13話 一時の別れ
槍完成から数日。ついにルヴィアちゃんの旅立ちの日になった。
村の入り口にはこれまでみたことないほどに荘厳な馬車と、護衛だろうか騎士団らしき人々が何人か近くで馬に乗っている。
……随分とVIP待遇だなぁ。
そう思うのと同時に、なんだかルヴィアちゃんが遠い存在になってしまったような感覚を覚えた。
僕はそのことを少し悲しく思いつつも、努めてそれを表に出さないように騎士団とルヴィアちゃん一家のやりとりを眺める。
少しして会話が終わったのか、涙を浮かべたデルフさんとクレノアさんがルヴィアちゃんの元を離れこちらへとやってくる。
それから騎士団のリーダーらしき女性とルヴィアちゃんが少し会話した後、彼女がひとり僕たちの元へとやってくる。
そして小さく深呼吸したあと、目に薄らと涙を浮かべながらも努めて凛とした表情を浮かべると僕たちに声を掛けてくる。
「みんなこれまでたくさんありがとう。みんなと離れるのは寂しいけれど、目標の有名な冒険者になることを目指して、王都で頑張ってくるわね」
その声に村のみんなが口々に声を掛ける。そんな中いつ渡そうかと考えていると、ここでデルフさんにトンと背中を押される。
振り向くと彼はうんと頷く。僕は頷き返すと、ルヴィアちゃんの元へと近づく。
「あ……ファン」
「ルヴィアちゃん」
僕たちは見つめ合う。ルヴィアちゃんはこちらを見ながら何やら思うところがあるような泣きそうな表情をしている。
……ダメだ。こっちも泣いてしまう。
そんな彼女の表情に思わず涙ぐみそうになるも、僕は首を振りグッと口を結んだあと、抱えていた槍をルヴィアちゃんへと渡す。
「ルヴィアちゃん……これ」
「これ……は。もしかしてファンが?」
「うん。『鍛冶』で作った。どう……かな?」
「嬉しい……すごく嬉しいわ。ありがとうファン!」
言葉の後、ルヴィアちゃんは表情を明るくすると、僕へと抱きついてくる。
僕は槍に当たらないように注意しながらも、彼女をぎゅっと抱きしめ返す。
こうして抱き合うこと十数秒。僕たちは名残惜しさを感じながらもゆっくりと離れる。
「ルヴィアちゃん、お別れだね」
「ファン……そうね」
「でも、これで最後じゃないよ」
「……え」
「きっと会いに行く」
「ファン……」
「今の僕はまだこのレベルの武器しか作れないし、弱くてダメダメかもしれない。だけど! いつか最高の武器と防具を身に纏って、ルヴィアちゃんと肩を並べるくらいの人間になって、君の元へ会いに行くから。だからその時にまた会おうね」
そう声をかけると、涙ぐむ僕の前でルヴィアちゃんの目から涙が溢れる。
「うん……絶対、絶対よ……! 約束を違えたら許さないんだからね!」
「違えたりしないよ。神に誓ってね」
「少年、そろそろいいかね」
遠くから騎士の女性が歩いてくる。僕は彼女に向けて小さく頭を下げる。
「お時間取らせてすみませんでした。もう大丈夫です」
「……ん、そうか」
言って頷くと、騎士の女性はその姿勢をルヴィアちゃんへと向ける。
「ルヴィア様、こちらへ」
「またね、ファン」
「うん。またね、ルヴィアちゃん」
そんなやりとりの後、ルヴィアちゃんは馬車へと乗り込んだ。それから少しして馬車が走り出した。
段々と離れていく。その姿をじっと見つめながら、僕は小さく呟くように声を漏らす。
「……絶対に会いにいくからね」
──こうして僕は唯一の友達と離れ離れになった。