何人かは走って自宅へ向かう人もいた。他にも何人かが露店周辺でまだかまだかとウズウズとした姿を見せている。
……すごい。一気にみんなの心を掴んだ。
メリオさんが僕たちにだけ見えるように小さくウインクをする。
……きっとこうなることを見越して……これは感謝してもしきれないな。
僕がそう感激していると、メリオさんが再度口を開いた。
「それじゃ俺たちはそろそろいくよ。露店頑張ってね」
「頑張ってねー!」
「応援してるぞ!」
「ファンくん、シュムちゃんなら絶対大繁盛するよ!」
「皆さん……ありがとうございました!」
「ありがとにゃー!」
僕たちの声に皆さんは頷くと、周囲の注目を集めながら僕たちの元を離れていった。
そして姿が完全に見えなくなったところで、露店の周りでウズウズしていた人々が口々に修繕の依頼をお願いしてくる。
「皆さん! きちんと修繕いたしますので順番にお並びください!」
こうして最初の少年少女たち、そしてなによりも紫電一閃の皆さんのおかげもあり、結果的にこの日はスタートからラストまで修繕漬けの1日となった。
また同時に販売していた剣も1本売れ、最終的に1日で銀貨10枚以上も稼ぐことができた。