6.入学セレモニーと魔法診断
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演台…体育館にある校長先生などが話す時用の台
フロアのステージの明かりがパッと付いた。
演台に金髪で金色の目をした男子生徒が立っている。
ウィリアム従兄様!
「第2王子…!」
「ヘンリー殿下じゃないの??」
ヘンリー殿下はこの国の第1王子だ。
ウィリアム従兄様とは違って、あまり会ったことがなく、数少ないお話をした記憶さえぼやけている。
金髪に高い背丈と、低めの声の持ち主だということは分かる。
あと分かることと言えば、ヘンリー殿下とウィリアム従兄様の違いくらい。
ヘンリー殿下はウィリアム従兄様より、1歳年上で、身長が高く、ほっそりとしていて、声が低かったような気がする。
「普通、この場では第1王子が歓迎の言葉を言うと兄上に聞いたわ。」
「ヘンリー殿下は3年生、最後の学年なのに?」
「ウィリアム様だ。」
「新1年生の皆さん、入学おめでとうございます。
新2年生となる、この国の第2王子で生徒会長の、ウィリアムと申します。」
礼をする姿も美しい。
生徒たちの息を飲む音が聞こえる。
「実は兄のヘンリーが歓迎の言葉を言うはずだったのですが、兄の体調不良により私がすることになりました。
申し訳ないですが、どうかご理解を。」
少し眉をひそめている。
「今日は魔法診断とコース選択をすると聞いています。
自身の魔力を、学ぶことを、皆さんのこれからに生かしてください。
改めて入学おめでとうございます。」
拍手が響いた。
ブラウンヘアの男子生徒が手を挙げている。
「皆さん、前に座っている方から私に続いてください。
魔法塔に移動します。
そこで魔力の鏡を使って魔法診断をします。」
私たちは1列目に座っているからすぐに立った。
「リリーお嬢様、魔法診断って何ですか?」
「自分がどれくらい強い魔力を持っているか、自分がどんな魔法の属性を持っているのかが分かるテストらしいわ、エラ。」
ルイスとエラがなるほど、というように頷いている。
「ねぇ、入学希望書に希望のコースを書く欄があったわよね。」
「ええ。」
入学前時点での希望のコースだから変えることはできるみたいだけれど、変える人はあまりいないという。
「リリーはどのコースを書いたの?」
「私は貴族コースと領主コースと書いたわ。
跡継ぎは私1人で、お父様は養子を考えていないから、私が領主になる予定。」
「そうなのね。
わたしもリリーと同じコースを書いたの。
わたしは1人っ子ではないのだけど、いるのは妹だけで。
良かった、リリーも同じで。」
「嬉しいわ。
ソフィー、授業でもよろしくね。」
私たちは案内役の男子生徒の後ろについて、このフロアを出る。
さっき通った階段を降りた。
校舎から出て少し歩いた。
レンガのたくさんの花壇やベンチが見えてきた。
木もある。
中庭だ。
クローバーや草があるだけで、花壇の上にお花が咲いていない。
まだ春先で、少し冷えるものね。
しばらく中庭を通ると、先にいくつか塔が見えてきた。
「いくつも塔があるのね…。」
ソフィーが顔を手で隠して、塔を見上げている。
「そうね。」
右に1つ、太くてやや低めの塔がある。
紫色のステンドグラスが目立っている。
左の1つは、比較的細くて高めの塔だ。
窓は濁った白みたいな色をしていて、中が見えない。
「ずいぶん前に建てられたように見える割には綺麗な白い塔ね。
いつも掃除してるのかしら。」
「よく気がついたね。」
案内役の男子生徒の、ハシバミ色の瞳が私を捉える。
「ありがとうございます。」
