7.突然の訪問と聖女様の塔
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「コース選択ようやく終わったわね。」
オリビアがふうっと息をつく。
「思っていたより疲れたわ…。」
ソフィーは、コース選択のために行った教室の壁にそっと寄りかかっている。
他の子たちは教室の空いている席に座ったりしている。
「私たちは文字が読めるから行きたいコースを紙に書いて、時間割とかをもらっただけ。
でも、読めない子たちは全部説明してもらわなきゃいけないからけっこう待ったわよね。」
いきなりダリ先生が教室に乗り込んできた。
「3人とも、来てくれ。」
焦った顔をしている。
私たちは先生に続いて外に出た。
「どこに行くんですか?」
「馬車置き場だ。」
「上を見て!」
オリビアが空に向けて指をさす。
金箔の目立つ馬車が飛んでいる。
白いペガサスがふわりと羽を羽ばたかせ、整備された平地に降りた。
ここが先生の言う馬車置き場なのだろう。
ドアには国旗のマークの飾りが付いている。
よく見慣れた馬車だ。
「王家の馬車。」
「そうなの??」
「王家の馬車はこんな感じなのね。」
「それにしても、どうしてわざわざ叔父上と叔母上がいらっしゃるのかしら?」
ドアが開いた。
即座にカーテシーをする。
「頭を上げなさい。」
「「「はい。」」」
ジェームズ国王陛下とアメリア王妃が立っている。
2人とも、王家(だから金髪)で40代だ。
「ずいぶん久しぶりね、リリー。
会ったのは私の誕生日パーティー以来かしら。」
今度は叔母様が声をかけて下さった。
「お久しぶりです、アメリア叔母様。」
「この3人の女の子たちが聖女になったのね。
校長先生から手紙が来て、すぐに来たのよ。
これは国を左右するビックニュースだもの。」
叔母様がふふふ、と嬉しそうに笑っている。
「ダリ、特別教育を受けさせる準備を進めるんだ。
聖女が現れたとお披露目するパーティーを開かねば。
3人は入学したばかりだからマナーもまだあやふやなところがあるだろう。
本来より1ヶ月延長して、2ヶ月後にパーティーを開く。」
お披露目パーティー??2ヶ月後に??え??
先生、叔父様を止めてくださいよ。
王宮で魔導士として働いていたと言ったでしょ。
こんな慣れた様子で会話をしているのだから。
「かしこまりました。」
ちょっと……。
「聖女様の塔に3人が泊まれるようにしてくれ。護衛も探さねば。」
護衛??どういうことなのかしら。
「前回の記録を探して、前回と同じように全て進めます。」
「頼んだ。」
またダリ先生が深くお辞儀している。
「お披露目パーティーの支度は私が監督するわ。
またよろしくね。」
「「「よろしくお願いします。」」」
そう言われたらこう返すしかないでしょ。
いくら予定がたくさん一気に入ったり、質問ばかりが頭に浮かんでいても。
叔父様と叔母様が馬車に乗り込んだ。
お見送りをした。
「2ヶ月後にお披露目パーティーですか?」
ソフィーが先生に近付く。
「1ヶ月伸ばして下さったぞ。」
「特別教育って何ですか??」
私とソフィーは、私の従兄弟であるウィリアム従兄様から特別教育の説明を聞けた。
でも、オリビアは聞けていない。
今度はオリビアが先生に近付く。
「この国の王子や聖女様のような、特別な身分か力を持つ人が受ける教育だよ。」
「私たち聖女様の塔に泊まるんですか?
