10話 添い寝と語らい
お風呂から上がり、各々身体を拭き──一部拭いてあげたりはしたが──宿が用意してくれた服に着替える。
当然シュムは下着の替えなどないため、ノーパンである。しかし本人は「スースーするにゃ〜」と楽しげであった。
こうして清潔な服を纏った僕らはドライヤーのような魔道具で髪を乾かす。
シュムは相変わらず「乾かしてにゃ〜」と甘えてきたため、僕が乾かしてあげた。
出会ったばかりで甘やかしすぎかと自分でも思うが、彼女の境遇を考えるとどうも断ることなどできなかった。
シーツは風呂に入る前にすでに交換済みである。
こうして全てが完了し寝る準備が整ったところで、僕とシュムは同じベッドへと寝転がった。
「フカフカにゃ〜」
「ね〜気持ちいいよね……」
「にゃ〜」
しばらく寝具のフカフカ感を堪能していると、少しして「えいにゃ!」と言いながらシュムが僕の腕に抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと」
「にゃはは〜」
「まったく……」
そのまま無言の時間を過ごしていると、シュムが天井を見上げながら唐突に口を開く。
「今日は人生で1番幸せな日にゃ〜」
「1番って大袈裟じゃない?」
「そんなことにゃいにゃ。たくさん美味しいものを食べられて、こんにゃすごい宿に泊まれて、なによりもいい人のファンと出会えたにゃ〜だから1番幸せにゃ〜」
言葉の後、シュムは僕へと視線をやると満面の笑みを浮かべる。その可愛らしい表情を目にし、僕も微笑みを返す。
「シュム……僕も天真爛漫で、思わずこっちまで笑顔になっちゃうような、そんな太陽みたいな君と出会えて幸せだよ」
「にゃにゃ! それって愛の告白にゃ!?」
「そこまでではないかな」
「ふーん。まぁ、いいにゃ」
言葉の後、僕たちの間を静寂が支配する。しかし出会ったばかりだというのに不思議と気まずさはなく、むしろこの静けさが心地良くもあった。
……これが波長が合うとか相性が良いってことなのかな。
そんなことを考えつつ、ここで僕はふと思いついたことを彼女に問うた。
「……シュムはこれから予定とかあるの?」
「にゃーんもにゃいにゃ。ただ生きるだけ。それだけにゃ」
そう言った後、シュムはどこか遠くを見つめるような表情で言葉を続ける。
「あ、できれば獣人にも優しい場所に行きたいって目標はあるにゃ〜」
「獣人にか……」
この国にはやはり獣人に対する差別がある。たまたま宿のオーナーさんがいい人だったからこうして彼女を迎え入れることができているが、町および国全体を見れば彼女にとって生きにくい場所であることは変わりない。
……となるとシュムはいつか隣国を目指すのかな。
そう漠然と考えていると、ここでシュムが再び僕へと視線を向けてくる。
「そう言うファンはにゃにか予定あるにゃ?」
「うーん、直近だとまず紫電一閃のみなさんに頼らなくて済むように冒険者として活動しながら生活の基盤を整えること。で、そのあとは露店を開きたいってのが予定というより目標かな」
「にゃ〜ファンには目標がたくさんにゃ。羨ましいにゃ〜」
「シュムも……」
一緒に活動しないかと提案しようとし、僕は途中で言葉を止めた。
他人にお世話になっている僕が言えたことではない上、差別の多いこの国に彼女をとどめる要因になってしまうかもしれないとそう思ったからだ。
「にゃ? どうしたにゃ?」
「……なんでもないよ。そろそろ寝ようか」
「はいにゃ。ファン、おやすみにゃ〜」
「うん。おやすみ、シュム」
言葉の後、僕たちはお互いの存在を感じるようにくっついて眠りについた。