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1話 ひらめきました!

新連載です。

楽しんでいただけたなら嬉しいです。

「た、大変なことになったぁーーー!!」


突然、まるでこの世の終わりを迎えたかのような悲痛な声が屋敷中に響き渡った。

その声には嫌というほど聞き覚えがあるし、間違えようがない。


あら、お父様の声だわ。


読書を中断した私は、意識をそちらへ向けた。

すると、なおも続く父の声……。


「うわぁぁぁ……。もうこの国はおしまいだぁーーー!!」


自宅に帰ってくるなり、大の大人が玄関で叫ぶとはただごとではない。

しかも、曲がりなりにも父はここ、チェスター王国の宰相を務めているのだ。

取り乱したところなど見たことがないし、王宮でよほどのことがあったに違いない。


すぐさま自室を飛び出した私は、マナーを無視して階段を駆け降りると、玄関で膝を突いたまま動かない父の元へと走り寄った。


「お父様、どうされたのですか? 王宮で一体何があったのです?」


傍らに同じように膝を突き、顔を覗き込むと、父が泣きそうな声で教えてくれた。


「こ、国王が隣国の詐欺被害に遭われたのだ。期限までに金を支払えなければ、この国は隣国に乗っ取られてしまう。アイリス、何かいい案はないか? すぐに稼げるいい方法が!」


アイリスとは私の名前である。

父はかなり追い詰められているらしく、なんとただの令嬢の私に意見を求めてきた。

お父様、尋ねる相手を間違えていらっしゃいますよ……と思いつつ、私は頭をフル回転させる。


そんな由々しき事態の打開策を急に尋ねられても……。

国を動かすほどの大金を稼げるうまい話が、その辺にホイホイ転がっているはずがないのでは……ん?

あるかも?

――私、思い付いちゃいました!


「お父様、どんな方法でもよろしいですか?」

「手だてがあるのか!? 今は非常事態だ。手段など選んではおれん。何か思い付いたのなら教えておくれ」

「では、アイドルグループを作りましょう! メンバーは王子と騎士団長の息子、宮廷魔術師団長の息子の三人です!!」

「は? アイドルグループ?? ……なんのことだか全くわからんが、それを作ったら金が入るのか? 国家予算の何倍もの金額だぞ?」

「おまかせ下さい! あの三人でしたら可能性は未知数ですもの」

「そうか……。ではやってみろ。あ、王妃に許可だけは取るのだぞ?」

「了解ですわ。それでは早速王妃様に面会希望のお手紙を書きましょう」


こうして私の勝手な思い付きだけで、『アイドルグループを作って借金返済しちゃいましょう計画』は幕を開けたのだった。



◆◆◆



私、アイリスはマーティン侯爵家の一人娘だ。

小さい頃から宰相の父に連れられ、王宮に遊びに行く機会が多かったからか、王子のルカリオ、騎士団長息子のキース、宮廷魔術師団長息子のレンとは今でも兄妹のように仲がいい。

私は彼ら三人より一つ年下だが、年齢の近い私はいつも三人に付いて回っていた。

いわゆる幼馴染みの関係である。


そして、ここが重要なのだが、私にはちょっと他の人とは違うところがあった。

生まれつき前世の記憶――つまり、日本で生活した記憶を持っているのだ。

特に隠す必要もなかったので、このことは両親と三人の幼馴染み、国王夫妻だけには伝えてある。


私に日本の記憶があったからといって、今までその知識を役立てたことはなかった。

なぜならこの世界には魔法が存在しており、特に不便に思うこともなく、知識を披露する必要性を感じなかったからである。

むしろ魔法の便利さに今でも慣れず、新鮮に驚くことがあるくらいだ。

たまに前世の記憶のせいで素っ頓狂なことを言ってしまい、皆に変な目で見られることはあるが、まあそれは置いておこう。


問題は、いかにして借金を返済するかである。

とうとう前世の記憶を生かせるチャンスがやってきたと、私は燃えていた。

なんてったって、前世の私はバリバリのアイドルオタクだったのだから。


ふっふっふ。

ようやくこの世界で私の記憶を役立てる時がやってきたみたいですね。

アイドルの概念がないこの世界で、初のアイドルグループを私が作っちゃいましょう!

なんせルカリオ、キース、レンはとーーってもイケメンで、アイドル性抜群なのだもの。

目指せ、一攫千金です!!