ティシアン領は学園に近いから寮に泊まる予定ではなくて、支度が全くできていないのです。」
「申し訳ないが、寮に泊まる生徒たちが荷物を運んでくる今日の午後できるのが理想だ。」
「今日の午後…?」
私も先生に近付く。
「数日くらいあとでもいいよ。
何とかする。」
「そうですか…。」
車輪の音が聞こえてきた。
「とても立派な馬車ね。」
「そうね。綺麗。」
振り返る。
「これは私の家の馬車だわ。」
「リリーお嬢様、お迎えに参りました。」
「ダリ先生、今日荷物を運ぶ他にすることはありますか?」
「いや、ない。
帰ってもらって大丈夫だ。」
「わかりました。
また会いましょう。」
ソフィーとオリビアが頷く。
馬車に乗った。
エラとルイスが座っている。
「エラ、ルイス、もう馬車に乗っていたのね。」
「馬車置き場を探していたら、馬車が僕たちを見つけてくれたんです。」
「そうだったの。」
「それよりも、リリーお嬢様がどこに行くのか分からないまま連れられて心配でした。」
「私でさえ分からなかったのに、エラたちが分かる訳ないわね。」
苦笑いを浮かべる。
……聖女様になった。
初めての学校、特別教育、聖女様の塔での生活、お披露目パーティー。
これからたくさんのことがありそうだ。
「リリーお嬢様、あの、先ほど一緒にいた方々はお友達ですか?」
暗い顔をしていたかしら。
2人が心配そうな顔をしている。
「そう……お友達よ。」
新学期も、聖女様という役職もお友達と一緒だわ。
3人で微笑んだ。
「リリーお嬢様たちのお帰りです。」
「やっぱり王立学園とティシアン領は近いわね。」
「そうですね。」
使用人たちが私にお辞儀をしている。
その少し奥にお母様とお父様が立っている。
「お母様とお父様だわ。」
馬車から降りた。
「「お帰りなさい。」」
「ただいま帰りました。」
「始業式はどうだった?」
「ウィリアム従兄様がお祝いの言葉を言っていたわ。
始業式の話はディナーの時でもいいかしら。
私、報告があるの。」
エラとルイスに手招きをした。
使用人が全員呼ばれたと思ったのか、他の使用人たちも一気に集まってきてしまった。
まあ、この状態の方がいいかもしれないわ。
聖女様の塔への引越しには、荷造りを手伝ってもらう人たちがいないと大変だもの。
「私、聖女様になったの。」
「「え?」」
「そうなのか?」
「2人のお友達も一緒よ。」
「リリー、おめでとう。」
お母様の声を皮切りに拍手をしてもらえた。
「それで、聖女様の塔に引っ越さなくてはいけないんですって。
ソフィーみたいに家の位が低くて、いい警護を付けることができないかもしれない人のためらしいわ。」
「…寂しくなります。
いつ移動するんですか?」
メイドのベルが目を潤ませている。
ベルは私が産まれる前からいるからか、お母様くらい寂しそうな顔をしている。
「他の生徒たちが寮に荷物を運び込む今日が1番いいらしいわ。
数日くらい後でもいいとは言ってくださったけれど。」
「それなら荷物を選ばなくちゃ。」
午後、荷物をまとめるために、とても大変だった。
着るものから、日用品から、筆記用具まで必要な持ち物を選んだ。
何十も部屋のあるこのティシアン領主邸から、空き箱を探して荷物を詰めていく。
ここにいる人が全員手伝ってくれたからか3時に終えることができた。
「リリーお嬢様、ハトが手紙を運んできました。」
「お手紙?」
「どこからの手紙だ?」
お父様にお手紙を渡した。
「王立学園から、4時にリリー以外は集合できそうで、リリーが行けるのかどうか伝えてほしいそうだ。」
「1時間もあれば大丈夫そうね。」
「返事を書いてくるよ。」
「ありがとう、お父様。」
渡り廊下を見た。
使用人たちが私の荷物を詰めた箱を運んでいる。
「リリーお嬢様、馬車に運ぶ箱はこれが最後です。
馬車にお乗りください。」
「ありがとう、イーサン。」
執事の制服に白いほこりが付いている。
「ほこりが付いてるわ。」
手で払う。
「ありがとうございます。」
にこっと微笑みかける。
「リリーお嬢様、お通りください。」
