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10話 VS ゴブリン

 狩りの日。いつものように狩りのメンバーのところに行くと、当然のように武器に関して質問された。


「ファンおまっ……その腰に挿してるものは……」


 僕は制作した剣を、ウルフの革でできた簡易的な鞘から抜き取る。

 ちなみにこのウルフの革は修繕のお礼に貰ったものであり、鞘は剣の制作後にそれに合わせて自作したものだ。


 正直鞘の質に関しては良いとは言えないが、ひとつ確かなことがあるとすれば……この身体が器用でよかったということである。


 とにかく僕は腰から抜いた剣を太陽光でキラキラと輝かせながら、ボッケさんの質問に答える。


「昨日自作したものです。まだしっかりとは確認してませんが中々の切れ味ですよ」


 僕の声を受け、ボッケさんは思わず笑ってしまうほどにあんぐりと驚いた表情を浮かべた。他の皆もこちらに目を向け、全員一様に驚愕している。


「自作したって……『鍛冶』ってそんなこともできたのか!?」


「知識、イメージ力、材料。あとはこれまで修繕を繰り返したことで得た経験によって可能になりました。まぁ、作り上げるまでにかなりの時間を要しましたけど……」


「すごいじゃないか、ファン!」


 皆が口々に褒めてくれる。そこまで賞賛の声を浴びるのは思っていなかったため、僕は少し照れながら微笑む。


「もしよかったら今度俺専用の武器も作ってくれないか!?」


「俺もお願いしたい!」


「おい、ずるいぞお前ら! そんなこと言ったら俺だって!」


「あはは。さすがにそんな頻繁には難しいですが、みなさん専用の武器も作りますね。ただ材料となる金属は各自で用意してくださいね」


「おおおお!!!!」


 狩りチーム全員から歓声が上がる。


 ……これはまたデルフさんに順番を決めてもらった方が良さそうだな。


 彼らの反応を受け、僕は心の中でそう思った。


 ◇


 準備が整ったところで僕たちは迷いの森へと向かう。その道中で、ボッケさんが上機嫌で話しかけてきた。


「にしてもファンには頭が上がらないぜ」


「僕にですか?」


「おうよ。だってよこうして皆の武器や防具を修繕してくれたおかげで狩りの効率が飛躍的に向上したからな」


「そんな。それはみなさんの腕がいいからですよ」


「それだけじゃねぇぜ? 明らかに怪我を負う人も少なくなったんだ。特にここ2ヶ月の間で大怪我を負った人がいないってのは大きな進歩なんだぞ」


「確かにそうだな。こりゃファンに改めて感謝しなきゃだな」


「ファン、ありがとな」


「ありがとなぁ!」


 狩りメンバーから口々にそう告げられ、順にグリグリと頭を撫でられていく。


 やはり褒められるのは嬉しい。結局そのやりとりは森の直前まで続き、僕は村の中だけでなくここでも照れながら微笑むことになった。


 森に到着してからは当然だが皆の表情が引き締まった。そしてそ集中した面持ちのまま、村で配給するための食料を確保すべく、いつもの如くツノウサギなどを狩っていく。


 やはりボッケさんの言葉通り、武具が改善してからは1匹の魔物にかかる時間がかなり短縮されたため、非常に効率よく肉を確保することができた。


 結果的に開始から3時間ほどで十分な量の肉を確保できたため、僕たちは少し早く村に帰ることにした。


 と、その道中でボッケさんが僕たちの歩みを止める。


「待て、ゴブリンだ」


 ボッケさんの示す方へ目をやると、なるほど確かにゴブリンの姿があった。森の中であるため視界がかなり良いとは言えないが、それでも1匹だけしかいないことはわかる。つまりはぐれゴブリンというやつだ。


