6話 二人きりの打ち合わせは心臓に悪いのです【王子ルカリオ編】
これからの3話は、アイリスと3人のメンバーそれぞれとのお話になります。
1話にまとめるには長いと思ったので、2000字ちょっとのお話が3話続きます。
よろしくお願いいたします。
今日はルカリオ王子と二人だけの打ち合わせである。
キースには騎士団の抜けられない練習が、レンには魔術師の仕事依頼が入っているのだ。
「みんな普段から忙しいのに、アイドル業までお願いしてしまって……。ルカリオも公務が忙しいのではないですか?」
アイドル結成は国の為とはいえ、半分……いや、半分以上は自分の趣味に付き合わせている自覚はある。
少しばかり心苦しくなった私はルカリオに尋ねた。
「まあ、僕は夜にまとめて書類を整理したり、自分のペースで出来ることも多いから。アイリスこそ、毎日王宮まで通うのは大変じゃない? そこで提案なんだけど、しばらくここで暮らしたら?」
「ここって王宮ですか? え、私が王宮に?」
「うん。往復の馬車の時間も勿体ないし、体力的にもその方が楽でしょ? 日によっては遅くまでかかることも出てくるかもしれないし、アイリスは女の子なんだから」
「確かにそれはそうですが……」
王宮ならお部屋もたくさんあるし、私一人くらい増えてもなんの問題もない気もする。
ここはルカリオの言葉に甘えようと、私が了承しようとした時――
「この隣の続き部屋、アイリスなら使ってもいいからね?」
ルカリオが意味深な台詞を吐いた。
その表情は本気のようにも、ふざけているようにも見えるのだからたちが悪い。
は?
続き部屋って、将来ルカリオのお嫁さんになる方のお部屋じゃないですか!
「冗談は止めてください! もうもう、すぐそんなことを言って。いつか勘違いされても知りませんからね!」
顔を赤くしてそっぽを向く私には、『勘違いさせたいんだけどな』と呟きながら、ルカリオが呆れと愛おしさを込めた瞳で見つめていることなど、気付けるはずもなかった。
結局、ルカリオと同じフロアの一室を借りることに決まった。
あまり遠くの部屋では自分の目が届かないから駄目だと、ルカリオが言ってきかなかったからである。
「アイドルは正直やりたくないけれど、アイリスと一緒に居られる時間が増えたのは嬉しいよ。最近は昔ほど会えていなかったからね。父上の借金も少しは役に立つということかな」
いやいや、借金はダメでしょう。
確かに子供の頃のようには会えていなかったので、こうして二人だけで過ごすのは随分久しぶりの気がします。
でも今日もやることは目白押しなのだ。
浸っている場合ではない。
「ルカリオ、昨日マリーママたちに歌っている姿を録った水晶を見せたら、とても驚いていらっしゃいましたよ。あら、可愛く撮れてるわねぇって」
「可愛く? アイリスが僕たちを笑わせるのがいけないんだ」
「え~っ、だって素の表情が欲しかったのです。みんないい顔をしていましたよ。私の変顔の威力ですね」
「アイリスは変な顔をしたって可愛いんだから、僕たち以外の前でやってはいけないよ?」
あんな変な顔、幼馴染み以外の前では恥ずかしくて出来ませんよ。
でも今日のルカリオは何か変ですね。
いつも優しいですけれど、特に甘い感じがするような。
「ルカリオは感覚がずれているんですよね。今日は衣装について相談しに来たのに、不安になります」
「僕の感覚は至ってマトモだと思うけどね。で? 衣装についてって?」
「ジャジャーン! 私がイラストを描いてみたのですが、こんな衣装はどうでしょう? ルカリオにピッタリだと思うのです!」
「アイリスが描いてくれたの? それは楽しみだな。じゃあここに座って?」
笑顔で勧めてきたのはなんとルカリオの膝の上だった。
「ほえ!? 何で膝の上に?? 恥ずかしいじゃないですか! 私、もう十六ですよ!?」
「昔はよく座っていたじゃないか。一緒に一枚の紙を見るなら、この体勢が一番じゃないかな」
いやいや、それって子供の時の話ですよね?
隣に並んで座れば見えると思うのですが。
え、私何か間違えてます?
しかし、ルカリオは笑顔で膝を叩き、早くと急かしてくる。
なんとなく急かされた勢いと変な懐かしさから、私はルカリオの膝に軽く腰を下ろしてしまったのだが――
いやーーーっ、やっぱり絶対おかしいですって!
こんなの恥ずかしくて無理っ!!
逃げようとする私をルカリオが腰を抱き寄せて阻止し、私たちはより密着してしまう。
「うん、これで見やすいね。うわぁ、素敵な衣装だね。派手に見えて、損なわない品の良さを感じるよ。さすがアイリスだね」
アイリスの耳に、ルカリオの息がかかって落ち着かない。
「はい。王子様のキラキラを意識して、あとはルカリオのメンバーカラーの赤を差し色に使い、他の二人とも統一性のあるデザインに……」
ルカリオの体温や腰に回された腕、息遣いが気になって自分が何を喋っているのかわからなくなってきた。
頭も沸騰しそうにグルグルしている。
腕の中でゆでダコ状態の私になぜか気を良くしたルカリオが、『ここまでなら許されるかな?』と呟いた途端、私の赤くなっているであろう耳をパクっと咥えた。
ふぎゃーーーーっ!!
え、何? これは誰!?
ルカリオって、こんなキャラでしたっけ?
優しくてキラキラで、正統派王子様だった私のルカリオは何処へ!?
こんないじわるで、危険なルカリオなんて知らないですーー!!
私はこの日、ルカリオが優しいだけの王子様ではないことを学んだのだった。