11話 ルヴィアのスキル鑑定
それから1週間後。本日はめでたくもどことなく緊張感の漂う1日である。
というのも、僕の幼馴染であるルヴィアちゃんが10歳になったため、この後スキル鑑定を行うことになっているのである。
……ルヴィアちゃんもきっと緊張してるだろうな。
そう思うといてもたってもいられなくなり、僕はルヴィアちゃんの家を訪れた。
「ルヴィアちゃんいるー?」
「ファン!? 待ってて今行くわ!」
言葉の後、ドタドタという足音と共にルヴィアちゃんが姿を現した。
さて、今日はスキル鑑定式当日ということもあり、前世でいうところの成人式のようなめでたい日でもある。
故に町などでは鑑定式に臨む少年少女たちは着飾ることが多かったりするのだが、あいにくとここは貧村。
当然そんな高価な服を購入するほどの余裕はないため、ルヴィアちゃんの服装はいつも通りであった。
そんな普段通りの姿に僕はどこか安心感を覚えながら、彼女へと声を掛ける。
「ルヴィアちゃん10歳のお誕生日おめでとう!」
「ありがと! なにわざわざ言いにきてくれたの?」
「それもあるけど、ほらルヴィアちゃん緊張してないかなって気になっちゃって」
「緊張? なんで?」
「えっ、だってスキル鑑定するんだよ? それで人生の方向性がある程度決まるって考えると緊張しない?」
僕がもっともなことを言うも、しかしルヴィアちゃんはキョトンとしながらさも当然とばかりに声を上げる。
「しないわよ。だって私が戦闘系スキルを手に入れることは確定してることだもの!」
「すごい自信だ!」
「あとはそれが剣術なのか、槍術なのか、それとも魔法なのか。その違いがあるくらい。だからぜーんぜん緊張なんてしてないわ。むしろ早く来ないかなってワクワクしてるくらいよ!」
「強いなぁルヴィアちゃんは。僕なんか前日は緊張で眠れなかったのに」
「あはは。前日私に抱きついてきたものね。こわいよーって」
「ちょっ、それは言わない約束でしょ!」
僕が狼狽すると、ルヴィアちゃんが小悪魔のような笑みを浮かべる。
全く年下だというのに、なんとおませな子だろうか。いや、むしろ僕が幼すぎるのか?
と、そんなやりとりをしているとここでデルフさんがやってきた。
「鑑定士様がお見えになった。さぁ、ルヴィアいこうか。ファンも一緒にいくか?」
「もちろんです!」
「ありがとう。それじゃみんなで行こうか」
言葉の後、僕たちは鑑定士の元へと急いで向かった。
◇
現在僕の目の前で鑑定士とルヴィアちゃんが向かいあって立っている。
これから鑑定士が『鑑定』のスキルを使い、ルヴィアちゃんの手に入れた能力を確認することになる。
彼女と鑑定士の周りには僕を含め、村人全員が集まっている。それくらい鑑定式という日は重要で、得るスキルもまた重要なのだ。
それも貧村であればあるほどに。
横に目をやると、デルフさんとクレノアさんが緊張した面持ちで祈るように見つめている。
……そりゃ普通は緊張するよなぁ。これで娘の行く末が決まるんだもの。
対して鑑定士のルヴィアちゃんは決して強がりでもなんでもなく、本当に自信満々といった勝気な表情をしている。
……やっぱルヴィアちゃんが特別なんだなぁ。
その自信に溢れた姿に僕は内心そう思った。
と。そんなこんなしている内に鑑定式が始まった。
まずはお決まりの文言を鑑定士が読み上げる。そしてその退屈な時間を過ぎると、鑑定士がルヴィアちゃんへと手をかざし、スキルを使用する。
「『鑑定』」
瞬間、ルヴィアちゃんの身体がうっすらと輝き、すぐに輝きが収まる。
これが『鑑定』が終了したという合図だ。
「『鑑定』は完了した。それではその結果をこれより読み上げる」
シンと静まり返る中、鑑定士の声だけが響き渡る。その声に僕がより緊張を増していると、ここで一拍置き、鑑定士が再び口を開いた。
「ルヴィアのスキルは……!?」
ここで鑑定士がなにやら驚愕に目を見開く。
……な、なんだ!?
そのまさかの事態に僕がさらに緊張していると、鑑定士が「失礼した」という声の後、再び声を上げた。
「ルヴィアのスキルは……『焔槍術』である」
「え、『焔槍術』だと!?」
デルフさんが驚愕の声を上げる。もちろんみなさんも同様に驚いているし、僕も彼らと同じか、むしろそれ以上に驚いている。
なぜならば『焔槍術』というスキルは、過去にSランク冒険者として名を馳せたとある女性が有していたとされる、戦闘系スキルの中でも最上級に強力なスキルだったのだったからだ。
「……以上で鑑定式を終了とする。ルヴィア、そしてその家族はこの後伝えることがあるためこの場に残るように」
鑑定士がいまだ驚愕を顔に出したままそう告げる。その声を受け、皆騒然としながらもそれぞれの家へと帰っていく。
もちろん僕も帰る。ただその前に一目見ようとルヴィアちゃんへと視線を向ける。
すると彼女は喜びながらも、どこか現実味がないようなそんな曖昧な表情を浮かべていた。
◇
──ルヴィアちゃんがこの村を離れることが決まった。
初めてその話を聞いた時、思わず呆然としてしまったがどうやら確定事項らしい。
ではなぜ村を離れることになったかというと、なんでも強力なスキルを得たが故に特待生として王都にある国内一の学院に入学することが決定したからである。
──強力なスキルを有するものには高度な学習を。
たとえ貧村出身のルヴィアちゃんが対象とはいえ、その事実は変わらないらしい。
……んー、寂しくなるなぁ。
家で1人、僕はそう思う。
あの鑑定式以降、実はルヴィアちゃん一家とは会えていない。なんでもルヴィアちゃんが単身で王都に向かうことになるため、家族との別れを惜しんだり、また相応の準備をしたりとやることがたくさんあるようだ。
……ルヴィアちゃんが王都に行くって話も狩りメンバーから聞いたしね。
実は狩りからの帰りに一度ルヴィアちゃんの姿を遠目から見かけたことがあったのだが、彼女はとても不安そうな表情を浮かべていた。
その姿に思わず声をかけたくなったが、ボッケさんに止められた。僕がこのタイミングで声を掛けるのは彼女にとってよくないことらしい。
そのことにどうも納得ができず、しかし忙しそうにしている彼女の邪魔をするわけにもいかず、結局直接会話をしないまま旅立ちまで1週間となった。