17話 町へ
狩りチームが怪我少なく帰ってきたことに村みんなで喜びの声を上げた後、すぐさま可能なメンバーでウルフの解体を行った。
そしてその後は狩りの成功を讃えるように、村のみんなで集まり小さな宴を行った。
宴とはいっても貧村であるため酒などはない。あるのはウルフの群れ討伐で得た大量の食材のみであったが、しかし久しぶりにお腹いっぱい食べられたこと、そして脅威が去ったことでみんなの表情は活気で満ちていた。
ちなみに今回のウルフの群れの件だが、なにも悪いことばかりではない。
いやむしろ皆が無事に帰ってこれた上に全匹討伐できた以上大幅にプラスといえる。
なぜならばウルフの素材を大量に獲得することができたからだ。
その内の肉は宴で食べたり、一部は干し肉にしたりと食材として村で有効活用することになっている。
対してウルフの毛皮は使い道はあるが、それ以上に売った方が有用だという判断に至った。
しかし現状行商人が当分訪れないことが確定しているため、これを売る方法がない。
はてさてどうするか。そう考えていると、ボッケさんが「なら町に行くか」と皆に伝えた。
どうやらボッケさんの話によると、近くの町までは歩いてだとかなり時間がかかるが、行けない距離ではないらしい。
これまでは行く予定がなかったが、こうして目的があるのならば行っても良いのかもしれないとのことであった。
ここで続けるようにボッケさんが口を開く。
「それにどうせならファンに町を見せてやりたいしな」
「えっ僕も連れて行ってくれるんですか!?」
「おう! 今後のための良い経験になるし、なによりこの毛皮が手に入ったのはファンの力のおかげでもあるからな」
「いやいや! みなさんが頑張って戦ったおかげですよ!」
「ファンは相変わらず謙虚だなぁ。で、どうするよ。町へ一緒に行くか?」
「はい! いってみたいです!」
「よし! んじゃ明日出発だからな。遅れるなよ〜」
こうして何とも唐突ではあるが、初めて町を見に行けることになった。
◇
今回はお金の関係もあり、ボッケさんとの2人旅となった。
ということで時間通り集合した僕たちは町へ向けて少しずつ歩みを進める。
時折休憩を挟んだり、野宿したりと貴重な体験もしつつ経過することおよそ2日。
僕たちは目的であった近隣の町──ガルドの町へと到着した。
「ここが……」
思わず外観を眺めて呆然としてしまう。
町の周囲は魔物から身を守るためか、簡易的な城壁で覆われている。そして町の唯一の入り口なのか、目の前には大きな門があり、そこには門番が複数存在し、町に入る人々の管理を行なっている。
「ファン、これをもっとけ」
「あ、ありがとうございます」
僕はボッケさんからお金をもらう。
ボッケさんは以前町に来たことがあるようで身分を証明する冒険者証を提示することで入場できる。
対して僕は身分証が何もないため、現金を支払うことで入場の許可をもらう必要があり、これはそのためのお金である。
こうして準備の整った僕たちは町に入るための列へと並ぶ。そして自身の番が来た時には身分証とお金を渡し、無事に門を抜けることができた。
僕たちはいよいよ町へと入る。
「うわぁー!」
町を目にした瞬間、僕は思わず感嘆の声を上げた。しかしそれも仕方がないだろう。
なぜならば目に映る町の全てが新鮮であり、村とは比較するのも烏滸がましいほど発展した町並みが広がっていたのだから。
「これがガルドの町……」
「どうだ! すげぇだろ!」
「はい! すごいです!」
「だよな。俺も初めてきたときは、その大きさに圧倒されたもんだ!」
ボッケさんはそう言ってうんうんと頷いた後、言葉を続ける。
「うし。んじゃゆっくりと眺めつつまずは冒険者ギルドへと向かうか」
「はい! お願いします!」
言葉の後、僕たちはまず1番の目的であるウルフの毛皮を得るため、冒険者ギルドへと向かった。
◇
ギルドは町の中心に位置しているようで、到着までにそれなりの時間を要した。
しかしその間に町並みを堪能することができたため、ある意味ありがたいといえる。
「ここが冒険者ギルドだ。入るぞ」
「は、はい!」
僕は少し緊張を滲ませながら冒険者ギルドへと入る。
……というのも前世の知識だと、冒険者ギルドは荒くれ者の巣窟というイメージがあったからだ。
「あ、あれ……」
しかし実際に入ってみると、予想に反して整然とした内装であった。それに冒険者たちも強面の人や荒々しい見た目の人も何人か見受けられたが、だからといって僕たちに絡んでくるような面倒なタイプの人間は存在しないようであった。
……時間帯の問題? それともこの世界では冒険者ギルドって意外としっかりしたところなのかな。
内心そんなことを思いながらボッケさんの後に続き受付へと向かう。
「冒険者証の提示をお願いいたします」
「はいよ」
「お預かりいたします。少々お待ちください」
言葉の後、受付嬢が冒険者証を機械へと入れた。
……町並みと比較するとずいぶんと高度な機械だな。これが魔道具ってやつだろうか。
そんなことを考えると少しして冒険者証が機械から排出された。
受付嬢は頷くと、冒険者証をこちらへと返してくる。
「確認できました。ハナレ村のボッケさんですね。本日はどのようなご用件でしょうか」
「あぁ。ウルフを大量に狩ったからな、その素材を売りに来た」
「ウルフを……失礼を承知でお聞きいたしますが、村の皆さんで討伐されたんですか?」
「おう。誰の力も借りずに……ってか借りれないからな。俺たちだけで討伐したぜ」
「そんなことが……っと、その武器は──」
「詳しくは言えないが村の人間が有用なスキルを持っていてな、それで直してもらったんだ」
「なるほど。確かにその武器があれば討伐は可能かもしれません。疑ってしまい申し訳ありませんでした」
「いいってことよ」
「では買い取りの方させていただきますね。こちらに素材をお出しください」
「はいよ」
言葉の後、ボッケさんはウルフの毛皮を受付へと置いた。
「1、2、3、4……かなりの数ですね。ただ状態は……とても良さそうです。それではこちら鑑定させていただきますので、あちらの受付前でお待ちください」
「あいよ」
そんなやりとりの後、僕たちは指定された受付前へと向かった。そこで待つことおよそ数分。すぐにボッケさんの名が呼ばれたため、指定の受付へと向かい、そこでお金を受け取った。
「うし。これで目的は達成だな」
「素材を売るだけでもとても楽しかったです」
「だろう? 見たことない魔道具とかたくさんあるもんな。それに受付嬢の姉ちゃんは美人だし……」
「ボッケさん奥さんに言いつけますよ」
「じょ、冗談だよ! だからそれだけはやめてくれ……」
「あはは」
そんなやりとりの後、僕たちはいくつかの店を回り、村に必要な品々を購入した。
その後は安い店で食事をとった後、これまた安宿に向かいそこで一泊。こうして英気を養った僕たちは特にトラブルに巻き込まれることもなく町を後にした。
◇
ファンとボッケが冒険者ギルドを離れて少し経過した頃、受付でたまたま彼らの後ろに並んでいた兵士たちが、業務である町の巡回をしながら会話をしていた。
「さっきの話本当かね」
「あぁ、武器の話な。本当なんじゃないか? だってハナレ村って貧村だろ? それがあんな……」
「あぁ、ずいぶんと高品質の武器を身につけていた。あの男だけじゃなく、ガキの方もな。……となるとやっぱり、ハナレ村には有用なスキル持ちが眠っているのかもしれないな」
「……一応ドリア様の耳に入れておくか?」
「あぁ、そうするか」