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3話 見本で踊らされました

アイリスの、アイリスによる、借金返済の為の計画――ベールに包まれたその壮大な計画が、今明らかになる!


なんて煽ってみても、盛り上がっているのは今のところ言い出しっぺの私ただ一人である。

悲しい。


「うーん、いまいち歌って踊るっていうのがよく掴めないんだよね。三人でやる意味もわからないし」


ルカリオが困惑気味に眉をひそめる。

確かに日本では当たり前な、あのキャッチーでポップな曲調とダンスはこの世界には存在していないのだから当然だ。

彼が戸惑うのも無理はない。


「俺ちょっと思ったんだけどさ、そのアイドルっつーの? 男だけで女はやらないのか?」


おっ、キースから質問が飛び出しました!

疑問を持つのはいいことですよね。

しかも、なかなかいいとこついてるじゃないですか。


「いえ、女の子のアイドルもいっぱいいましたよ。可愛い女の子たちが可愛い衣装を着て、可愛く、時にカッコ良く歌って踊るのです」

「そうか……。よし! お前ちょっとやってみろ。俺たちはそれを元にイメージを掴むから」


はいぃぃぃぃぃ?

私にアイドルの真似をしてみろとおっしゃる??


「む、無理です! 私なんぞが披露しても、イメージどころか目の毒にしかなりません!」

「アイリスがお手本を見せてくれないと、僕たちはずっと先に進めないですよ? それでもいいのなら」


レン、あなた私を脅していませんか?

いや、絶対脅していますよね?


ここ、ルカリオの私室で披露するのは、カラオケで女友達とキャッキャ踊るのとは訳が違うと思う。

音楽も流れてはくれないし、これはなかなかのハードルの高さだ。


しかし、私は腹を括った。

返済計画を成功させる為にも、ここはやるっきゃないのです!

さて、何の曲がいいのやらと私は思案する。


うーん、では少し古いですが、恋するおみくじクッキーの曲にしましょう。

某アイドル集団が一世を風靡し、日本全国でみんなが踊ったあの曲。

あれなら昔たくさん踊ったからいける気がします。

……韓国アイドルは難しすぎて私の手に負えませんし。


「一度しかやりませんからね?」


裾が長いワンピースでは踊りづらいし、何より一人では心細いが仕方がない。

私は覚悟を決めて、歌い出した。


「チャラチャララーチャラチャララー、あ、ここは前奏なので。歌の始まりはもう少し後です」


説明を入れながら私は歌い、踊った。


私、なんで王宮でこんなことをしているの?

恥ずかしすぎて泣ける……。



「フゥー!」


くるっと回ってラストのポーズを決め、なんとか歌いきった。

やったよ、私!!


恐る恐る三人の反応を伺えば、皆一様に視線を泳がせ、顔を手のひらで覆ったりしている。


どうしてそんな反応なの?

あ、やっぱり見ていられないくらい酷かったのかもしれませんね。

確かに私はアイドルみたいに可愛くないし、歌詞にはわからない単語も多かったでしょうし……。

でも三人そろって顔や耳が赤くなっているのはどういうこと?


じっと彼らを見つめながら感想を待っていると、ようやくルカリオが口を開いた。


「いや、うん。最高だったよ」


え? 本当に?


「ああ、いいもん見た」


あら、キースまで?


「水晶に記録しましたが、二人もいりますか?」


そう、水晶に……って!

レン、あなたまさか――


「何!? 今の録ってたのか! レン、お前やるな! 俺にくれ!」

「僕も欲しいな。ぜひ頼むよ」


今のを録画しちゃったの?

うぇぇぇ、アレは絶対に残しちゃダメなヤツでしょう。

黒歴史確実の代物です。


「レン、今すぐ消して下さい! 二人とも欲しがっちゃ駄目です!」


私が必死になっているのに、三人は全く取り合ってくれない。

そのうちルカリオが飄々と話し出した。


「今の勘が鈍らないうちに、僕たちのアイドルグループについて話を詰めてしまおう」

「そいつはいいな」

「アイリス、まずは何をしましょう?」


私の要望は有耶無耶にされましたとさ。

ちっくしょぉぉぉぉ。


私の踊りながら歌う姿が後世に残るのは非常に不本意である――が、せっかくやる気になった彼らと今のうちに色々決めておくべきだと思い直した。


まずはリーダーでも決めましょうか。

アイドルってみんなをまとめるリーダー役がいるイメージですもの。

ほとんどあだ名になっている場合もあるけれど、それはそれで愛されキャラだったりするのですよね。


「では、グループのリーダーを決めましょう。リーダーはグループの調整役としてメンバーをまとめ、時には代表として意見を述べたり、『リーダー』という愛称で呼ばれたりもします」

