12話 パーティー結成
ルナさん付き添いの元、シュムの冒険者登録のためにギルドへ向かうことになった。
なぜ僕も一緒に行くことになったのか。正直予定も何もないため部屋で待機でもよかったのだが、ルナさんとシュムに一緒に行こうと懇願されたため、結果ついていくことになったのである。
という訳で真ん中にルナさん、その両隣に僕とシュムという立ち位置で手を繋ぎながら町を歩くと、宿が一等地ということもあり、すぐに目的地へと到着した。
「それじゃ行こっか」
ルナさんの声に従い、僕たちはギルドへと入る。瞬間、中にいる冒険者から様々な視線が向けられた。
その多くはルナさんの存在に対する浮ついたものであったが、やはり一部獣人であるシュムに対する厳しい視線も見受けられた。
ただルナさんという強者の存在もあってか、だからといって絡んでくるような輩はいなかった。
僕はそのことに安堵の息を吐きつつ、ルナさんに従うように受付へと並ぶ。すると少しして、僕たちの番になった。
「あらルナセア様と、ファンくん……?」
担当してくれる受付嬢はたまたまリマさんであり、彼女は僕とルナさんが一緒にいることに驚いたように声を漏らす。次いでその視線をシュムへ向け、再度驚嘆の表情を見せた後、小さく咳払いをする。
「失礼いたしました。本日はどのようなご用向きでしょうか」
リマさんはやはり僕の想定通りいい人で、シュムの存在があってもぞんざいに扱うようなことはなかった。
僕はそのことに安堵しつつ、ルナさんと共に今日の目的について話した。
リマさんは納得したように頷くと、すぐさまシュムの冒険者登録へと移る。そして僕が経験したあの流れを一通り踏み、数分後にはシュムの手に冒険者証が手渡された。
「ありがとにゃ!」
「無くさないようお気をつけくださいね」
「はいにゃ!」
「最後に全体を通して何か質問はございますか?」
リマさんの問いに対し、シュムはうーんと悩んだ後可愛らしく首を傾げた。
「にゃ。パーティーってにゃんにゃ?」
「そうですね。たとえばルナセア様が紫電一閃の一員であるように、行動を共にする冒険者の集団のことでしょうか」
「にゃーパーティーを組めばずっと一緒にいられるってことにゃ?」
「そうですね。基本的にはその認識で間違いございません」
リマさんがうんと頷くと、シュムは目を輝かせながら力強く宣言をする。
「にゃ! にゃらシュムはファンとパーティー組みたいにゃ!」
「えっ!?」
シュムのまさかの申し出に僕は驚きの声を上げる。
「にゃーファンは嫌にゃ?」
「嫌じゃないよ。突然の提案に驚いただけ。でもそうだな──」
僕は彼女に見つめられる中、腕を組み悩む。それから少しして、シュムへと視線を向けると、確認するように声を上げた。
「シュム。今の僕はそこまで強くないし、商売もやりたいと考えている以上、普通の冒険者よりも冒険に出かける回数は減っちゃうかもしれない。それでもいいの?」
僕の問いにシュムは間髪入れずに答える。
「シュムはファンと一緒にいたいからパーティーを組むにゃ! だから問題にゃいにゃ〜」
確かに1人では限界を感じていたところではある。それに信頼できる仲間が欲しいという気持ちは兼ねてよりあった。
正直シュムの戦闘力の程度はわからない。しかし仮にパーティーを組む相手が、僕の仲間となる人物が彼女であるならば楽しい日々になるのはまず間違いないだろう。
僕はそう考えると柔らかく微笑んだ。
「わかった。それじゃパーティー組もうか!」
「やったにゃー!」
「──ということになりましたので、このままパーティー登録をお願いしてもよろしいでしょうか」
「承知いたしました。それではお二人の冒険者証を一度ご提示いただけますか」
どうやら冒険者証にパーティーであることを刻み込むらしい。
使う道具は冒険者登録の際にも使用したあの魔道具。なんとも便利な代物である。
リマさんは冒険者証を受け取ると、何やら操作を始めた。そして少しして、再びこちらへと視線を向ける。
「パーティー名はいかがいたしますか?」
リマさんの問いにシュムが軽快に答える。
「ファンとシュムにゃ!」
「安直すぎる! それに今後仲間増えた時どうするのさ」
「にゃはは! 確かににゃ!」
言ってひとしきり笑った後、シュムが僕の方を向く。
「どうするにゃ? シュムはにゃんもうかばにゃいから、ファンが決めていいにゃ!」
「ほんと? んーどうしようか」
シュムのネーミングにツッコミを入れておいてあれだが、僕もこれといって思いついているわけではない。
それに特別ネーミングセンスがあるかと言われるとそれも疑問だ。
ということでここで僕は、後方でニコニコと僕たちのやり取りを眺めていたルナさんへと質問をすることにした。
「ルナさん。パーティー名ってどんな感じで決めることが多いですか」
「そうだねぇ。うちみたいにリーダーに関する名前のところはよく見るかな〜。あとは今後パーティーとして目指す姿を名前にしてるところも多いと思うよ」
「なるほど……目指す姿か」
呟くようにそう声を漏らした後、僕は視線を再びシュムへと向ける。
「シュムはどんなパーティーにしたい?」
「にゃー……あたたかくて優しくて幸せなパーティーにゃ!」
「いいね」
確かにシュムの境遇を考えれば理想はそうなるか。まぁ僕としても家族のようなパーティーを作りたいという思いはある。……ならその考えを名前に入れるか。
「うーん、幸せな場所……楽園とかか?」
「楽園にゃ! それにゃ!」
「ただこれだけだとちょっと味気ないよね。できればなんちゃらの楽園とかにしたいな」
……今後どんな存在が加入することになっても、その人物にとっての理想となれる場所にしたい。みんなにとっての楽園か──
「あ、カルミアの楽園」
「カルミアにゃ?」
「うん。僕の故郷にある花の名前でね、大きな希望とか賑やかな家庭って意味を持つ花なんだ。だから僕たちの求めるところにぴったりかなと思ってね。……どうかな?」
「凄くいいと思う!」
「賛成にゃ!」
ルナさん、シュムが好意的な反応を示してくれる。それを見て、僕はこのパーティー名でいくことに決めた。
ということでそのことをリマさんへと伝える。
「リマさん。僕とシュムのパーティー名はカルミアの楽園でお願いします」
「はい。ではそのように登録いたしますね」
こうして僕はシュムの冒険者登録からの流れで彼女と冒険者パーティー、カルミアの楽園を結成することになった。