3話 紫電一閃
オークらしき魔物を討伐後、彼らはその魔物をバッグへとしまった。
明らかにサイズが合っていないのに収納できたということはおそらく空間魔法が付与されたバッグなのだろう。
それを所有しているということ、そして先ほどの戦闘の様子から彼らが高位の冒険者であることがわかった。
ともかく魔物をしまった後、僕は彼らに守られながら町へと戻った。
そしてその足でギルドへ向かい、報告や魔物の納品等を済ませる。
こうして一連の作業が完了したところで、僕はメリオさんに誘われ近くの飲食店へと向かった。
ギルドへ入った時もそうだったが、飲食店に入った際、周囲からどよめきが起こった。どうやら僕が知らないだけで、彼らはかなり有名な存在なんだろう。
……まさか町に来て早々にこんな凄い人たちと出会えるとはなぁ。
そんなことを考えつつ、僕はルナセアさんと隣り合うように席へと腰掛ける。
ここで僕の向かいに腰掛けた3人の内の1人、柔らかそうな髪をしたメリオさんが口を開く。
「それじゃ自己紹介といこうか。俺はメリオ。冒険者パーティー紫電一閃のリーダーをしている。年齢は14で、冒険者ランクはBだよ。よろしくね。じゃあ次は、カンナ」
「はーい! カンナだよ。年齢はメリオと同じ14歳で、冒険者ランクはCの水魔法使い。よろしくね! 次!」
「ん? 俺か! 俺はアキレス! 年はこのチーム最年長の17だ! 主にタンクをしている。んで冒険者ランクはBだ。よろしくな、少年!」
「最後は私ね。私はルナセア。ルナって呼んで欲しいな〜。で、年は15歳。冒険者ランクはCで、パーティーではヒーラーをしているわ。よろしくね〜」
「よろしくお願いします!」
彼らの自己紹介にそう返した後、僕は再度口を開く。
「では僕の番ですね。ファンです! 年齢は10歳でつい数時間前に冒険者登録をしたばかりの新人です! よろしくお願いします!」
「……ッ! まさか今日登録したばかりだったとは……」
「それでよく助けにきてくれたね! 怖くはなかった?」
言ってミディアムロングの髪を揺らしながら可愛らしく首を傾げるカンナさん。
「怖かったですが、助けを呼ぶ声が聞こえたら居ても立っても居られなくて……」
「ははっ! これは将来大物になるかもな!」
「間違いないね」
言ってメリオさんが柔らかく微笑んだ後、一拍置き言葉を続ける。
「それにしてもさっきは本当に助かったよ。えっとファンと呼んでもいいかな?」
「はい、お好きなようにお呼びください!」
「ありがとう。本当ファンが来てくれなかったらどうなっていたことか」
「あの、さっきの魔物は……」
「あぁ、あれはオークの変異種イビルオーク。ランクB相当の魔物だね」
「イビルオーク……」
「ファンは突然変異という現象を知っているかい?」
「いえ、はじめて聞きました」
「はいはーい! 私が説明するね! 突然変異っていうのはね、通常種の魔物が文字通り突然姿を変える現象のことを言うんだよ! 変異した魔物はランクでいうと1から2段階強化されるんだ〜」
「それは恐ろしいですね」
「この町近辺では数例しか目撃されてない珍しい現象なんだけどね」
「だからこそ、まさか自分たちのところで起きるなんて思わなかったから、焦ったな〜! ほんと、助けに来てくれてありがとねファンくん!」
カンナさんの声に続くように、紫電一閃の皆さんから「ありがとう」の声が届く。
「えへへ」
その声に僕が照れていると、ここでメリオさんが先ほどよりも小声で尋ねてくる。
「……それにしても俺の剣を直したあれは君のスキルなのかい? あ、スキルの詳細は言わなくてもいいよ。ただ見たことがないものだから少し気になってしまってね」
「あぁ、あれは僕のスキル『鍛冶』の力です」
「なに!?」
「えっ!」
彼らから驚きの声が漏れる。しかしそこに子爵のようなバカにした色はない。
別に特別なスキルでもない上、この人たちならきっと嫌な顔はしないだろうと思ってスキル名を出したのだが……どうやら僕の考えの通りだったようだ。
「まさかあの『鍛冶』をここまで使いこなす少年がいるとは……ファンには驚かされてばかりだね」
「使いこなせてはいませんよ。世のみんなが知らないだけで『鍛冶』にはまだまだ素晴らしい可能性があるんです」
「それは興味あるな。もし問題なければ、いつか君の力を見せてくれないかい?」
「いいですよ! また今度見せますね!」
「ありがとう。その時が楽しみだよ」
言葉の後、一拍置いてメリオさんが言葉を続ける。
「さて、それではそろそろ報酬の件に移ろうか」
「報酬……ですか?」
「あぁ……これなんだが」
言葉と共に、メリオさんがバッグから袋を取り出すとこちらへと見せてくる。
疑問に思いながらその袋を受け取り、中を見るとそこには大量の金貨が入っていた。
「依頼料の一部だ。ぜひ受け取ってほしい」
「いやいやいや! さすがに受け取れないですよ!」
僕はそう言いながら、袋をスーッと彼の元へと戻す。
「話を聞く限り君は駆け出しだ。ということはまだそこまでお金はないのだろう?」
「それは……はい。で、でもこんな大金貰っても、もし盗まれたら……」
「……それなら冒険者ギルドに預ければ……ってそうか。ランクによってはそもそも預けられないか」
これは最初の説明の時に受付嬢のリマさんから聞いたのだが、ランクCからは冒険者ギルドにお金を預けることができるようになるらしい。
どうやらメリオさんはそのランク制限のことを失念していたようだ。
その後も「いや、しかし……」と受け取ってほしそうにしていたが、僕はそれを拒否し続ける。するとメリオさんはうーんと悩んだ後、いいことを思いついたとばかりに口を開く。
「ふむ。なら……そうだね。今寝泊まりする場所はあるのかい?」
「それは……ないです」
「よかったら当分の間うちの宿にくるかい? たとえば生活の基盤が整えられるまでとか。それならお礼としてどうだろうか」
彼の提案を受け、僕は頭を悩ませる。
……きっとメリオさんの様子からして、なにかしらお礼をもらうことになるはず。ただ物やお金だと今の僕には分不相応なものが与えられそうだ。対して安全な宿は普通に嬉しい。それに生活の基盤が整えられるまでなら、そこまで長期間にはならなそうではあるか。
そこまで考えたところで僕は居住いを正すと、ペコリと頭を下げる。
「では少しの間お世話になります!」