可もなく不可もなし元王女と、奥の手の悪役皇女
「可もなく不可もなし王女の茶番劇」の続きの「可もなく不可もなし元王女と、流行遅れのヒロイン」の続きです。
2作品とも読んでなくても分かるようには書いたつもりですが、こちらも書き殴ったので諸々雑です。
ヒマつぶしにどうぞ!
ヒロインの恋物語といえば、そう、王道の身分違いの恋。
もはやこれに関しては、古典文学から漫画やアニメや演劇やドラマや映画やもう全てのジャンルで長年愛され続けている。ラノベの恋愛モノでもぶっちぎり1位で愛されていると思う。異世界だろうが現実恋愛だろうが王道は読まずにいられないですよね??
好きになっちゃいけない相手を愛してしまった切ない恋から、悲恋になるルートも純愛を貫くルートも狂愛に闇落ちするルートも全て良い!どんなエンドを迎えてもたられば妄想が止まらない!!
そして、恋物語のスパイスは、当て馬キャラ!
ツンデレだからヒーローには素直になれなくてヒロインには意地悪しちゃって恋敗れる当て馬キャラも好きだし、応援したり茶化したりの第三者だったのに自分も好きになっちゃった当て馬キャラも最高だしーーー
「ーーー妃殿下」
あれ既視感。と思った皆様、いいえ違いますわ今回は侍女に叱られているわけではありませんの。
あ、はじめましての方々、私、祖国と変わらず嫁ぎ先の帝国でも侍女に叱咤されている”可もなく不可もなし元王女”です!ホホホ。
「畏れながら、我が愚弟に成り代わり謝罪させていただきたく存じます。謝罪することを、どうかお許しいただけないでしょうか」
険しい表情の騎士様も…なんて佳麗なのでしょうか!!麗しの男装騎士様!!いや別に騎士様は男装しているわけではなく妃殿下専属護衛騎士の格好しているだけなんですがまあそれがそれが格好良くて!!
そんな騎士様が謝罪したい理由は、皇子の護衛騎士である騎士様の弟君が、まあそれはそれはわたくしのことがお嫌いなようで会う度に態度がお悪くてフフフフフ…しかし!私は分かっているのだ!護衛くん、きみ…シスコンでしょう!!敬愛する姉上を私に取られて拗ねちゃってるんでしょう!!フハハ!!わたくしにはお見通しでしてよ!!
「事実、ですから、お気になさらないで?」
「しかし、」
「それよりも、おとうとぎみと皇女様は…どのようなご関係ですの?」
護衛くんにあーだこーだ言われている時、さっきまで私と一緒にいたヒロインちゃんを遠くの方から睨め付ける視線を感じたのだ。
そしてその正体はまさかの、皇女様。ここで可もなく不可もなしな私の隠れた才能、目が異様に良い!が活かされた瞬間である。あ、チートじゃないよ?私の努力の賜物です!
「それは…」
騎士様はなにやら言い淀んでいる。うーん、なんだろうか。
そもそもが護衛くんの目的は、私が末端貴族であるヒロインちゃんと仲良くしていることに対する苦言だったわけだ。何の実績もない者と懇意にするなと、直球ストレートで言われたのだ。
そう、護衛くんと騎士様は驚くべきことに平民なのである。姉弟揃って凄すぎない?だからこそ、なぜ皇女様が…ハッ!!まさか!!
「その…皇女様は……畏れ多くも我が愚弟をお慕いくださっているご様子で…」
はいキタやっぱりー!!きゃー!!
騎士様曰く、幼馴染のような関係性らしい。若い頃の騎士様が皇女様の護衛騎士だったその縁で、幼き護衛くんが皇女様の遊び相手になったことがある。ってなにそれワクワクしかない!!なお、平民なのに?というツッコミは無視します。野暮なことは言うもんじゃありませんわよ!!
「まあ!そのこと、他の皆様もご存知で?」
「はい…その…公然の秘密と申しますか…」
「そうですの。それで、貴女は、お困り?」
「それは…」
どんどん声が小さくなっていく騎士様。
なんと護衛くん、恋仲などあり得ないだとか公言しているよう。フフフ…わたくしの目は欺けないわよ?護衛くん、あなた…ツンデレ属性でしょう?この二人は両片思いですわ!!
というか護衛くん…平民で皇子の護衛騎士になれるほどの実力と実績があり、騎士様の歳の離れた弟キャラでシスコン、見た目はお可愛いのに強ぇギャップ萌え要素あり、皇女と幼馴染のツンデレとか…属性モリモリだなおい!さてはあれだな、作者に好かれている系か!メインヒーローなはずの皇子よりてんこ盛りやないか!
