12話 僕にできること
どうやら1週間後に王都から迎えがくるらしい。つまりわかりきっていたことではあるが、あと1週間で彼女とお別れになるということだ。
彼女と会えない期間がどのくらいになるかはわからない。ただ少なくとも王都との距離や僕の貧村での生活を考えれば、それが年単位の別れであることは容易に想像がつく。
ちなみにこれまでもそうだが、どうやらこれからも会えるタイミングはないらしく、最後に会えるのは旅立ちの日になるらしい。
「ずいぶんとあっけない別れだなぁ」
これまで長い時間を共にしてきた幼馴染との唐突な別れに、僕は思わずそう呟いてしまう。
しかし何を思おうと彼女が王都に行くという事実は変わらない。それにある意味では彼女の目標であった有名な冒険者になるためには最高の状況であることには変わりないため、複雑ながらも応援したいという気持ちもあるのが現状だ。
「最後にできること……なにかあるかな」
幼馴染との別れ、そして彼女にとっては祝福の門出でもある今回の旅立ち。
その日を目前にしてはたして僕にできることは何かあるのだろうか。
「『焔槍術』だったよね」
彼女のスキルを改めて思い出す。
『焔槍術』とはその名の通り、槍を上手く扱えるようになる上、火属性の魔法も使えるようになるという近接遠距離の両方を賄える凄まじいスキルだ。
魔法については正直あまりわからないが、槍術からメイン武器が槍であることははっきりとわかる。
ただしこの村の武器修繕を行った中でわかったことなのだが、今この村には狩りで使用しているもの以外に槍は存在しない。
と、そこまで考えたところで僕はふと妙案を思いついた。
「そうだ! 槍を手作りして、それを渡せば!」
……少なからず喜んでもらえるのではないか?
「よし、これでいこう!」
僕はひとりそう決定すると、すぐさま近所の家へと向かった。
◇
それから3日後。僕は今日彼女専用の槍を作ることにした。
さて槍といっても様々あるが、今回は扱いやすく、かつ色々な戦闘スタイルに対応できるように斬ると突くが両方できる形にしようと考えている。
サイズに関してはこれまでの狩りの経験と、散々遊んできたルヴィアちゃんの身長からおおよそ確定した。
「んーそうだなぁ。柄が1m、穂が30〜40cm辺りが理想かな」
次に素材についてだが、これは現状用意できるものが鉄であるため、ここは仕方がなく鉄を使うことになる。
ちなみに今回は柄の部分から穂にいたるまで全てを金属にする予定だ。
本来そんなことをしては重すぎてしまい、華奢なルヴィアちゃんでは扱うことが難しくなるだろう。
しかし彼女は『焔槍術』を得た。これは戦闘系スキルを持つ人間全てに言えることなのだが、なんと戦闘系スキルを手に入れると、それに順応するかのように力が増加するのである。
以前冒険者ごっこをした際、レベルアップにより僕の方が力がある状態になっていた。しかしたとえば今同様に競り合った場合、なんとも悲しいことだが、間違いなく僕が力負けすることであろう。
あの時よりも数レベル上がった今であってもだ。
それだけ戦闘系スキルを手に入れた際の身体能力的優位性は高い。
だからこそ全てが金属でできた槍であっても、彼女なら扱いこなせるとそう踏んだわけだ。
「さてと、そろそろ作るか」
材料となる屑鉄はすでに目の前に大量にある。これは槍を作ると決めてから村の家々を回り、修繕のお礼として分けてもらったものである。
まずはこれを自身の剣を自作した時と同様に修繕を加えながら一塊にしていく。
続いてその塊をおおよそ2つの塊に分けていく。柄の部分を作る用と、穂の部分を作る用である。
今回はこれらをそれぞれ別で作成し、最後にその2つを合わせる方法でいこうと考えている。
ということでまずは穂の部分から作っていく。穂の形状としては笹穂槍を参考にしようと考えている。
「まずはおおよその形を作って……っと」
そう呟きながら召喚したハンマーを使用し、鉄塊を適切な力で叩いていく。この時きちんと魔力を流すこと、形状をイメージすることを忘れない。
こうしてある程度形状ができた所でよりイメージを明確にしながら細部を整えていく。
そして形ができた所で砥石を召喚。刃をより鋭利になるように何度も何度も丁寧に研いでいく。
「……よしこんなもんか」
様々な方向から出来を確認し、納得のいくできであることに僕は満足げに頷き、その流れのまま続いて柄の部分の作成に移る。
この柄の部分が正直かなりの難度だといえる。通常ハンマーのみで円柱型の形状を作ることはない。
しかし僕のスキル『鍛冶』の場合は、この部分もまたハンマーと砥石のみで仕上げなくてはならない。
前世の知識では考えられないことだが、これもイメージ力と魔力の力、なによりも『鍛冶』のスキルがあれば可能となるのだ。
ということで僕は早速ハンマーで叩きつつ形状を伸ばし、円柱型に整えていく。
「んーむずかしい」
その難度に思わず唸りながら僕は少しずつ形を作っていく。
こうして叩き、研ぎを繰り返すこと数時間。ようやく僕は柄の部分を完成することができた。
ここまでできればほぼ完成したもの同然だ。
僕は内心ワクワクしながら柄の部分と穂の部分を魔力を流しながら接続させる。
「よし! できたぞ!」
思わず声を上げながら、完成したルヴィアちゃん専用の槍を持ち上げようとする。
「んぐぐ。お、重い……」
その重さに思わず唸り声を上げつつも、しっかりと両手で持ち上げる。
現状の僕の力ではこれを振るうことはできない。しかし少しだけ動かし、重心等問題はないか確認することはできた。
「……うん。完璧だ」
初めて槍を作ったが、思わず自画自賛してしまうほどの完成度になった。
それはきっと様々な理由があるだろうが、おそらくはイメージをした際にルヴィアちゃんの姿を強く思い浮かべたことも要因の一つであろう。
「思いの強さも完成度に影響するってことだね」
言葉の後、僕は視線を天に向けながらポツリと呟くように声を漏らす。
「ルヴィアちゃん……よろこんでくれるといいな」