「左に見えるこの塔は聖女様用の塔なんだ。
聖女様になった女の子たちは大きな力をコントロールできるようになるために特別教育を受ける。
もちろん普通の授業も受ける。
2つの教育の時間確保をしやすくなるように、ここに泊まるんだ。
…でも、表向きは聖女様を護衛するためさ。
歴代の聖女様の記録からすると、聖女様は優しくて賢ければ、身分は関係ないみたいで。
位が低い場合は特に、持っているお金も少なかったりして立派な護衛を付けられない事が多いからね。」
「そうなんですね。」
「確かに。」
ソフィーがよく考えられている、というようにゆっくり頷いている。
「もうずいぶん聖女様は現れていない。
王宮の研究者や魔導師たちでもいつ聖女様が現れるのかの予測は難しいらしいんだ。
いけない、話ばかりしているとダリ先生に怒られる。」
ドアノブに触れて目を閉じている。
ふわりとブラウンヘアが浮いた。
ドアが1人でに開く。
「わあ。」
「どうぞ。」
「「ありがとうございます。」」
「とても綺麗。」
塔のステンドグラスが紫色の光を反射している。
本が敷き詰められた壁に沿って螺旋状に階段が取り付けられている。
近くの本棚を覗いてみた。
私の腕くらい縦の高さがある本もあれば、ほこりをかぶっている本もある。
本を読みたい時は階段を上りながら探すのかしらね。
塔の床の中心には大きな布が被せられた縦長の物がそびえ立っている。
生徒が全員入るとドアが閉まった。
男性が塔の端にある部屋から出てきた。
不思議な香りが部屋から漂ってきた。薬草でも干してあるのかもしれない。
男性は焦げ茶色のショートヘアに、やや太い体、高い背丈を持っていて、黒いローブを着ている。
年齢は大体50代というところだろうか。
「入学おめでとう。
私は王宮で魔導師をしていたダリだ。
ここの卒業生。
これから魔法診断を行う。
その前に魔法について説明しよう。」
ダリ先生が手を動かすと、どこからともなく黒板が動いてきた。
「この黒板はどこから??」
ダリ先生が手をローブの袖に入れた。
袖から杖が出てきた。
杖は木の枝みたいな見た目だ。
その杖で魔力、と黒板に書いている。
「魔力は全員が持っている。
だが、その力の大きさはそれぞれ違う。
魔力の大きさによって使える魔法の強さが決まる。」
その隣に属性、と書かれる。
「全員が火・土・水・風・光の属性をどれか1つ持っている。
親と同じことがほとんどだ。」
さらにその隣に聖魔法、と書かれる。
「これを使える者はずっと生活に困らないだろう。
それくらい珍しい魔法だ。
属性の代わりに聖魔法を持っている者はヒーラーだ。
属性に加えて聖魔法を持っていれば聖女ということになる。
聖女はヒーラーとは違って力が桁違いに強い。
癒すこともできれば、大きな魔法を発することもできる。
聖女様は何十年に数人現れるだけだ。
みんな知っている通り、先代の聖女様はもう亡くなられている。」
ダリ先生が布を取った。
大きな鏡が現れた。先生の背丈より少し高いくらいだ。
鏡の銀の縁がつたの模様を描いている。
「俺に近い人からこの鏡の前に立つんだ。」
ルイスが鏡の前に立つ。
『魔力の大きさ、中。
属性、風。』
「紙が出てくるから受け取れよ。」
慌てて宙に浮き上がり出した紙を取っている。
次に、エラが鏡の前に立った。
『魔力の大きさ、小。
属性、光。』
少し目を輝かせて紙を覗いている。
「そこのご令嬢はリリー嬢かい?」
「はい。」
「金髪は王家の人間のみ。
この国には王女様がいないからわかりやすいな。」
鏡の前に立つ。
お母様が光で、お父様は風だから、私は何だろう?
