13話 おじさまたちを味方に
カラフルな女性たちに囲まれたお茶会の翌日、私は一転して厳粛な男性の群れに放り込まれていた。
おじさま集団の中で私は明らかに一人浮いている。
ひい~、アウェー感が半端ないのですが!
まさか国の重要会議にまで出席を求められるとは思っていませんでしたよ。
この国のお偉いさんばかりじゃないですか。
今日の議題が借金問題ということで、お茶会での反響を受けて急に私の参加が決まったのだとか。
偶然廊下で出会ったルカリオに会議出席の話をしてみたら……。
「ははっ! 僕も公務がなければ見に行ったんだけどな。面白いことになりそうだ」
「どういう意味ですか……。あっ! 私、もしや大臣の皆さまにボッコボコにされるのでは? 余計な計画立てやがって的な」
「そんなわけないだろう。それどころか、皆アイリスのファンになるのではないかな。僕の『推し』なのに悔しいけど、アイリスは可愛いから仕方ないね」
そう言って、私の髪を一房手に取って王子様らしく口づけると去って行った。
ルカリオの行動も、言っている意味もほとんど理解できなかった私は、しばらく突っ立った後、スルーすることに決めた。
わかったことは、ルカリオがアイドルというものを正しく把握していることと、推し被りの人とは仲良くなれない「同担拒否」タイプだということだろう。
でも私はアイドルではないし、ファンができるはずもない。
ルカリオは冗談で私の緊張を解そうとしたのでしょうけれど、きっとアイドル計画についてこの場でも話すことになるのよね?
昨日の貴族女性相手のように上手くいくかしら?
私が不安になっていると、隣に座る宰相の父が声をかけてきた。
「アイリス、大丈夫か? 王妃もいらっしゃる予定だし、茶会の話も広まっているから心配する必要はないさ。あくまでお前から直接話を聞きたいという人間が多かっただけだ」
「そうでしょうか。王妃様が賛成してくださったとはいえ、こんな小娘の作戦なんて皆さま快く思わないでしょうし……」
そう言って俯きかけた時、大きな足音を立てながら近付いてくる男性がいた。
「よっ、アイリスちゃん。久しぶりだなー。すっかり綺麗になって。それにしても面白いことを考えたもんだ。俺、腹抱えて笑ったよ。うちのバカ息子がアイドル……ククッ……ブハハハハッ」
大きな体で豪快に笑い出したのはキースの父、騎士団長である。
何がそこまでおかしいのか、涙まで流して笑い転げている。
そう言えば、この方は昔から笑い上戸だった。
「そんなに笑っていてはアイリス嬢も戸惑うでしょうに。でも確かにユニークな案でしたね。私も協力は惜しみませんよ」
いつの間にかレンの父、魔術師団長も側に立っている。
音も無く現れるのはいつものことで、相変わらずちっとも年をとらない年齢不詳の顔に穏やかな笑みを湛えている。
「ありがとうございます。勝手にご子息に協力をお願いしてしまい、申し訳ございません」
私が立ち上がって謝罪をすると――
「好きなだけ使ってやってくれ。あいつはアイリスちゃんの力になれるならなんでもやる男だからな」
「ええ、うちのレンもです。いつもは無表情なのに、最近は口元が緩んでいて。あなたと一緒にいられるのがよほど嬉しいのでしょう」
二人の父は息子をアイドルにすることに抵抗がないらしい。
味方が増えたと私が笑顔になっていると、腕を組んだ父が変なことを言い出した。
「まだ嫁にはやらんぞ」
「お父様? どこからその話題が……」
「お前、まだそんなことを言っているのか」
「いい加減、子離れしてくださいよ。アイリス嬢、我が家はいつでもあなたを歓迎しますよ?」
『たまには家に遊びに来い』の意味だと受け取った私が頷こうとすると、三人はなぜか揉めていた。
「お前のところよりうちの方がアイリスちゃんだって伸び伸びできるはずだ」
「は? 何を根拠に? ガサツなあなたの家よりも断然私の家の方が」
「だーかーらー、そもそもどちらにもやらんと言っているだろう!」
大事な会議の前に、このお三方は何をしているのかしら?
遊びに行くくらいいつだって出来ますし、お父様は過保護過ぎます。
私が止めようとオロオロしていると、「いつものことだ。放っておいていいよ」「全く困った人たちだな」と話す、新たな二名の男性が現れた。
振り返ると、ダリアとアスターの父、財務大臣と外務大臣だった。
「まあ! ご無沙汰しております。本日はよろしくお願いいたします」
私は慌てて頭を下げたが、二人は気安い雰囲気のまま話し出した。
「そういうのはいいって。昨日はうちの娘が興奮して、帰ってくるなり国の予算や国庫金について詳しく知りたいなんて言ってきてね。なんか嬉しくなっちゃって」
「うちもだよ。アスターが付き合いのある国の貴族を書き出して、言語とマナーの復習を始めたから驚いたな」
ダリアもアスターも、早速自分のできることから始めてくれているようだ。
私は力強い親友たちの顔を脳裏に浮かべると、友情に感謝したのだった。




