17話 振付も完成です
私はチェスターズの様子を見に行くことにした。
ルカリオの公務が終わる夕方に、同じく仕事終わりのキースとレンが合流する予定だと聞いていたからだ。
私に与えられた部屋にほど近いルカリオの部屋をまず訪ねてみたが、誰もいなかった。
通りすがりの使用人に確認すると、三人は広間に向かったという。
それを聞いて私はピンと来てしまった。
きっと振付が出来上がって、ダンスの練習をしているに違いありません!
デビュー曲の国歌には当然振りなど付いているはずもなく、私は王宮お抱えの振付師に相談していたのだ。
彼らは普段はお芝居や舞踊劇の振付を担当している為、アイドルグループへ振りを付けるという初めての試みに戸惑ってはいたものの、さすがはプロ、魅せ方を良く知っていた。
安心した私は、取り入れて欲しい振りだけを伝えて後は丸投げしたのである。
広間が近付くと声が聞こえてきた。
「はい、そこでターン! ルカリオ様、とても美しいですよ。キース様、回るのが逆です。レン様、下を向かないでください」
私がまたもや扉からこっそり中を覗いてみると――
「あーーっ!! なんなんだよ、このチャラチャラした動きは!」
「あの、僕だけ踊らずに後ろのほうにいてはいけませんか? 何なら魔術で花でも飛ばすのでそれで勘弁していただけると……」
キースが文句たらたらで嫌々踊り、レンがフートを目深に被って滅茶苦茶なことを言っていた。
ルカリオだけが苦笑をしながら完璧に踊っている。
さすがはキャプテンだ。
見ていられなかった私は、思わずつかつかと進み出ると腰に両手をあてて怒ってしまった。
「コラッ! 先生を困らせたらいけません! キース、もっと真面目にやってください。レンも、三人で踊るからこそ見栄えするのです。もっと自信を持って自分をアピールしないと」
「そうは言っても、俺騎士だぞ? やたら恥ずかしいポーズとかさせられるし、マントをわざと翻すとか痛い奴じゃねーか」
「僕もまだ魔術になら自信はありますが、『二人より前に出てフードを取りながら微笑む』なんて高等技術、身の程を知っているからこそそんな自信過剰なことはできません」
痛い奴って……。
アイドルってそういうものですよね?
自分の魅力を見せつけてなんぼというか、称賛を浴びて更に輝くものでは?
レンに至っては、外見への自己評価が低すぎて困ってしまいます。
いくら過信しても許されるほどの美貌の持ち主なのに!
「いや、まるで僕が自惚れ屋の痛い奴みたいに言わないでくれよ。別に好き好んでやっているわけじゃないから……」
ルカリオが困惑気味に眉を下げて言うのがおかしくて、思わず吹き出してしまった。
「ふふっ、確かにアイドルって容姿に自信があって、注目されたい人がなることが多いですからね。三人は私がお願いしてやってもらっているだけですから」
しかし、私は彼らの魅力を誰よりもわかっているつもりだ。
三人はトップアイドルになる才覚を持っているという確信があった。
「私はみんなの魅力をよく知っています。子供の頃からずっと見てきましたから。顔はもちろん格好いいですけれど、性格も能力も素晴らしくて大好きです。尊敬しています。いつも誰よりも輝いているあなた方だからこそ、私はアイドルに向いていると思ったのです」
三人を見つめて言うと、動揺したように彼らの瞳が揺れるのがわかった。
「アイリスは僕たちを格好いいと思ってくれているのかい?」
「そんなの昔からずっと思っていますよ。みんなが世界で一番格好いいです」
ルカリオの質問が当たり前過ぎて、半分呆れたように返すと、今度はキースが尋ねてくる。
「今、大好きと言ったか? 三人まとめてなのは面白くねーが、アイリスは俺のことも好きってことだよな?」
「何言ってるのですか。当然です。大好きですよ」
もはや家族同然の彼らなのだから、大好きに決まっている。
レンも何か訊きたいかと顔を向けると、遠慮がちに口を開いた。
「僕も輝いていますか? 見劣りしませんか?」
レンったら、何を言っているのでしょうねぇ。
私はレンに近付いて鼻をつまんでやった。
やはり驚く顔すら美しい。
「一人でも輝いていますけれど、三人揃えばもっと眩しいほどに輝けます。レンがいなければチェスターズは成り立たないのですから。ほら、もっと顔を上げて、私にレンの素敵な顔と瞳を見せてください」
心が決まったのか、決意を秘めた強い視線が返ってきた。
今まで黙って空気になってくれていた振付の先生が急に手を叩いた。
「それではもう一度最初から通してやってみましょう。あ、アイリス様は真正面でご覧になってくださいね。さあ、皆さん、アイリス様にいいところを見せて、ご自分の魅力をアピールしましょう」
真正面なんて、アリーナ最前列ど真ん中ではないか。
私は舞い上がった。
「特等席ですね! みんな頑張ってください!」
なんだかやる気になったらしい彼らが、初めの立ち位置へと向かう。
「さあ、どなたがアイリス様の心を一番奪えるか楽しみですねー」
先生から意味深な言葉をかけられると、彼らの纏う雰囲気が変わった。
集中力が高まるのを感じた私は思わず息を呑む。
国歌の前奏が静かに流れ始めた。




