エピローグ 突然の別れ
その日は突然やってきた。
いつものように自身の家で『鍛冶』のスキル向上のために修繕を行なっていると、何やら外からザワザワとした声が聞こえてきた。
「……ん、どうしたんだろ」
不思議に思い外に出ようとすると、ここで走り寄る音ともに家の扉をノックする音が響き渡る。
「デルフだ。入ってもいいか!」
「どうぞ!」
言葉の後、デルフさんが家の中へとやってくる。その表情はどこか慌てた様子であった。
僕は疑問に思いつつも彼に問いかけた。
「デルフさん、そんなに急いでどうしたんですか」
「子爵様の……」
「子爵様?」
「子爵様の使いの方が村に来られた。なんでもファン、お前に用があるそうだ」
「僕に!? どういうことですか?」
「俺にもわからない。今はリーダーが対応してくれている。とりあえず急いで準備をしてくれ。すぐに向かうぞ」
「わ、わかりました!」
言葉の後、僕は軽く準備をすると、デルフさんに続いてボッケさんが対応しているという子爵家の使いの元へと急いだ。
◇
村の入り口には、ルヴィアちゃんの時ほどではないが、この村ではまずお目にかかれないような馬車と、馬に乗った数人の兵士の姿。あとは冒険者らしき人々の姿が見てとれた。
「リーダー、ファンを連れてきたぞ」
「ほう、この子がファンか」
子爵様の使いらしき男が声を上げる。僕は失礼がないようにとすぐに挨拶をする。
「えっと、こんにちは。ファンです。本日はどのようなご用件でしょうか」
「今回はお前にとって喜ばしい話を持ってきた」
「喜ばしい話……ですか」
「あぁ。なんとあのガルド子爵様がその能力を見込んで謁見の後、町の一兵士として雇ってくださるそうだ」
「へ、兵士ですか?」
……ど、どういうことだ!? 兵士!? それに能力を見込んでって、まさか僕の能力を知られている?
僕は内心動揺しつつもそれを表に出さないよう努めながら言葉を続ける。
「わ、私には兵士が務められるような戦闘系スキルはございませんが……」
「もちろん把握している。だから兵士といっても戦場に出したりはせず、主に武具の強化に当たってもらう」
「……なるほど」
「さてそれでは早速町へ向かおうか」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「なんだ? まさかガルド様の申し出を断るとは言い出さないよな」
……くそ。断ることはできそうにないか。
「も、もちろんです。ただこれで離れ離れになるのです。だから最後に村のみんなに少しだけ挨拶をする時間をいただけませんか」
「……よろしい。ただしすぐに済ませるように」
「はい!」
言葉の後、兵士は僕たちの元を離れ、馬車や他の兵士たちの側へと戻った。
僕はその姿を確認するとともにすぐさま皆の元へと駆け寄った。
「ファン……」
「みなさんすみません。あまりにも唐突ですが……どうやらお別れのようです」
「すまねぇ、すまねぇファン。俺がギルドでもう少し上手くやりゃこんなことには……」
「ボッケさんのせいではありませんよ。あの場ではああ言う以外に疑われない方法はありませんでしたし」
一拍置き、僕は言葉を続ける。
「それに謝る必要ありませんよ。確かにみんなと別れるのは寂しいですが、これはある意味登用ですから。僕の人生にとってはきっとプラスに働く事柄のはずです」
「ファン……」
「改めてみんな今までたくさんの愛をありがとうございました! 今回の件をプラスに捉えて、たくさん成長してまたここに帰ってきます! だからその時までどうか元気でお過ごしください!」
「ファンー!」
皆が僕の元にやってくる。
……あぁ、僕は幸せものだ。
僕は揉みくちゃにされながら心の中でそう思うのであった。