午後の日光と、馬車がとまっている様子が視界に入る。
「馬車の準備ができているのね。」
「できております。」
「リリー、荷物は使用人に運ばせられる。
無理に荷物を運ばなくていい。
エラとルイス。」
「「はい。」」
「頼んだぞ。」
2人とも深くお辞儀をしている。
学園への門をくぐった。
ウィリアム従兄様がこちらに向かって手招きしているのが見える。
近くには馬車がそれぞれの領地に戻ろうと動いている。
「馬車をとめて。」
窓から外を覗く。
「ウィリアム従兄様、どうしてここにいらっしゃるの?」
「校長先生に頼まれたんだ。
リリーを聖女様の塔に連れていくようにって。
僕は生徒会長だし、よく知っている人がいた方が安心だろうと思ったんだろう。」
「では、道案内をお願いしても。」
ウィリアム従兄様が御者に方向を教えてくれた。
フロアを過ぎ、中庭と学生寮の間を進んだ。
「聖女様の塔だわ。」
「行って、お友達が待っているよ。」
細くて高めの白い塔が見える。
その下に、2台の馬車がとまっている。
ネイビーブルーの小柄な馬車。中にソフィーが座っているのが見える。
もう1台は、赤色で広めの馬車。オリビアは馬車の外に立っている。
「待たせたかしら?」
「大丈夫よ。」
「気にしないで。
早く入りましょ。」
オリビアはもう入りたいらしい。
クスクス笑う。
「そうね。」
「この塔に入れるのは何十年ぶりか…。
ドアノブに全員で触れて開くんだ。
聖女様でないと開かない。」
ドアノブに3人の手が触れる。
「「「せーのっ。」」」
綺麗な見た目とは反対に、長年使われなかった建物の音がして開いた。
中央にある螺旋階段にツタが生え、巻きついた。
木の床から上へと繋がっている。
「わあ。」
「びっくりしたわ。」
「この螺旋階段で移動するのね。
何階建てなのかしら?」
「ここの階は共用部分。上の階は聖女様の人数分あると思う。」
「上がってみましょう!」
1つ上の階へ行く。
黄色のドアがある。
右にも左にも、この部屋の壁以外は何もなさそうだ。
「私、もう1つ上に上がってみてもいい?」
「いいと思う、ソフィー。」
「じゃあ、私はソフィーより1階上に行くわね。」
「分かったわ、オリビア。」
「ねぇ、2人とも。」
オリビアの声がはっきり聞こえる。
「どうしたの?」
「リリーのいる階はドア何色?」
「黄色よ。」
「そうなの?
私のいる階は水色なのに。」
「やっぱりそれぞれ違うのね。
私は赤よ。」
「きっとそれぞれのテーマカラーみたいなもんだな。
魔力診断の時、魔法塔の窓が染まった色と同じ色だ。」
「そうだったわ!」
「使用人たちを呼んで、荷物を運んでもらうよう指示してくるよ。
とりあえず中を見てみな。」
「「「はい。」」」
同じタイミングで部屋へのドアが開く音がした。
左に勉強机と棚、その右にクローゼット、1番右に天蓋付きベットがある。
家具は全て明るい木だ。
「あれは、花瓶?
ゆりが入っている。
勉強机の明かりもゆりの形だわ。」
「リリーお嬢様、お荷物を持ってきました。」
「ありがとう。
服はクローゼットに。筆記用具は机の上に。本は棚にお願い。」
「かしこまりました。」
荷物が全て入ると、黄色と白っぼい部屋になった。
「リリー、荷物は入れ終わった?」
「入ってもいいかしら?」
「どうぞ。」
「木が薄い茶色なのね。」
「ソフィーは違うの?」
「私は白い木よ。
私の領地ではしょっちゅう見かけるの。」
「私は赤っぽい木が家具に使われているわ。」
先生が部屋に入ってきた。
「部屋の仕組みは変わらないなあ。
勉強机の照明と花瓶と木は違うはずだ。」
「なるほど。」
「次は1階を見にいっても、いいかしら?」
ソフィーの提案で1階に移動した。
ダイニングテーブルと、椅子が3つある。
大きな棚もある。
天井にはシャンデリアがかかっている。
ダイニングルームだ。
「これからこの塔に泊まるのね。」
ありがとうございました!
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