主人公であるはずの私は…顔立ちも体型も髪色も目の色も、ついでに頭脳も可もなく不可もなしだと祖国で蔑まされていたというのに!私の主人公要素なんて、前世の記憶がぼんやりあるくらいである。だから知識チートもゼロ!残念主人公!
そう、私が転生してきたらしいこの世界は、ラノベらしい中世ヨーロッパ風の世界観なのである。無論、戦争もあるが、魔法はないしモンスターもいない。ファンタジー要素ゼロ!残念すぎる!
水面下で敵対している帝国へ身一つで嫁いできたら戦争に巻き込まれそうになり一芝居打ったり、お披露目パーティーで貶されていたヒロインちゃんを発掘して仲良くなったり、って、あれ、私お騒がせ主人公キャラになっている感じですか?戦争回避できた後も社交界で暗躍するために勤しんでいたから私今気づきましたよ?
うーん、ま、過ぎたことはどうにもならないので、今回こそは暗躍する!わたくしは真の悪役になるのですわ!フフフフフ…
さてと、まずは数少ない情報を整理しよう。
見目麗しい帝国の皇室ファミリーは、まだ、皇太子を決めていない。理由は、分かりません!誰も帝国の情勢とか教えてくれないし私の頭では推察もできないし!ただまあ、帝国は周辺諸国の中で軍事力も経済力も人口も諸々全て断トツを誇っているし皇帝陛下もご健在だし、早急に皇太子を決める必要性はないのだろう。
義兄殿下、皇女様、そして我が配偶者様である皇子の三兄弟だから子息二人による後継者争いとなる。多分。皇女が皇太子になった先例はないから多分ね。帝国の歴史は一応学んでいるんですよ!独学でね!
まあ私の暗躍の方向性はそちらではないので程々に情報収集しつつ、今はなんといっても皇女様が最優先事項!!
皇女様は、とにかく良い噂が全くないのだ。側妃のお子だからなのか、真実なのかは分からないけど。でも皇室人気ナンバーワンの義兄殿下も側妃のお子だしなあ。皇女様はとにかくお暗く、ご本人の強いご意思で滅多に公の場に出ることなく、なにやら呪術の類を研究しているとかなんとか。なにそれまさか陰湿悪役皇女キャラか?!
ということで私はさっそくダメ元で皇子へ相談してみたら、なんと皇女様に会えることとなった。
ええ、例の如くニコニコ笑顔だったよ。もうなんか慣れてきたら、怖くなくなってきた。慣れってすごい。え、例の笑顔ってなに?と思った方々へ、前回の話をお読みいただければ例のゾッとする笑顔を知ることができますわよ…ホホホ…
さてさて、皇女様をどう調略するか。貴族らしい回りくどいのは面倒でも調略では大事な場合もある。
しかし!皇女様はあの直球ストレートがお好きなはずですから!わたくしも火の玉ストレート投げさせていただきますわ!フフフ…
「皇女様、あくやくに、ご興味、ございません?」
「………あ、悪、役……?」
「ええ。皇女様は、例のご令嬢と、おもいびとがむすばれても、よろしくて…?」
にっこりと、慈愛溢れる微笑みを皇女様へ向ける。
「わたくしであれば、お力になれましてよ?」
皇女様は、ただの引きこもりではない。
事実、最近出始めた護衛くんとヒロインちゃんの噂を知っている。だからあの日遠くの方から見ていたのである。あれ以来度々目撃している。
「………わっ、わたくしは…わたくしには、想い人など……それに、貴女は、あのご令嬢と仲がよろしいのでは…?」
「ええ。どのような身分や、立場の者であったとしても、使える者とは、仲を深めるべきですわ。わたくしは、様々な後ろ盾を、得なければなりませんの」
少し目を細めて見据えれば、唾を飲み込んだ様子の皇女様。
フフフ…怯えていらっしゃるのかしら…フフフフフ…このまま攻めさせていただきますわ!!
「ですが、優秀なあの方に、彼女はふつりあいだと、わたくしは思いますの」
皇女様もそうお思いでは?と尋ねれば、目を見開いて固まった。
そして、美しい姿勢から更に居住まいを正し、困惑の表情からガラリと形相を変えた。
「…はい。あの方に、彼女は不釣り合いだと、わたくしも思います。なぜならばあの方はーー」
ーーす、すげー!皇女様ガチなオタクだった!!皇女様、護衛くんの強火担だよリアコだし!!怒涛の愛すべき推しの素晴らしさノンストップ語り、もうすげーしか感想ないです!!
もうね、初恋を拗らせすぎてあのお方に見合うご令嬢でなければ絶許!になってしまっているよこれは。新ジャンルの足りない足りないゾンビである。
うーん、だからといって皇女様とならお似合いでは?とは絶対言えない。ツンデレ護衛くんによる公言がトラウマとなっているに違いない。拗れに拗れている原因できっと、これって両思い…?っていう瞬間何度かあったはずだこの幼馴染の間には。いやーなにそれ垣間見たかったキュンキュンするやつやん!!
