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国の借金返済のためにアイドルグループ作ります!なぜかメンバーに口説かれていますが、恋愛禁止ですよ?  作者: 櫻野くるみ


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11話 常識はずれの計画

庭園はひっそりと静まり返り、すべての視線が王妃様ただ一人に注がれていた。


「さて、本日皆さんにお集まりいただいた理由をお話しいたしましょう」


王妃様がお茶会に集まった女性たちを後方まで見渡しながらゆっくり口を開くと、一気にピリッとした緊張感に包まれた。

この国の今後――私たちの将来に深く関わることである。

皆姿勢を正すと、覚悟を決めたように静かに次の言葉を待った。


「残念なことですが、皆さんももうご存じの通り、わが国は膨大な借金を抱えました。それは一朝一夕に返済出来る額ではありません。保有財産や既存の収支計画を鑑みても、期限である一年以内に返済することは不可能であり、今から新しい財源を探すことも厳しいと思われます」


現状について正直に伝える王妃様の言葉に、参加者は苦悶の表情を浮かべた。

若い令嬢からはすすり泣きも聞こえる。


一方、借金の返済期限が一年だということを初めて知った私は、驚くと共に納得もしていた。


なるほど、一年というのは隣国の長女の花嫁修行がちょうど終わる頃……。

こちらが借金を返せないことを見越して、返済期限が切れるのと同時に王太子(ルカリオ)の元へ嫁がせようという魂胆なわけね。

気持ち悪いほど準備万端な計画で、何か裏があるのではと疑いたくなります。

絶対そんなことはさせませんが!


「このままではこの国は隣国の言いなりになってしまいます」


わざと悲しそうに告げるマリーママに、「そんな!」「なんとかなりませんこと?」と言った声が回りから上がる。

属国になるなんて、到底受け入れられることではないからだ。


「しかし!」


そこで強くなった王妃様の口調に、皆が口を閉じ、注目する。

皆の心を掌握するマリーママの話術に、私は素直に感心していた。

まるで弁論大会みたいだなと呑気なことを考えていたら――


「一つ、この状況を打破出来るかもしれない計画があります。それは一見、とても突拍子もなく、常識はずれの計画に思えることでしょう」


ズコッ


私はシリアスな空気の中、一人ずっこけていた。


その計画って、もしかしなくてもアイドルグループのことよね?

え、あっさりと許可された印象だったけれど、マリーママってば実はそんなことを思っていたの?

確かに非常識な計画だけれど!


しかも、隣からはダリアとアスターのもの言いたげな視線が刺さっている。

まるで私が計画に関わっていると確信しているかのような……。

その通りなのだが。


しれーっと二人の視線に気付かないフリをしている間にも、王妃様の演説には熱がこもっていく。


「私はその奇抜な計画に全てを賭ける決心をしました。そしてその計画の成功は、私たち女性の力に懸かっているのです。ここに集まった我々で計画を推し進め、互いに協力し、知恵を出し合うことでこの国難を共に乗りきろうではありませんか!」


庭園に力強く響く王妃様の声――

短い沈黙の後、会場は大きな歓声と拍手に包まれていた。


「素晴らしいですわ!」

「わたくし、感動いたしました!」

「精一杯協力させていただきますわ!」


涙を拭いながら立ち上がり、王妃様を讃える人々。


マリーママが本気を出してきました。

心を掴むのが本当に上手いですね。

計画の内容を話す前から、皆さん協力する気満々じゃないですか。

あらあら、イタズラが成功したような顔でこっちを見ないで下さい。


私は拍手を送りながら思わず苦笑してしまった。

物凄い援護をもらい、ありがたいやら、やりにくいやら……。


「では、計画の発案者、アイリス嬢に代わりましょう。アイリスちゃん、後はよろしくね~」


これだけ盛り上げておいて、王妃様はあっさりと場を私に譲って席に戻っていった。

その後ろ姿はさっきまでの気高いイメージから一転して、ルンルンと楽しそうである。


マリーママったら、敢えて『アイリスちゃん』と親しげに私を呼んで、自分が後見していることを強調してくれたのですね。

ここまでのお膳立てをありがとうございます。


笑顔で頭を下げて感謝の気持ちを表していた私だったが――


「やっぱりアイリスだったわね」

「奇抜と言ったらアイリスですもの。納得ですわ」


周囲の人に聞こえるほどの大きさで、ダリアとアスターが失礼なことを言い出した。

しかも、なぜか周辺のテーブルにまで伝染したかのように、同じようなことを話しだす女性たち。


「アイリス様なら、さぞ目新しい計画を打ち出してくれることでしょう」

「ええ、楽しみですわ!」

「アイリスちゃんは昔から変わったことを思い付く子だったからねぇ。今日は遥々遠くから顔を出した甲斐があったわ。なんだか久々にワクワクしてきたわねぇ」


王妃様の力強い演説により、活気づいたことは非常に喜ばしいのだが、もう少しシリアスな状況と懐疑的な目で見られることも想定していた私は、予想外の歓迎ムードに正直面食らっていた。


あら?

皆さんがやけに好意的なんですが。

そんな期待に満ちた顔を向けられるとは、想像していなかったですね。

っていうか、もしかして私って変わり者扱いされているの?


