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プロローグ 転生と不遇スキル『鍛冶』

 この世界には最強と謳われる武具がいくつか存在する。


 魔剣イグニ

 宝弓ユグリム

 魔槍レクト

 魔鎧ガイア


 それらは全て魔物からのドロップ品、およびダンジョンからの出土品である。


 またこうした上位武器に限らず、世に出回る武具もまたドロップ品で溢れていき──いつからか武具は作るものではなく、魔物やダンジョンからドロップするものへと扱いが変わっていった。


 これはそんな世界で不遇とされるスキル『鍛冶』を手に入れた1人の少年が、世界一の武具を作ることを目標に突き進んでいく物語である。


 ◇


「ファンのスキルは……『鍛冶』である」


「……んぁ? なんだこれ……」


 ふと気がつくと、俺は現代日本とはほど遠い貧村で、ボロ布に身を纏う人々に囲まれて立っていた。

 訳がわからず困惑していると、周囲から口々に声が聞こえてくる。


「あぁ……よりにもよって不遇スキルとは」


「ファンも錯乱しているようだ。しかしそれも無理はないか」


「ファン……」


 ……ここはどこだ? それにファンって誰のことだろうか?


 眉根を潜め、再び辺りを見回す。そして目線を目前に立つ、唯一綺麗な衣服に身を纏った老人へと目をやり──ここで、徐々に思考が馴染んでいくように、それがさも当たり前の事であるかのように自覚する。


 あぁ、そうだ。僕は、ファン。ここハナレ村の住人で、今は10歳の子が必ず受けなくてはならないスキル鑑定を行っていた所だ。


 一度自覚すると、先程までの困惑は瞬く間に消え去る。


 と同時に思う。現状に一切の違和感は無いし、この記憶に何も間違いはない。

 そりゃ当たり前だ。僕自身の記憶なのだから。


 しかし同時に、こことは違う世界、地球という星の日本という国で生きていた頃の記憶がはっきりとある。……これが流行りの異世界転生ってやつだろうか。


 異世界転生なんて空想の話ではあるが、特徴は一致している。


 死因は覚えていないが、向こうで死に、この世界で僕、白髪の少年であるファンとして転生した。そして何故このタイミングかはわからないが、今この瞬間その事を自覚したのだろう。


 転生を自覚したからといって、人格が前世に乗っ取られたかというと、決してそういう訳ではない。


 さっき言ったように、僕は間違いなくファンだと自覚しているし、今までの記憶も勿論ある。ただ、同時に日本で社畜をしていた頃の記憶も持っているというだけだ。


 つまり、とても不思議な感覚ではあるが、人格や意識なんかはきちんと融合しているのである。


 なんて、僕がこの身に突如起こった変化に考えを巡らせていると同時に、先ほど目の前の老人に告げられた自身のスキルの名を思い出した。


 ……それにしても『鍛冶』かぁ。


 現在、この世界ではスキル『鍛冶』は大外れのスキルとして知られている。その理由は多々あるが、纏めると以下の通りだ。


 ・安価で性能の良い魔物産、ダンジョン産の武具が世に多く出回っており、これらが武具の主流となっている。

 ・武具制作に大量の魔力を消費する。

 ・武具制作には高度な知識や高いイメージ力を必要とする。


 ただでさえ扱いが難しい上、武具は魔物やダンジョンからのドロップ品で事足りている。故に不遇職とされており、現に村のみんなも僕のスキルの名を聞いて落ち込んでいるのである。


「……はぁ」


 せっかく現代日本で多くの人間が憧れる異世界転生をして、その結果がこれなのだ。

 このまま前世のように、希望のない仄暗い人生を歩むことになるのだろうか。


 将来を悲観し、思わずため息が出てしまう。


 とそんなスキル鑑定ではあったが、この貧村において今年10歳になるのは僕だけだったため、こうして暗い雰囲気のままこの場は解散となった。


 ◇


「ただいま」


 帰宅と同時にそう声をかけるも、返ってくるのは静寂だけである。


 しかしそれも当然だろう。なぜならば僕には両親が居らず、現在1人で生活しているのだから。


 なぜ両親がいないか。母親は僕を産んですぐになくなり、父親は狩りの最中に魔物に殺されたからだ。


 現代日本人からすればなんとも悲惨ではあるが、何もかもが乏しい貧村においては、こうして両親もしくは片親を亡くすことは決して珍しいことではない。


 だから寂しくて悲しいが……仕方のないこととして今は割り切っている。


 僕は火を起こし、数少ないクズ野菜と干し肉で料理をしながら、改めて自身の現状を振り返るように声を漏らした。


「にしてもまさか転生するとはなぁ。しかも転生先が貧村で、スキルも不遇な『鍛冶』とは……転生物としてはいささかハードモードすぎないか」


 スキルは10歳に手に入れたものだけであり、通常はそれ以上増えることはない。


 つまり僕はこのはっきり言って恵まれていない現状と、不遇スキル『鍛冶』のみを頼りになんとか生きる術を見つけるしかないのだ。


「……まぁこうなった以上仕方がないか。『鍛冶』でできることを探して、とにかく第二の人生を精一杯生きよう」


 僕は干し肉を齧りながら、1人そう決意した。

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