 ここで突然だがゴブリンについてまとめておこうと思う。


 ゴブリンは進化の幅が広く、分類の多い種族として知られている。


 一回り身体が大きければホブゴブリン、魔法を使ってくればゴブリンウィザード、ウルフ等を使役し、彼らに乗っていればゴブリンライダーといった感じだ。


 またそれとは別にただのゴブリンの中にも個体差が存在している。それを見分けるポイントが武器である。


 たとえば剣を持っている個体もいれば、棍棒を持っている個体もいる。弓を持っている個体もいれば、中にはボロボロの盾だけを持っている個体もおり、とにかく様々だ。


 それらは総称してゴブリンと呼ばれるのだが、そんなゴブリンの中で最弱なのがなんの装備もしていない素手のゴブリンである。


 直近では僕が初めてトドメを刺したゴブリンがこのタイプであったのだが、なんと今目の前にいるゴブリンも同様に素手のタイプであった。


 ……これなら。


 僕は武器を手に入れたことでどこか高揚していたのだろう、昂る気持ちのままにボッケさんへと声をかけた。


「ボッケさん。あのゴブリンは僕に任せていただけませんか」


 ボッケさんはその言葉に小さく目を見開いた後、少し考えるような素振りを見せる。

 そして問題ないと判断したのか、ボッケさんはうんと頷いた。


「いいだろう。ただし深追いはしすぎるなよ。それと危なそうだったらすぐに割って入るからそのつもりでな」


「はい。ありがとうございます」


 僕は剣を構える。そして緊張から早まる鼓動を深呼吸することで落ち着けると、ゆっくりと距離を近づけていく。


 すると段々とゴブリンの容姿がはっきりとしてくる。


 醜悪な容貌。真っ黒な目に、口から覗く鋭い牙。実際に生きているゴブリンを正面から捉えると凄まじい迫力であり……正直怖い。


 ……けど成長するためには、やらなくちゃ。


 僕は左足を前に身体を半身にし、右手にショートソードを構え、膝を曲げる。


 剣術に関する知識は全くないが、これまで剣を扱っていた皆さんがとっていた基本姿勢である。


 そのままジリジリと近づきながらゴブリンの様子を伺う。


 今回のゴブリンの体躯は、体感では僕と同じ位である。が、その身体についた筋肉の量は明らかに向こうが優っている。


 ……レベルアップを重ねた今でも、多分力じゃ勝てないんだろうな。


 例えば身体強化という能力を扱える様なスキルであれば、筋肉量の差など補って余りある程の力を発揮できるのだが、生憎と僕のスキルにはそういった戦闘特化の能力はないし、おそらく今後もつくことはないだろう。


 あるのは剣という間合いでも切れ味でも勝る武器と、転生したことによって得た魔物よりも圧倒的に勝る知力のみ。


 ……大丈夫、落ち着いてやれば、大丈夫。


 ドキドキと早鐘を打つ鼓動を何とか鎮めようと長く息を吐きつつ、その時を待つ。


 ……今!


 僕は最も理想的な距離感になったところで、グッと地面を蹴り、ゴブリンへ向けて走る。


 ここでゴブリンはようやく僕の存在に気がついたようで慌ててこちらへと振り向く。


 ……ただ、反応は遅れてる。これならいける!


 グングンと近づく距離。その距離が1メートル程になった所で、ゴブリンが鋭い爪をした手を大きく振り上げると、タイミングを合わせるように振り下ろしてきた。


 上から下への単純な引っかき攻撃。


 比較的読みやすいその攻撃を僕は左に躱し、すれ違い様に、ゴブリンの腰の辺りを斬りつける。


 ゴブリンが苦悶の声を上げる。


 念の為、僕は一度距離を取る。


 ゴブリンは傷口を手で抑えながら、苦悶の表情を浮かべている。


 ……よし、かなり効いている。


 自作した剣で攻撃がしっかりと通った事に安堵しつつ、ゴブリンの様子を伺っていると、ここでゴブリンが再びこちらへと走り寄り、爪を振り下ろしてくる。


 先程と似たような動作。


 僕はバックステップでそれを躱すと、すぐ様ゴブリンの目にショートソードを突き入れ、再び距離を取る。


 ゴブリンは反射的にか、両手で目を押さえる。


 ──今!


 僕はその隙に近づくと、ショートソードを一閃し、ゴブリンの首を落とした。


 瞬間、ゴブリンは血飛沫を上げながら仰向けにバタリと身体を倒した。


「……ふー」


 息を吐く。緊張から解放されたのか、ドッと汗が浮き出る。


 と、ここで遠方で様子を伺っていたみなさんが駆け寄ってくる。


「ファン、怪我はないか!」


「はい、大丈夫です」


「そうかよかった。いやぁ、それにしても初めてとは思えないくらいいい動きだったな!」


「えへへ。ありがとうございます!」


「なによりもその自作した武器の威力よ。ショートソードなのにそれって、下手したら修繕してもらった俺たちのより強いんじゃないか?」


「んーどうでしょう。もしかしたら作成過程で込める魔力が修繕の時よりも多かったので、それで強度が増してるのかもしれませんね」


「かー、なるほどなぁ」


 彼らの反応を見ながら、僕も思う。


 確かにボッケさんの言う通り、これまで修繕してきた武器よりも僕が自作した剣の方が威力が高かったように思う。

 単純な筋力やレベルで比較すれば間違いなく僕よりみなさんの方が高い。

 それでも彼らと同等かそれ以上の威力を出せているという現状を考えると、どれだけ武器の重要性が高いかが再認識できる。


 ……もしかしたらみなさんと同じ修繕した武器だったらもっと苦戦してたかもな。そのことを念頭において、決して自分が強くなったのだと過信しすぎないようにしなきゃな。


 僕は目前で事切れているゴブリンに目をやりながら、内心でそう決意した。


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