20話 悪徳商人の才能アリ?
応接室に隣国の王女たちを案内しながら、私は周囲を見回した。
彼女たちを野放しにしているはずがないという私の推理は正しかったようで、ふと目が合った男性が一つ頷くとすぐに消えた。
きっと国王夫妻に報告してくれるはず……。
ソファーに座ってわくわくしている三姉妹に、私はチェスターズについて話して聞かせた。
なにしろプロデューサーなのだから、私が知らないことなどないのである。
――もちろんそれは秘密なのだが。
アイドル活動について私が簡単に説明すると、すぐさま三姉妹の我儘が炸裂した。
「ファンクラブに入りたいわ。今すぐ手続きをしてちょうだい!」
「イベント、私たちも見たいわ! 最前列じゃなきゃ嫌よ」
「水晶、さっさと寄こしなさいよ」
息をするように願望をぶつけてくるので、思わず感心してしまった。
よほど甘やかされて育ったのだろう。
「まず、ファンクラブについてですが……非常に人気がありまして、我が国の有力貴族の中にも500口入った人がいるのですよ」
「だったら私は1000口入るわ!」
「「私も!」」
わざと対抗心を煽るように言えば、あっさりと引っかかった。
はい、ファンクラブ3000口いただきました!
1500万ルーロ也~。
「ファンクラブの会員には会員番号が与えられるのですが……早い番号はもう埋まっておりまして。皆様のようなチェスターズ愛が深い方にはぜひとも一桁台をさしあげたかったのですけれど。だって、番号が早ければ早いほど、チェスターズへの思いが強いということですものね」
「ちょっと、なんとかしなさいよ!」
「早い番号が欲しいわ!」
「私たちが誰かの後の番号だなんて許せない!」
よしよし、乗ってきましたね。
私はポケットを漁る。
そう、チェスターズのメンバー用の会員証を今日渡そうと思って持っていたのだ。
「あら、こんなところに会員証が! 私ったら、会員番号1から3の、ルカリオ様、キース様、レン様用の特別な会員証なのにうっかり渡すのを忘れていたみたいです」
「え、ルカリオ様の会員証?」
「1から3番ですって?」
「なんて貴重な会員証なのかしら!」
三姉妹がギラギラした目で私の手元を見ている。
私は徐に三枚の会員証をテーブルに並べ、わざと小声で話しかけた。
「よろしければこちらをこっそりお譲りいたしますよ? これらは私が勝手にお渡ししようと用意したものなので、ルカリオ様たちはまだこの会員証の存在を知らないのです。今なら内緒で……あ、でも他にも欲しがっている方々がいらっしゃるのでやっぱり無理かも……」
「500万ルーロで1番を買うわ!」
「私は2番を!」
「3番を同じく500万ルーロで!」
あの、チョロすぎやしませんか?
いくら早い番号が欲しいからって……。
でも三枚の会員証お買い上げいただきました!
またもや1500万ルーロ也~。
この後も……。
「イベントは当選者しか入れないことになっているんです。あ、私と親友二人の関係者席ならなんとか……。最前列なんですけれど、でも勝手にそんな……」
「席を買うわ!」
ダリアとアスターには後で謝るとして、特等席売れました!
三席でなんと、3000万ルーロ也~。
どんどん金銭感覚がわからなくなってくる。
三姉妹もハイになっているのか、桁が確実におかしい。
「イベントは地方公演もありまして……」
「買うわ!」
「デビュー曲の水晶が三日後に発売されます。初回限定版だけの特典が……」
「買うわ!」
「ペンライトを振って応援……」
「買うわ!」
「今後、グッズを販売する予定になっていて……」
「買うわ!」
結局、いつの間にか側に控えていた文官がその場で契約書を作成し、三姉妹はノリノリでサインをしていた。
その取引金額、しめて1億5000万ルーロ也~。
え、嘘でしょ?
こんなあり得ない金額なのに、サインしちゃってるじゃないですか!
