2話 遭遇
声の元に到着すると、そこにはオークの亜種か、とにかく見たことがない凶悪な魔物と、それと対峙する冒険者の姿が見て取れた。
視線の先ではタンクだろうか、大盾を持った青年がオークらしき魔物の攻撃を必死に受け止めており、その後方で水魔法を使う少女が援護をしている。
さらにその後方では1人の少年が倒れており、そんな彼をもう1人の少女が魔法で治癒している。
「大丈夫ですか!」
僕がすぐさまそう声をかけながら近づくと、後方で少年を治癒していた桃色髪の少女が驚いた様子で声を上げた。
「えっ、子供!? 君! 危ないからすぐに逃げて!」
僕はすぐさま言葉を返す。
「町に戻って、助けを呼んできましょうか!?」
その声に少女は少しの逡巡を見せた後、うんと頷いた。
「……っ! 助け……わかった。それじゃ、お願いしてもいいかな?」
「はい!」
返事の後、僕がその場を離れようとしたところで治癒を受けていた金髪の少年が目を覚ました。
「メリオくん!」
「ごめん。油断した。状況は……」
「アキレスくんとカンナちゃんがなんとか抑えてる。ただ魔力も限界が近くて厳しい状況よ。ただ今この子が来てくれて助けを呼んできてくれるって」
「この子……」
メリオと呼ばれた金髪の少年視線がこちらへと向く。
「君が……そうか、それはありがたいね。ただ──それまで持つかどうか」
「持つかどうかじゃないわ。なんとか耐えるのよ」
「ルナ……そうだね。……くそっ、俺の剣さえ無事ならこんな──」
「剣?」
僕は思わずそう呟きながらメリオさんへと視線をやる。すると、彼のそばに根本から完全に折れてしまった剣が落ちていることに気がついた。
ここで僕はハッとすると口を開く。
「あの……」
「君、お願い! なるべく早く助けを──」
「その剣が直れば、この状況をどうにかできますか?」
「なにを……」
呆然とする桃髪の少女。その側でメリオさんは悔しそうな表情を浮かべながら「できる。できるさ」と言い、拳を握った。
その姿を目にし、僕はある提案を彼に持ち掛ける。
「ならその剣をお預かりしてもよろしいですか。──僕が1分以内に直してみせます」
僕の声にメリオさんは目を見開く。しかし僕の表情から何かを読み取ったのか、すぐさまうんと頷いた。
「きみは……わかった。頼めるかい?」
「はい!」
返事をした後、僕は彼から折れた剣を受け取った。
……っこれは。ダンジョンの出土品か? 素材が何かわからない。ただ……折れた箇所を繋ぎ合わせるだけなら、今の僕でも何とかできそうだ。
内心でそう思うと、僕は柄の部分に折れた剣身の箇所を合わせると、全体に薄く魔力を馴染ませる。
……ぐっ! やっぱりいつも以上に魔力消費が激しい! でもやるんだ!
次いで僕はハンマーを召喚すると、折れた部分目掛けてそれを振り下ろしていく。
「これは……」
驚くメリオさんの声を受けながら叩き続けると、徐々に剣が接合されていく。
……なんてことない、魔力で剣を柔らかくし、折れた箇所がくっつくように仕向けただけだ。
「すごい……!」
こうして叩き続けること丁度1分。
「よし」
僕の手にはきちんと接合されたメリオさんの剣が握られていた。
ちなみに魔力を流したことで、ほんの少しではあるが強度が高くなるおまけ付きである。
「メリオさん。どうぞ!」
言葉と共に剣を手渡す。メリオさんはこれを受け取ると、接合箇所へと目をやる。
そして「これは前よりも質が良く……これなら……」と呟いた後、ニッとした笑みと共に僕へと視線を向けた。
「ありがとう少年。これならあいつを倒せる……ルナ、少年と共に少し下がっていてくれるかい」
「う、うん。気をつけてね」
「あぁ」
ルナと呼ばれた桃髪の少女にふわりと抱かれながら、僕たちは数歩魔物から遠ざかる。
対してメリオさんはブンッとその場で剣を振った後、ゆっくりと魔物へと近づいていく。
一歩、二歩と歩みを進め──少ししてバチッバチッという音と共に彼の足元に稲妻が走り出す。
同時にメリオさんは「アキレス! カンナ!」と前線に立つ彼らの名を呼ぶ。
そして次の瞬間、彼の姿はいつの間にかオークらしき魔物の頭上にあった。
「…………えっ?」
瞬間移動したのかと疑うほどの速度に僕は呆然と声を漏らす。
そんな僕の視線の先で、メリオさんは一度空中に静止をすると、全身に稲妻を走らせながら呟くように声を上げた。
「──紫電一閃」
瞬間、空中にいたメリオさんが姿を消え、オークらしき魔物の首元へ雷が走った。
………ッ!
あまりの光量と威力に思わず目を背ける僕。そして光が収まった時、再び目を向けると、そこには剣を振り抜いた状態で地に立つメリオさんと、首の落ちたオークらしき魔物の姿があった。
「ふぅ……」
メリオさんは剣を鞘に収めると、小さく息を吐く。その瞬間、前線で水魔法を使用していた水色髪の少女、カンナさんが勢いよく彼へと抱きついた。
「わーん! 怖かったよー!」
メリオさんは「よしよし」と言いながら、彼女の頭を撫でる。
その近くでアキレスと呼ばれていた赤髪の青年が、腰に手を当てながら豪快に笑い声を上げた。
「いやー、間一髪だったな!」
「本当、間に合ってよかったよ」
目前で笑いあうメリオさんとアキレスさん。メリオさんに抱きつきながら大泣きしているカンナさん。
そして僕をその豊満な胸に抱きしめながらホッと安堵の息を吐くルナセアさん。
そんな個性豊かな冒険者パーティーの活躍により、とにもかくにもオークらしき魔物による危機は去ったのであった。