であるならば、運命のご令嬢が現れるまでの間、虫除けとして皇女様が婚約者の座に居座るというのはどうだろうか。ああ!いいよ!これぞ悪役!!
よし、今回の作戦は題して、悪役皇女大作戦である!!
「皇女様、あくやくに、なりましょう?あの方の、助けとなれるのは、皇女様しか、おられません…!」
膝をつき、皇女様の両手を握りしめ、作戦内容を伝えた。
皇女様の眼鏡越しに見える瞳の奥が、ギラリと光った気がする。
そう、皇女様は典型的な眼鏡っ子なのである!この世界にコンタクトレンズないのが悔やまれるー!でも美女の眼鏡ってそそられるので眼鏡の形だけ変えさせてもらっても良いですかー!!
そうして、垢抜けない系地味皇女様をキラキラ悪役皇女へ変身させるべく、暗躍の日々が始まった。
しかし元の素材が良いから皇女様!!磨けば光る原石!!悪の原石!!すっごく自分で自分を呪っているよこの皇女様!!もしかして私はこの方を悪の道へと誘う裏ボス系悪役だったのか!!私という悪の壁を乗り越えなさい!!フハハハハ。え、魔王っぽい?あ、あとちなみに皇女様は私より歳上です。いや、精神年齢は上だからいいか?
まずは眼鏡という自分の顔面評価を下げがちなアイテムを皇女様の強め美人なお顔立ちにピッタリな物へと変え、元々備え持つお美しさや高い教養を褒め称え、私が前世で学んだ悪役のイロハを伝授した。またまた地味チート発動!
そんなこんなで、自分なんかどうせ…呪いから、自分は悪役!自己洗脳へシフトチェンジした皇女様に、悪役皇女の総仕上げとして私のお茶会へご参加いただくことにした。フフフ…見くびっている者たちよ覚悟なさい!!
「ねえ、あの噂、本当なのかしら?」
「お二人でお話になっているところを、偶然にも見られた方からご様子を伺いましたの」
「まあ!どのようなご様子でいらしたの?」
「それが、まるで恋仲のような雰囲気で、真剣な眼差しでお話しされていたようですの!」
「まあまあ!殿下の護衛騎士と、妃殿下のご友人が恋仲だなんて…素敵ですわね!」
「ちょっと、お声が大きいですわよ?本日は、皇女様もいらしているのですから」
「そうでしたわね。お茶会にお見えになるなんて…何年振りかしら?」
「例のご令嬢も参加なさっているのでしょう?」
「皇女様は、噂をご存じなのかしら?」
「お気の毒に…皇女様は幼い頃より慕われておられたのですものね…」
「あら、まだ分からないわよ?婚約者になってはいないのですから!」
「でも皇女様は…奥手でいらっしゃるから…」
くすくすと、ご令嬢達はお上品に微笑んでいるようだが内容はクッソ下品である。
というか、皇族に対して未熟者だなんてよく言えるな。というか不敬!貴女何様!
「ーーあら、おくて、ではなく、おくのての間違えではなくって?」
「………えっ……奥の手…?に、ございますか…?」
「ええ、奥の手、ですわ」
ありがとうご令嬢ちゃん!綺麗な発音を教えてくれて!まだまだ帝国語のスピーキング未熟ですのわたくし!ホホホホホ!
ふふふと、高圧的かつ優雅な微笑みを見せつける。
「あの御方は、帝国の、原石でしてよ?」
そう、悪の原石。いやもう輝いているから宝石かーー
「ーーあの方に相応しいのは、このわたくしよ!」
噂を聞いたのだろうミーハーご令嬢達に群がられているヒロインちゃんに向かって、高らかに、しかし美しい声色で宣言した皇女様のお声がこちらまで届いてきた。
すすすと素早く優雅に近付けば、スラリと背の高い皇女様がヒロインちゃんを涼やかに見下ろしている。きゃー!!もっと睨んで(ハート)うちわ作りたい!!私にもその目を向けてー!!
「この場で宣言するわ!わたくしは、あの方の婚約者となります!」
その神々しい皇女様のお姿に、ヒロインちゃんは紅潮して瞳が潤んでいる。こ、これはもしや…!!
「皇女様…!お、畏れながら、私…皇女様のその凛としたお美しさに感動しております…!私はまだ、未熟者でして、唯一のだれかを心より愛しいと思うその気持ちを、お恥ずかしいのですが一度も思ったことはございませんが、今…皇女様のお姿を拝見し、いつかは私もそのような気持ちを抱くことのできるお相手に出会いたいと、そう思いました…っ!」
さっ…!さすがヒロインちゃん!!修羅場回避しちゃったよ!!皇女様も悪役の仮面剥がれて赤面しちゃっているよ!!ピュアパワーで敵の戦意を喪失させるなんて!!ピュアな愛で世界を平和へ導く癒しのヒロインちゃん爆誕である!!
