16話 ファンクラブを作りましょう
王宮内に借りている自室に戻ると、親友のダリアとアスターが寛いでいた。
部屋の主である私を抜きに、二人で優雅にお茶を楽しんでいたらしい。
なかなか図太い。
「おかえり、アイリス。会議は終わったの?」
「うちの父にも会えたのかしら?」
「ただいま戻りました。来るならそう言ってくださいよ。おじさま方にはお会いできました」
財務大臣も外務大臣も、協力を約束してくださいました。
頼りになるお二人なので心強いですね!
私もソファーに座ると、アスターが紅茶を注いでくれる。
ここは私の屋敷ではないので、常駐の侍女はお断りしているのだ。
「あら、手紙ならちゃんと送ったわよ? ほら」
ダリアが指差す方向を見ると、確かに手紙が届いていた。
……未開封のままであるが。
「アイリスが部屋を出た後に届いたみたいですわね。……で、会議での首尾はいかがでしたの?」
私が無言でピースサインを作ると、二人はたちまち破顔する。
「だろうとは思っていたわよ」
「さすがアイリスですわ! 私なら怖くて発言なんてとても出来ませんもの」
「二人は私を心配してわざわざ来てくれたのですか?」
私が不思議そうに尋ねると、ダリアが「違う違う!」と手を振って否定した。
――違うと言われてしまうのも少し寂しい気がしますが。
「家に居ても落ち着かないから、何かお手伝いしようと思って。アスターにも声をかけたってわけ」
「ええ、私もソワソワしてしまって。ファンクラブのお話も気になりますし」
二人の気持ちは嬉しいし、ファンクラブは早く作りたいと思っていたところだ。
入会してくれる人の数でおおよその人気度が測れるだろうから、デビューシングルの出荷数やイベントの規模の参考になるかもしれない。
「では、今からファンクラブについて相談させていただいても?」
「「もちろん(ですわ)!」」
私はファンクラブという組織について二人に語って聞かせた。
「ファンクラブに入会するにはまず入会届が必要になります。入会金と年会費を支払うと会員証が与えられ、入会した人だけの特典として、会報が届いたり、イベントへの優先申し込みが出来たりします」
「なるほどね。じゃあ早く会員を募集して、お金を集めた方がいいわね。デビュー曲を録画する水晶だってタダじゃないし、何をするにもお金がかかるでしょ」
ダリアの言うことは最もだった。
隣国が詐欺を行った立証が出来なければ多額の支払いを求められる現状において、国のお金にはなるべく手を着けない方がいいだろう。
さすがは財務大臣の娘だ。
「そうですね! 早速入会届の下書きを作りましょう」
「会費はいくらがいいかしら?」
アスターの質問にダリアと目を見合わせる。
「出来れば平民の方でも支払える金額がいいのですが」
「貴族だけ高く設定するわけにはいかないの?」
「そこはやはり同額がいいと思うのですよね。国民の一体感を高める為にも」
しかし、国民全員を同額にするとなると、どうしても平民の所得に合わせて会費を安く設定せざるを得なくなってしまう。
それでは多くの収入は見込めないかもしれない。
私が悩んでいると、アスターが閃いたとばかりに目を輝かせた。
「お金に余裕のある方には、何口か入っていただけばいいのではないかしら? きっとチェスターズのお披露目イベントには一目見たいという方々が殺到しますわよね? ファンクラブの入会者の中から抽選で招待されることにすれば、イベント目当てで何口も入る人が絶対出てきますわ!」
「アスター、それいい! 仮に一口しか入れなくたって、当たる可能性は平等にあるわけだし」
ダリアがアスターの提案に手を叩いて喜んでいる。
うーん、日本のアイドルだとファンクラブは一人一口だった気もしますが、ここは身分差のある世界ですからね。
それも仕方がないかもしれません。
まあ、前世ではコンサートのチケット目当てに、家族分の名義とか友人の名前を借りてまで何口も入っている人もいましたしね。
「それはいい案かもしれませんね。『デビューイベントが当たる!?』みたいな触れ込みで会員募集をすることにしましょう」
その後、三人で入会届の下書きを作成し、入会金1,000ルーロ、年会費は4,000ルーロ――つまり、入会時に日本円で合計5,000円を支払うことに決まった。
日本のアイドルのファンクラブも確かそのような金額だった……と思う。
「じゃあアイリス、私たちはこれからこの入会届を清書してもらって、早速大量に複製してくるわ」
「出来上がったら有力な夫人方に配布をお願いして、会員証のデザインも考えておきますわね!」
「え、だったら私も一緒に……」
「いいわよ、アイリスは疲れているだろうし」
「こちらは任せて、アイリスはチェスターズの皆さまをお願いしますわ! お披露目を早く行う為にも」
そう言って、二人ははしゃぐように部屋を出て行ってしまった。
彼女たちに任せておけば間違いないだろう。
私はソファーに沈み込むと、冷めてしまった紅茶を口に運んでホッと一息ついたのだった。