私、悪徳商人の才能があったみたいです。
ホクホクと満足げな隣国三姉妹王女が応接室から立ち去るのを、我ながら胡散臭い笑顔で見送った後、私は国王様の執務室へと走った。
何事かと王宮の使用人が振り返るが、会議に大遅刻している上、何より私が勝ち取ったこの契約書を早くみんなに見てもらいたい!
息せき切ってノックをし、アランパパの「お入り~」という平和な声に癒されながら入室すると、期待と不安が込められた多くの視線が私に向けられた。
「アイリスちゃん、お疲れ様~。災難だったわねぇ」
「アイリス、無事で良かった!」
「アイリス嬢、うちの副大臣は役にたったかい?」
王妃様、ルカリオ、外務大臣に矢継ぎ早に話しかけられ、あの文官はアスターのお父様の部下だということが判明した。
仕事が出来る人だと思ったが、副大臣なら納得である。
「マリーママ、予期せぬ出来事で慌てましたが、万事うまくいきましたよ。ルカリオ、ご心配をおかけしました。王女さま方は……見た目も中身もなかなかぶっ飛んでいらっしゃいましたね。外務大臣、頼りになるお方をありがとうございました」
私も空いている椅子に着席してそれぞれに返事をすると、キースが笑い出した。
「ぶっ飛んでるのはアイリスだろーが。で? どんな話をしたんだ?」
「ふっふっふ~」
私が三姉妹と結んだ契約書を机に広げると、全員が身を乗り出すようにして覗き込んでくる。
「え、アイリス、1億5000万ルーロって一体何をしたのですか!?」
「アイリス、お前まさか犯罪に手を染めて……」
「オホホホホ! あーおかしい!」
「ハハッ、敵の懐に突っ込むとはこりゃ痛快だな! さすがアイリスちゃんだ。アッハッハッハッハ!」
レンが驚き、お父様がとんだ濡れ衣を着せてきた。
王妃様と騎士団長だけが微妙な空気の中、ケラケラと笑い転げている。
私が犯罪なんてするはずがないでしょう!
――まあ、かなりぼったくった自覚はありますが。
「チェスターズに関するアレコレを買いたいとおっしゃるので。あ、こちらが値段を提示したわけではありませんよ? でも契約書の恨みは契約書で晴らす! ……ですよね? アランパパ」
国王様を見ると、久しぶりに楽しそうに笑ってくれる。
「アイリスが頑張ってくれたのは嬉しいけど、これで君が隣国に恨まれてしまったら……」
「そうですよ、無茶しすぎです」
ルカリオとレンが心配そうにしているが、私は大切な幼馴染みを強引に我が物にしようとする彼女たちに一矢報いた気がして、充実感を覚えていた。
「大丈夫ですよ。あ、三人分の会員証、勝手に売ってしまいました。あと、王女様方がこれからチェスターズを追っかけまくると思うので気を付けてください」
「うげっ、マジか! 面倒だな。会員証はどうでもいいが」
「やはりファンサービスだと思って我慢するべきなのでしょうか」
「それなら大丈夫よ」
キースとレンが溜め息を吐くと、王妃様が自信満々に言った。
「だって、チェスターズは恋愛禁止なんでしょう? 適当にあしらいなさい」
「「「ああ!」」」
チェスターズ三人の目が輝いた。
まさかここで恋愛禁止のルールが役立つとは思ってもいなかったのだろう。
好意を向けられた際に断る理由が出来たことに気付いた三人は、頑なに反対していた恋愛禁止のルールをあっさりと受け入れたようだった。
「それはいいな。煩わしい誘いを全部断れるのか」
「初めてアイドルになって良かったと思ったぜ」
「ルールが広まれば縁談自体が来なくなりそうで助かりますね」
うんうん頷く彼らだったが、ルカリオが意味深に続ける。
「でもあくまで『表向きは』だけどね」
まるで捕食者のような目でこちらを見る幼馴染みたちだが、私はそれどころではなかった。
レンが縁談って言いましたよね?
え、三人には縁談の話が来ているの?
……私には全然来ないのですが!
ハンター三人が側で目を光らせているせいで縁談が来ないとは思いもよらない私は、自分の人気の無さにガックリと肩を落としていた。




