4話 グループ名は『チェスターズ』!
このグループはアイドルとして無限のポテンシャルを秘めている気がするわ。
完璧です!
私が考えていたルカリオ、キース、レンのアイドルとしての売り出し方、簡単に言えば『正統派』、『ワイルド』、『ミステリアス』というそれぞれのイメージを語ってみると賛成してくれたので、そのキャラクターでいくことにする。
人間、無理にキャラを偽装せず、自然のままが一番である。
「で、気になったんだけど」
ルカリオがイタズラを思い付いたような顔をしている。
なんとなく踊らされた時のトラウマが蘇って、不安に思いながら聞いていると。
「さっきの例えではたまたま僕が出てきたけど、本当のアイリスの『推し』は僕たちの誰なのかな?」
は?
私の推しを気にしてどうするのでしょう。
早速自分のファンが欲しくなったのかしら?
「私はもちろんグループとして『箱推し』ですから」
ニッコリ笑って答えたら、三人に不満そうな顔をされてしまった。
なにゆえ?
一番公平な答えだし、プロデューサーが一人を特別扱いしたらまずいのでは?
「じゃあ、次いきますよ。それぞれのメンバーカラーを決めましょう。つまりはイメージカラーなのですが、ファンはその色を服や小物に取り入れることで、誰を推しているか主張するのです。一種の愛情表現ですね。推しが同じ者同士の交流もしやすいですし」
コンサートで推しに見つけてもらえる利点が大きいと思うが、まだコンサートが出来る段階ではないので省略しておく。
早く大きな広場でファンの前に立つ三人を見てみたいものだ。
「色の希望はありますか? 一般的なのは、赤、青、黄色、緑とかですかね」
「黒がいいです!」
おっ、レンにしては珍しく積極的な態度ですね。
魔術師のローブが黒だから落ち着くのでしょうか。
「いいですよ。レンは黒にしましょう。ルカリオとキースはどうします? 出来れば赤は欲しいところですけれど」
「ルカリオが赤じゃねえか? 絨毯とかタスキみたいなやつ赤だもんな。俺は青だな」
「少し意味不明だけど、文句は無いよ。あれはタスキじゃなくてサッシュだけどね。じゃあ僕が赤で」
またまた揉めることなくメンバーカラーも決定した。
この三人は好みがバラけているので助かる。
それに、赤、青、黒ならバランスもいいし、覚えやすい。
正直、赤、ピンク、オレンジとかだったら困っていたところだ――可愛いけれど。
「アイリスは三色のうち何色を……」
「私は三色とも身に付けますので、ご心配なく!」
レンの質問を私は途中で遮った。
きっと私が何色の服にするか尋ねようとしたに違いない。
それは正しかったようで、レンは『そう言うと思っていました』といった顔をしながらもガッカリしているように見える。
私が仮に、全身上から下までレンのメンバーカラーの黒で現れたら、レンはきっとドン引きするでしょうに。
それ以前に全身黒色って、ヤバイ令嬢扱いされてお嫁に行けなくなりそうですね。
それにしても、赤、青、黒の三色コーデはなかなか厳しいような。
まあ、なんとかしてくれるでしょう――うちの侍女は優秀なので。
彼らが五人組とかじゃなくて良かったです。
三人はなぜか私に自分の色だけを纏って欲しいのか、拗ねているが理由がわからない。
兎にも角にもリーダーとキャラクター、メンバーカラーが決定したのだから、今日は頑張ったのではないだろうか。
この時の私は、肝心のグループ名を決め忘れていることに気付いていなかった。
◆◆◆
王宮からの帰り道、私は一人で馬車に揺られていた。
ほどよい疲労感を感じるが、それよりもはるかに達成感が勝っている。
今日はよく働きました。
王妃様とお話して、アイドルグループ結成の許可をいただいて、その後にルカリオのお部屋を訪ねて……。
三人からアイドルになる承諾も得られたし、ルカリオがリーダーに選ばれて、みんなのキャラクターとメンバーカラーまで決め終わりました。
こんなに順調でいいのかしら?
明日は再びルカリオの部屋に四人で集まる約束をしている。
デビュー曲について考えなくてはいけないからだ。
ああ、彼らの晴れ舞台が待ち遠しいです。
きっとキラッキラのアイドルがそこに!
鼻歌でも歌い出しそうになったその時、私はようやく大切なことに気付いた。
グループ名、決めるのを忘れていました!
大失態である。
正直、メンバーカラーよりも先に決めるべきことだったと思う。
なんてこと!
グループ名はアイドルグループの命とも言えるものではないですか!
私のバカバカ。
明日はとにかくグループ名から決めることにしましょう。
何か素敵な名前があればいいのだけれど……。
なーんて、帰り道では大いに反省していたのだが。
寝る前にベッドの中で冷静になって考えてみたら――
ここってチェスター王国ですよね?
だったらグループ名は『チェスターズ』でよくないかしら?
なんだかあっさり思い付いた名前が妙にしっくりと来てしまった。
だって、メンバーはチェスター王国の王子と、騎士と、魔術師ですよ?
もう他の候補すら思い浮かばないのですが。
よし! 明日、三人に意見を聞いてみましょう。
おやすみなさい。
私は反省していたことも忘れ、あっさりと眠りについた。
◆◆◆
あくる日、再びルカリオの部屋にて。
「ごめんなさい。昨日、何よりも大切なグループ名を決めるのを忘れてしまいました。何かいい名前はありますか? ちなみに私の候補は国名からとった『チェスターズ』です」
「うん、いいと思うよ」
「それでいいんじゃねーか?」
「僕も賛成です」
まあ、なんと雑なお返事!
そんな適当でいいのですか?
あなたたちの未来を左右するかもしれない名前ですよ?
せめていくつか候補くらい考えてくれてもいいのに。
自分自身も昨日は忘れていた上に、眠る前の一瞬の閃きで思い付いたのを棚に上げ、私は腹を立てていた。
その不満が顔に出ていたらしい。
「いや、真面目に考えていない訳ではなくて、僕たちは元々立場上、国に尽くすことを求められてきただろう? この国を背負っているという自負もある。だから単純に一番ふさわしいと思ったんだ。まあ、この国の借金返済の為のグループと考えると収まりもいいというか」
「ああ、響きもいいしな」
「もしファンが出来たとして、愛国心に繋がれば嬉しいですしね」
なんと、思いのほか熟慮した結果の返答だったようだ。
……キース以外は。
思っていたよりちゃんと考えていて感心しました!
この国を背負う彼らにはピッタリだし、愛国心が芽生えればこの国が乗っ取られそうになっている現状に対しても、国民に危機感を持ってもらえるかもしれません。
もし周囲の国にまでアイドルとして売り出すことになっても、国名なら覚えてもらいやすいですし。
「私ってば、さりげなく最高の名前を考えていたのですね。さすが私です!」
急に自分を褒め出し、胸を張る私に呆れながらも、三人が「すごいすごい」「偉いぞ」「アイリスは凄いですね」などと言って頭を撫でてくれた。
昔から紅一点の私に対して、彼らはとても甘いのである。
こういう私だけしか知らない幼馴みの素晴らしさを、チェスター王国中に……いや、全世界に知ってもらいたいと、私は更に意気込んだのだった。