「な、なんて…素敵なのかしら…っ!」
「あ、愛が、世界を救うのですわ…っ!」
完全に出番のなくなった私は、ヒロインちゃんにより悪き心が浄化されているご令嬢達とこの場を盛り上げるため、拍手を扇動することにした。
たちまち拍手喝采となり、この度の妃殿下主催のお茶会は、伝説の神回となったのである。フハハハハ!!
さて、読者の皆様、予想していましたでしょうか?
わたくしは、想定内でしたわよ!護衛くんのお説教を小一時間受けましたわよ!フフフ…わたくしを舐めてはいけませんわ…申し訳なさげな表情しつつ、右から左へ受け流しながら脳内では妄想を滾らせておりますのよ…フフフ…
というか、むしろお礼を言ってほしいくらいだわ!護衛くんの大好物であろうお姉様キャラ(元悪役キャラ)に皇女様を仕立て上げたのはこのわたくしでしてよ!!しかも念願の婚約者になれたのは絶対にわたくしのお陰ですわよ!!
騎士様曰く幼き護衛くんは、同い年なのに大人びている皇女様に一目惚れしたらしいと。騎士様も姉として二人の関係性にずっとヤキモキしていたのだと。
シゴデキ姉なので騎士様からはお礼を言ってもらえたが、どうしてあのような更にすれ違いを生むような演技指導?をしたのか尋ねられたので、フフフと無言で微笑みを返した。あれ、フハハ系の笑みが正解だったか?まあいい。恋愛に必要なスパイスとしての悪役妃が暗躍する!記念すべき!第一歩となったのだから!
「ーーそろそろ我が妻を、解放してくれないか?」
皇子の鶴の一声で、お説教タイムは終了となった。
未だ皇子のワガツマブームは去っていないらしい。ハハハ。
そんなこんなで、喜ばしいことに護衛くんはヒロインちゃんをやっと認めてくれたらしい。ええ認めざるを得ないでしょうね!今回はヒロインちゃんのお陰で全てがまるっと平和に収まったのですから!
そうして、皇女様とも仲良くなった私は、皇女様をお姉様と呼ぶ権利をゲットしたのであるーーー
「や~っとだな!めでたいめでたい!」
「うるさいやめろ、そんなんじゃないから」
「礼を言わなければならないな」
「そんなつもりじゃなかったらしいぞ~?」
「うるさい黙れ」
「いや、義姉上達にだ」
「……妃殿下に、何か話したの?」
「政治的な話は一切していない」
「へ~?随分とお目が高いようだな~姫サマは」
「使えると思ってはいたが、今回の件は想定外だった」
「たしかにな~まさかあの皇女サマがああなるとはな~?」
「……妃殿下が、”帝国の原石”って、言ってたらしい」
「ああ、俺も聞いた」
皇子が、側近達へ最近見せるようになった表情をーー愉しげに片方の口角が上がった笑みを、浮かべた。
「もう、夢物語ではなくなったな」
ーーー”可もなく不可もなし元王女”が、内気な皇女を社交デビューさせたらしい。
そんな憶測を呼ぶ噂が、帝国をはじめ諸国に広まっている。
まさかまさか、である。たしかに結果的にお姉様は社交デビューを果たしたわけだけど、お姉様に関わるいろんな人達から感謝の言葉を掛けられた理由が分かったわ。それほどまでに皇女の扱いに困っていたということなのだろう。
まあ、周辺諸国から私…実はすげー奴なのか!?と思われている可能性がおおいにあるのだろう…フフフ…
と、いうことは…フフフ…いよいよ私の時代が到来したのね!!
と言いたいところではあるが、うーん、今のところ私がなりたいのは悪役である。というか、なんで私は悪役に惹かれるのだろうか。あれ、なんでだっけ?うーん、ま、いいかそんなことは。
そう、そんなことよりも、だ。流石ヒロインちゃん!愛され体質が凄まじい!!でも皇子を好きな素振りはないし、ご令嬢ではなくご令息達とは何もないし。これはもしや乙女ゲーで言うところの友情エンドか…?いやいやここは乙女ゲーっぽく隠しキャラ的な難易度高め攻略対象者とか現れてくれー!!そして私は暗躍する!!フハハハハ!!
調子付いた能天気な私は、まさか危険なフラグを立てていたとは知らずに、いつものように妄想の世界に浸っていたのであるーーー
次話でやっと恋愛要素爆発的に増えます。多分。あと前世の話とかも少し出てきます。多分…
怪しさの増している皇子達の会話劇ですが、その辺りの話も進みます。てんこ盛り…
2024.08.21続きの短編書きました。