『ガーン……』と心の中で呟きながら、ショックを受けた私はトボトボと皆の前へ歩を進めたのだった。


◆◆◆


好奇心に満ちた視線を一身に浴び、思わずたじろぐ私。


そうでした……貴族って、好奇心旺盛なんでした……。


居心地の悪さを感じながらも、私は気合いを淹れ直すと胸を張り、わざと自信たっぷりに話し出した。


「この度、私が立案したのは『アイドル計画』です」


『アイドルグループを作って借金返済しちゃいましょう計画』とフルネームで言いたいところだが、場違い感がすごいので自発的に省略しておく。


「アイドルとは、熱狂的なファンを持つ人のことを指します。今回、私はルカリオ王子、騎士団長のご子息キース様、宮廷魔術師団長のご子息レン様にご協力を依頼し、アイドルになっていただくことを承諾していただきました」


まだ話の全貌が見えず、困惑している人々に尚も話を続ける。


「この三名の方々で、アイドルグループ『チェスターズ』を結成したのですが、今後チェスターズの皆さまには歌と踊りによるファンサービスを行い、利益を生み出す活動をしていただくつもりです」


私の計画がよほど衝撃的だったのか、たちまち驚きと不安の声が聞こえてきた。

その中には『王族に旅芸人のような真似を?』や、『そんな高位の方々を見世物にするなんて……』といった、非難めいた言葉も多い。


うんうん、当然の意見です。

国の宝である彼らに、屈辱的な思いをさせたくはないと普通は考えますよね。


「とんでもない提案なのは百も承知です。しかし、ルカリオ様、キース様、レン様も我が国の窮状について熟慮された結果、計画に同意してくださいました。そして、この無茶な計画も捉え方次第では、国民に寄り添う王侯貴族というアピールにつながったり、新しい娯楽の提供、それに伴う国民の一体感など、いい面もあるに違いないのです」


三人が同意してくれた理由が、王妃様への畏怖の念と隣国の姫たちと結婚したくなかっただけという事実は黙っておく。

用意していた耳障りのいいメリット部分を強調していると、前世でのプレゼンの授業がぼんやりと思い出された。


「私の話だけでは不可解な点が多いと思いますので、これから彼らの様子をご覧いただきます。こちらにチェスターズの映像がございますので」


私は水晶を掲げるように持つと、魔力を流し込んだ。

にわかに皆の頭上が明るく輝き出し、チェスターズの三人の姿が空中に現れる。

すると、まだ三人が空に浮かび上がっただけなのに、若い令嬢が黄色い声を上げた。


「きゃーっ、並んで立っていらっしゃるだけで一枚の美しい絵のようですわ!」

「仲がよろしいのは知っておりますけれど、なかなかこんな場面は見られませんものね」


彼らが横に並んでいる映像だけでこの反応ですか。

ふふふ、ナイスリアクションです。


ニマッと笑った私はすでに勝利を確信していた。


再生が始まり彼らが国歌を歌い出すと、庭園は更に沸き立った。

興奮から我先に立ち上がり、口々に感想を述べている。


「こんな素敵な声をしていらしたのねぇ」

「聞き慣れた曲なのに、目が話せませんわ」


合間の談笑する様子や爆笑している顔が映し出されると、もはや声にならないのか悶絶する女性たち。

それは若い令嬢に限らず、母、祖母世代の女性も同じだった。

むしろ小さい頃を知っているからこそ、その成長に感動しているようだ。

普段大人びて見せている彼らも、影では少年らしい笑顔を浮かべていることが嬉しかったのかもしれない。


映像が終わる頃には皆が興奮で頬を紅潮させ、会場のボルテージは最高潮に達していた。


「今のは試しに映したものですが、今後、今の国歌を歌う姿を収めた完全版の水晶を販売いたします。また、ファンで構成されるファンクラブの開設を考えておりますし、人を集めてコンサートを開催したり、書籍販売などを国内、国外問わず行っていく計画です。皆様にはファンになっていただき、率先して話を広めてくださると嬉しいのですが」


私が言い終えると同時に、ダリアとアスターが真っ先に賛成してくれる。


「私、水晶が出たら買うわよ。ファンクラブも早く作りましょうよ!」

「私もファンになりましたわ! 早く生のお姿を拝見したいです!!」


お茶会の参加者たちもテンション高く二人に続いた。


「早く領地に戻って広めないとねぇ。まだまだ私の影響力を馬鹿にしてもらっては困るわ」

「うちの商会でも積極的に扱いますわ。まあ、こんなに素敵なのですから、放っておいても話題になるに決まっていますけれど」


無事、影響力を持つ貴族女性たちの後ろ楯を得ることが出来たようだ。


いつの間にか私の隣に立っていた王妃様が、微笑みながら皆を鼓舞する。


「このアイドル計画は、普段男性の補佐に回りがちな私たち女性が中心となって広めていく必要があります。貴族間の確執、貴族と庶民の垣根、国内国外、そういったことを取っ払い、一致団結してチェスターズを盛り上げていきましょう!!」

「「「「「「はいっ!!!!!!」」」」」」


王宮の隅まで届きそうな、やる気に満ちたいい返事が庭園をこだました。


「あ、そうそう、表向きは王妃である私の発案となっているから、アイリスちゃんのことは秘密にしてね」


王妃がウィンクをしながら付け加えると、皆クスクス笑いながら頷いたのだった。

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