『魔力の大きさ、大。
属性、光と風。』
「え??」
「属性が2つ??」
「ダリ先生、属性は1つだけですよね??」
ダリ先生を見るとぽかんと突っ立っている。
『魔法、聖魔法。』
ざわっとする。
紫色だったはずのステンドグラスが白く輝いた。
ステンドグラスから入ってきた光が強く鏡に当たり、鏡が輝く。
鏡の光が私の体に反射する。
「温かい…。」
『聖女としての能力が目覚めました。
聖女が現れました。
魔力の大きさ、巨大。
属性、光と風。
魔法、聖女の聖魔法。』
光がぱっと消え、濃く甘い香りが広がっていく。
私のヘアオイルと同じ香り。
「ゆりの香りがする…。」
左腕に熱さを感じた。
袖をめくってみる。
「紋章?」
ゆりが金色で描かれて、周りがつるで囲まれている模様だ。
春風にのせられるようにして紙が飛んできた。
視線を移す。
『魔法診断結果
魔力の大きさ…巨大。
属性…光と風。
魔法…聖女の聖魔法。
役職…聖女』
「聞き間違いじゃなかったみたい…。」
「リリー、おめでとう!」
「ソフィー、ありがとう!」
「信じられない、とうとう聖女様が……。」
先生が涙目になっている。
「次だ次!
今リリー聖女が呼んだ子、ソフィーって言ったよな?
聖女様が1人だってことはないんだ。
この中からさらに聖女様が現れるはずだ。」
「おおー!」と歓声が上がる。
心配そうなソフィーの手を握る。
「大丈夫よ。」
「ありがとう。」
ソフィーがそっと鏡の前に立つ。
『魔力の大きさ、中。
属性、水。
魔法、聖魔法。』
「また聖魔法だ!」
「聖魔法…!」
ステンドグラスが今度は水色に変わり、光が差し込み、鏡が輝く。
鏡の光がソフィーの体を優しく包む。
ソフィーの目が閉じて、ゆっくりと開く。
『聖女としての能力が目覚めました。
聖女が現れました。』
歓声が上がる。
『魔力の大きさ、巨大。
属性、水。
魔法、聖女の聖魔法。』
光がぱっと消え、ほんのりと甘い香りがする。
「ネモフィラの香り…!」
ネモフィラは青色で、5枚花びらのある小柄なお花だ。
袖をめくる。
ネモフィラが銀色で描かれて、周りがつるで囲まれている模様だ。
風にのせられるようにして紙が飛んでいる。
ソフィーの口がゆっくり開く。
「役職…聖女」
「おめでとう、ソフィー!」
拍手が湧き上がる。
なぜか右を見るとある女の子と目が合った。
濃い赤色と茶色が混ざったようなミディアムヘア。
この国では茶色の髪が一般的だ。
親が異国の人と結婚したら、茶色以外の髪色のこともある。住んでいた家が国境に近かった旅人たちは特に茶色以外の髪色が多い。ティシアン領は旅人たちが多いからよく知っている。
「「あなたって……。
どこかで、あ!
王宮の第2王子誕生日パーティーで隣の席だった。
でもお名前は…。」」
2人で目を合わせて笑ってしまう。
「私はリリー・ティシアン。」
「オリビア・レドッテよ。」
笑いすぎて赤く火照った顔で微笑んでいる。
ダリ先生がゴホン、と咳をした。
2人で目を見合わせる。
そうだった、今は魔力診断中。
「謝らなくていい。
とにかく鏡の前に立ってくれ。
先代の聖女様は2人だったが、もしかしたら…。」
「はい。」
迷わず立っている。
かっこいい。
『魔力の大きさ、大。
属性、火と土。
魔法、聖魔法。』
「聖魔法!」
「3人目だ!」
ステンドガラスが赤く染まり、眩しい光が鏡を貫く。
鏡の縁が輝き、光がオリビアの体に当たる。
オリビアの目が見開かれた。
『聖女としての能力が目覚めました。
聖女が現れました。』
大きな歓声と拍手が上がる。
『魔力の大きさ、巨大。
属性、火と土。
魔法、聖女の聖魔法。』
光がいきなり消え、華やかな香りが漂う。
「薔薇の香り!」
オリビアが袖をめくる。
薔薇がオリビアの属性の土みたいな銅色で描かれ、周りがつるで囲まれている模様だ。
紙が飛び、オリビアが掴む。
「おめでとう!」
「私たちみんな聖女ね!」
拍手が再び湧き上がる。
その後、他の子たちも魔法診断をした。
私たちの他に聖女は現れなかった。
結果、私たち3人が聖女となった。