14話 よくない噂
ルヴィアちゃんがいなくとも、日々は変わらず回る。
しかしそんな日常の中でも以前とは変化した部分も存在する。
その1番大きなところといえば、デルフさん、クレノアさんと一緒にご飯を食べる機会が増えたことだろう。
ルヴィアちゃんがいなくなったことでその分村の食料に余裕が出たというのもあるだろうが、きっと最たる理由としては彼らの寂しさを紛らわすためであろう。
それについて特に思うことはないし、むしろこれまで1人で食べる日が多かった僕からすれば、どんな理由であれ共に食事をとる人がいることはとても嬉しいことだった。
と、そんな小さな変化もありつついつも通りの生活をすることおよそ2週間。
この日は狩りに赴く日だったのだが、その中でボッケさんからあまりよくない噂話を聞いた。
その話はこの村に時折来てくれる行商から伝わった話のようだが、なんでもこの村の近くに魔物の森を抜け出したウルフの群れの目撃情報が多数寄せられており、それ故に当分この村には来れないということらしい。
数少ない行商が当分来なくなるというのは村にとってかなりの痛手である。
しかし行商も命が大事。それにこの見捨てられた貧村までたまにでも来てくれる善人である以上、引き止めるという選択肢はなかったようだ。
……行商も問題だけど、それ以上にウルフか。
ウルフ。その名は僕、ファンの記憶にはっきりと刻み込まれている。
なぜか。それは以前ウルフの群れが出現し、これを撃退した際に、父が大怪我を負ったからである。
結果父はその怪我により亡くなったし、他にも何人もの死者が出た。
そんな因縁の相手がこのウルフの群れなのだ。
だからこそ、皆の表情が優れない。
しかしだからといってこのまま静観していては、いずれ村が襲われることになってしまう。故に僕たちはそうなる前にこのウルフの群れと対峙し、撃退か討伐する必要があるのだ。
その際に外部の力は借りられない。
貧村故に冒険者を雇う金もなければ、距離的にも助けを呼べるほどの時間的猶予もないからだ。
つまりこの村の危機に対しては、僕たち村人だけの力でどうにかするしかないという訳である。
そんな噂が村中に広がったのだろう、ここ最近活気付いていた村に不穏な空気が流れはじめた。
◇
翌日。ボッケさんの声かけにより、村人全員が一堂に会した。
狭いコミュニティ故にすでに噂話は広がっており、皆なぜ集められたかは理解しているようだ。
「今回集まってもらったのは他でもない。最近村の近くを彷徨いているというウルフと、その対応について話し合うためだ」
そう言って皆の視線を集めた後、ボッケさんは言葉を続ける。
「これまでの経験からある程度わかっているとは思うが、今回も当然外部の力を借りることはできない。そんな金も時間もないからだ。つまりこれは俺たちだけで解決しなければならない問題となる」
「いつものこんだわな」
「だねぇ。でもどうするさね。わたしゃ戦えないよ」
「対応については狩りチームの方である程度考えた。まずはそれについて話していこうと思う。……と、その前に皆に問いたいのだが、この村を捨てて逃げるという選択肢のやつはいるか?」
「そんなんいるわけないべ」
「そもそも逃げ場もないしな」
「つまりみんな残ってなにかしら協力してくれるというわけだ。んじゃその上でどう対応するかこれから話していこうと思う」
言葉の後、ボッケさんからそれぞれの役割について説明があった。それをまとめるとこうだ。
まず基本的な戦闘に関しては狩りチームの面々で行う。ただし、僕については戦闘経験も浅く、ウルフと対峙したことがない以上どうしても足手纏いになってしまうため、今回は村で待機となる。
村に残る面々、つまり狩りチーム以外と僕については村の防御を固めるために、木製の柵を強化し、守りを固める作業を行う。
「とまぁ簡易的だが、以上が今回の役割分担だ。もちろん狩りチーム、それ以外の中でも細かな役割の割り振りはあるが、それは各チームのリーダーに伝えておく。なので今後はリーダーに聞くようにしてくれ。……ってのが今回支えたかった情報だが、何か質問や意見があるやつはいるか?」
ボッケさんのその言葉に、僕は真っ先に手を挙げる。
「ファンか。どうしたんだ」
「えっと一つ提案なのですが、時間の許す限りで狩りチームの皆さんの武具を強化させてほしいです」
「なに強化だと! そんなことができるのか!?」
「はい。武器を制作する中で、魔力の込める量によって武具の質が変わることがわかりました。なので魔力を込めながら再び鍛え直せば、みなさんの武具をより強化することは可能だと思います」
「本当か! ファン、それは是非お願いしたい!」
「わかりました。では僕の役割はメインが武具の強化で、魔力がなくなったら残りの時間で皆と協力して柵を強化する感じでよろしいでしょうか」
「あぁ、それで頼む。……デルフ、またいつものように強化の順を管理してもらえるか?」
「了解」
こうして村の有事に対して僕のやるべきことが決定した。