「それならルカリオだろ。慣れてるし」

「そうですね。なにしろ王子ですから」


キースとレンがすかさずルカリオを推す。


確かにルカリオほどの適役はいないだろう。

何しろ彼は、生まれつきこの国のリーダーになるべき人なのだ。

話も上手だし、人望も華もある上、責任感、コミュニケーション能力、決断力を備える完璧なリーダーである。


「じゃあルカリオ、リーダーをお願い出来ますか?」

「うーん、仕方ないか。僕でよければ精一杯頑張るよ」


ニコッと爽やかに笑うルカリオ。


揉めることもなく、リーダーはあっという間にルカリオに決定した。

じゃんけんで決める彼らもちょっと見てみたかった気がするが。



続いて、メンバーそれぞれに簡単なキャラクターとメンバーカラーを決めることにする。


乙女ゲームや漫画でも『優等生キャラ』とか『体育会系キャラ』とか分かれていて、それぞれにファンがいますからね。

メンバーカラーも、普段から好きな人の担当色を身に付けて楽しんだりして。


もちろん今の私は三人とも応援しているので『箱推し』である。

 

「リーダーの選出に続いて、次はそれぞれのキャラクターとメンバーカラーを設定したいと思います」

「キャラクター? そんなのが必要なのか?」


キースが不思議そうに訊いてきた。


確かに、この三人はすでにキャラクターがしっかり確立されていますからね。

しかも周知もされているので、とっても今更なのですが。

一応の確認というやつなのです。


「最初に大まかに説明しますね。アイドルには熱烈に支持をしてくれるファンが付くのですが、グループごとまるっと応援することを『箱推し』と言います。今回で言えば、このグループごと、あなた方三人をまとめて応援するわ!という意味です」


彼らがフンフンと相槌を打ってくれる。


「一方、ある一人のメンバーが特に好きで、その人を中心に応援するファンも出てきます。その対象を、『推しているメンバー』の略で『推しメン』と言います。例えば、『あなたの推しメンは誰ですか?』『私の推しメンはルカリオです』みたいな感じで」

「なるほど」


ルカリオは納得してくれたみたいだが、キースとレンが面白くなさそうな顔をしている。

いえいえ、あくまで例えですからね?


「さらに『推しメン』を縮めて、好きなアイドルは『推し』と呼ばれることが多いです」


深く語れば本当はもっと色々あるだろうし、諸説あるのかもしれないが、私だって所詮ただのアイドルオタクなのだ。

知っている範囲でサラッと説明をしておくことにする。


私的には本当は『自担』を使いたかったのですけれど、今回はわかりやすく『推し』でいきましょう!


前世の記憶がある自分にとっては当たり前のことでも、やはりアイドル自体を知らない三人にはわかりづらい話のようだ。

頭のいいレンですら戸惑っている。


「ちょっと待って下さいね。初心者には少々難しいですが、つまりアイドル活動を始めると僕たちそれぞれを応援して『推し』にしてくれるファンが出てくるという理解でいいですか?」

「さすが、レンです! その通りです。その上で、やっぱり人って好みの顔や、惹かれる性格の人を自分の『推し』に選ぶじゃないですか。だからキャラクターがハッキリしているほうが見分けもつくし、推しを選びやすいと思うのです。結果、グループ内での立ち位置や役割も自ずと見えてきますし」

「なるほど。でも僕たちは元々個性がバラバラだよね? だからこそ仲がいいのだと思っているが」

「ルカリオの言う通り、ルカリオ、キース、レンは見た目も、話し方も、得意なことも別ですよね。なにしろ職業がバラバラですから。そこがとても理想的だと私は思うのです」


ルカリオは王子なだけあって、すっきりと整えられたキラキラした金髪に、笑顔が似合う端正な男前。

物腰も柔らかいし、サービス精神があって王道、正統派のアイドルという感じだ。


打って変わって、キースは騎士団に属してるくらいだから体格が良く、赤毛の短髪にワイルドな顔付き。

口が悪く、パッと見怖いのに、実は包容力があって優しいところがギャップ受けしそうである。


レンは少し長めの黒髪で、いつも魔術師のフードを被っていてわかりにくいが、色白のとても綺麗な顔をしている。

線が細く、誰にでも敬語を使い、物静かで知的なイメージはミステリアス好きな根強いファンが付くことだろう。


自分で言い出したことだけれど、なんてアイドル向きな三人組なのかしら!


私は自画自賛が止められなかった。




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