11話 紫電一閃の帰宅
翌日。この日僕たちは部屋でゆっくりすることにした。
理由は様々あるが、やはりいまだシュムの体力が回復しきっていないこと、紫電一閃の皆さんが帰宅したらすぐにシュムの件を説明したいということが主な理由である。
ということでお互いのこれまでについて語り合ったり、ベッドでゴロゴロしてたりするといつの間にか昼過ぎになっていた。
「もうこんな時間か」
「にゃ〜ファンと一緒だと時間経つのあっという間にゃ〜」
「思った。2人だと時間経つの早く感じるよね。それだけ楽しいってことなのかな」
「きっとそうにゃ〜楽しいからあっという間にゃのにゃ〜」
言って微笑んだ後、シュムはニマニマとしながら僕へとしなだれかかってくる。
「にゃ〜ファン〜」
「もう……シュムってくっつき虫だよね」
「そんにゃことにゃいにゃ〜ファンだけにゃ〜」
そんなこんなで2人で戯れあっていると、ここで唐突にドアをノックする音が耳に届いた。
……オーナーさんだろうか。それとも紫電一閃の皆さんか?
「シュム。人が来たよ」
「にゃ〜」
「ちょ、なんでくっつく力強めたの!? 離れて! 一回離れてって!」
「にゃはは〜ファンはあったかいにゃ〜」
と、ここでドアがガチャリと開き──
「入るよ──」
「……あ」
「にゃ?」
ベッド上で戯れ合う僕たちと、メリオさんをはじめとした紫電一閃の皆さんと視線が合う。
メリオさんはこちらを呆然と見つめながら、呟くように声を上げる。
「──た、たった1日で連れ込みかい……?」
「ち、違うんです!」
言葉の後、僕は彼らにここに至るまでの出来事を説明した。
◇
「そっか〜シュムちゃん大変だったのね……」
「にゃ〜大変だったにゃ〜」
あの後皆さんがルナさんの部屋へと集まったため、事情を説明した。
ちなみに何故かはわからないが、この説明の間にルナさんが僕とシュムを抱えるようにベッドへと腰を下ろした。おかげで僕の頭には彼女の双丘がふよふよと触れている。
シュムに至っては柔らかく頭を撫でられ続けて「にゃ〜」と至福の表情を浮かべながらふにゃふにゃになってる。
そんなルナさんに抱えられる僕たちの姿に苦笑いを浮かべつつ、メリオさんが口を開く。
「それにしてもまさか俺たちがいない間にそんなことがあったとはね」
「だな! びっくりだ!」
「尻尾かわいい……」
「僕も驚きましたよ。まさかこうも新しい出会いが連続するとは思いませんでしたから」
「猫耳もかわいい……」
「カ、カンナ大丈夫かい?」
「はっ! ごめんね! シュムちゃんが可愛すぎてトリップしてたみたい!」
「あはは。確かに愛らしいね。だから気持ちもわからなくはないよ」
「メリオさんたちは彼女に対する……その、差別とかはないんですね」
「そうだね。差別自体をする気がないというのもあるけれど、実は俺たちはこの国の出身ではなくてね。だから獣人に対する負の感情とかは一切ないんだ」
「そうだったんですね」
決して疑っていたわけではないが、僕は彼らがシュムに対して好意的であることをはっきりと見聞きし、ホッと息を吐いた。
「だからこそ、この国の獣人に対する扱いに対して憤りを覚えることもある! 故郷に獣人の友人がいるからこそ余計にな!」
「うん。アキレスの言う通り正直不満はある。まぁそれもあって近々……いや、これはまだいいか」
「……?」
「とにかく俺たちは彼女に対して好意的だ。だから安心してほしい」
「メリオさん……ありがとうございます!」
「それにしてもシュムちゃんはこれからどうするの?」
「にゃ〜? わからにゃいにゃ〜。まだにゃ〜んにも決めてにゃいのにゃ〜」
「そっか。じゃあ住むところも決まってないのよね?」
「にゃいにゃ〜」
「なら私と一緒に住む〜?」
「にゃっ?」
「えっ!?」
僕はルナさんのまさかの提案に思わず声を上げる。ルナさんは僕たちの反応を他所に言葉を続ける。
「あ、もちろんファンくんも一緒よ? ……ダメ?」
言いながら、ルナさんは視線をメリオさんへとやる。彼はその提案に驚きつつも、しかしなんとなくこういう流れになることはわかっていたのか、一瞬の逡巡の後苦笑を浮かべながらもうんと頷いた。
「……わかった。彼女もファン共々当分面倒を見ようか」
「やったー!」
ルナさんが満面の笑みで僕とシュムを抱きしめる。シュムは一連の流れについていけていないのか、キョロキョロとした後メリオさんへと視線をやり、小さく首を傾げた。
「い、いいのかにゃ?」
「あぁ。」
「やったにゃー!」
こうしてとりあえずおよそ1ヶ月の間ルナさんの部屋で3人で住むことになった。
……とはいえ僕ももちろんそうだが、シュム自身もこのままお世話になるだけではいけない。このいただいた時間を使って自立するための準備をする必要がある。
ということで僕はシュムに流れのままに問う。
「シュムって戦える方?」
「にゃ〜! 戦いは得意にゃ!」
「ほう! なら冒険者になるのが一番だな!」
「冒険者ににゃるにゃ!」
「シュム。冒険者がなにかわかってる?」
「わからにゃいにゃ!」
「あはは。だと思ったよ」
苦笑を浮かべた後、僕は冒険者についてシュムに簡単に説明をした。シュムは大仰に頷きながら話を聞く。そして全て聞き終わると、彼女はテンション高く声を上げた。
「おー! それ最高にゃ! 戦ってお金もらえるにゃ?!」
「まぁ、簡単にまとめるとそうだね」
「にゃるにゃ! シュム冒険者ににゃるにゃー!」
「ふふっ。それじゃあこの後私と一緒にギルドに行こっか」
「行くにゃ! ありがとうルナお姉ちゃんにゃ〜!」
「お、お姉……ちゃん!? ……シュムちゃん今のもう一回お願いしてもいいかな」
「にゃ? ルナお姉ちゃんにゃ!」
「……うぅ、なんて甘美な響き」
言って感動したように口元に手を当てた後、ルナさんはその視線をゆっくりとこちらへと向けてくる。
「……僕は言いませんよ」
「うぅ、ケチ〜」
そんなゆるいやり取りもありながら、とにもかくにもシュムと紫電一閃の皆さんの顔合わせは和やかなまま終えることができた。