私は気合を込めて、グッと拳を握った。



◆◆◆



王妃への手紙を魔法でバビュンと送ったら、瞬く間にバビュンとお返事が届いた。

魔法があるのに手紙なの?と思われるかもしれないが、この国は情緒と風情を重んじているのだ――多分。


王妃様と無事にアポが取れた私は、意気揚々と王宮へ出発した。

これまた馬車というレトロな交通手段だが、これもまた情緒……以下略。

手紙も馬車も、慣れてしまえばなんということもない。


さて、まずは王妃様に許可を貰わなければこのプランは何も始まらないのだが、私は特に心配はしていなかった。


ルカリオ王子の母である王妃様とは、昔から実の母子のように親しくしており、しょっちゅうお茶会をしている仲なのだ。

今日も王宮の前でいつものように馬車を降りると、入口で警固中の騎士が顔パスで通してくれた。

少し微笑んでくれたので、私も令嬢らしくスマイルを浮かべる。

そのまま足取り軽く王妃様の自室へと直行するが、そこは勝手知ったるなんとやら……もはや通い過ぎて緊張することもない。


コンコココン


私と王妃様専用のノックで合図を送ると、すぐに中から声がかかった。


「アイリスちゃん、どうぞ入ってー」

「マリー様、ごきげんよう」


扉を開いた私が丁寧にお辞儀をしてみせると、明らかに不機嫌顔の王妃様。


「あら、嫌がらせのつもり? いつも通りに呼んではくれないのかしら?」

「えへへ。冗談ですよ、マリーママ。お邪魔しまーす」


さすがに人目がある時はキチンと振る舞うが、私と王妃様は二人きりだと大体こんな感じである。

王妃様は『ママ』呼び、国王様は『パパ』呼び。

こんなに親しく出来るのも、国王夫妻には息子のルカリオしか子供がおらず、女の子の私が珍しいからだろう。

ちなみに国王様のことはアランパパと呼んでいる。


「で、アイリスちゃん。今日はもしかしなくても、あのおバカさんがやらかしたことに関してかしら?」


さすがマリーママ、話が早い。

手紙には会いたいと書いただけなのに、訪問の目的に気付いているらしい。

国王であるアランパパをおバカさん呼ばわり出来るのも、しっかり者の奥さんのマリーママだけである。


「お父様から、この国が多額な借金を抱えてしまったと聞きました」

「そうなのよ。到底返せないような金額ね。この国を引き渡すか、あちらの国の姫をルカリオの妻にすれば借金を帳消しにするって言っているの。でもそうやって長女を嫁入りさせて、この国を内側から牛耳るつもりでしょうね」


それではどちらにしろ、この国は乗っ取られてしまうことになる。


「あちらの第一王女って、以前からルカリオに好意を持っていましたよね?」

「あれはもはやストーカーね。次女と三女がそれぞれキースとレンを狙っているのも有名だし、あわよくばこの機会に二人もまとめて手にいれようとしているみたい」


なんと!

ルカリオだけでなく、キースとレンまで……。

私の大切な幼馴染みたちをお金で手にいれようだなんて、そんなの許せません!!


「マリーママ。私、ちょっとした計画を立ててみたのですけど、聞いてもらえます?」

「まあ! アイリスちゃんの計画なんて、さぞ斬新でしょうね」


ふふっと笑って肯定すると、私は『アイドルグループを作って借金返済しちゃいましょう計画』について説明を始めた――のだが。



「……それで、アイドルっていうのは、格好良くて、歌って踊れる人たちなんですよ! ルカリオとキースとレンをアイドルに……」

「歌って踊る? あの子たちが?」


説明を始めたそばからマリーママが笑いだした。


「フフフ……アハハハハハ! 想像しただけで面白いわ、アイリスちゃん。そのアイドルほにゃらら計画? ぜひやってみてちょうだい」


え? まだ本格的な説明はこれからなのですが。

アイドルについて話しただけで、こんな早くにゴーサインが?

まさか王妃様、彼らが歌って踊るのを見たいだけなんじゃ……。


「でも本人たちは絶対嫌がると思うんですよね……」

「あら、『嫌なら結婚する?』って言うから平気よ。あの子たち、結婚との二択って言われたら何がなんでもアイドルになって、稼いで借金を返すと思うわ」


あらら、ルカリオたちってばそんなにあの姉妹が嫌なのですね。

でもマリーママの許可さえあれば、結構無茶も出来るのでは?

何と言っても王妃なので。


「マリーママ、王家の衣装係とか作曲家、魔術師さんたちにも手伝ってもらってもいいですか?」

「もちろん。借金のことも位の高い者たちには知らせたのだけど、もう噂が回っているみたいね。国を乗っ取られるくらいなら皆いくらでも協力してくれるわ。私からもアイリスちゃんを手伝うように言っておくから」


王妃の言質は取りました!

これであとは本人たちの了承を得れば……。


肝心の三人、ルカリオ、キース、レンだけが何も知らされないまま、計画は進んでいくのであった。

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