5.王立学園
このお話を見つけてくださってありがとうございます!
楽しんでもらえたらなと思います。
馬車の窓から外を覗く。
石で造られた橋が、小さな島へと繋がっている。
その島の上には白いレンガで作られた古城がそびえ立っている。
「あれが王立学園…。」
馬車が角を曲がった。
馬車の窓に朝日が反射し、私の顔がうっすらと写る。
金色の瞳、元王女であるお母様譲りの金髪のロングヘア、王立学園の濃い青の制服。
手に持ったバックの取っ手をぎゅっと握る。
楽しみだけど、ちょっと怖い。
髪の毛をなでつける。
「いい香り…」
今朝、メイドのベルがヘアオイルをつけてくれていたことを思い出す。
私のヘアセットを終えた後、「リリーお嬢様、本当にかわいいです!王立学園でも大人気になること間違いなし!いいお友達と婚約者を見つけてきてください!仕立て屋に行く前にも言いましたが、王立学園に通っている内に婚約することが一般的ですよ?」と言われた。
何度婚約者を見つけてきてと言われても、慣れないものは慣れない。
馬車の中に視線を移した。
エラとルイスが縮こまって座っている。
「馬車に慣れない?」
「「なんだか壊しそうで。」」
「座ってるだけでは壊せないわ。
2人とも3日前、私の専用の使用人になったばかりだから慣れてないし不安になるよね。」
2人が肩を竦めた。
縮こまって座っている理由はそれだけではないらしい。
もしかしたら、私と同じように初めての学校が怖いのかも。
この国では一般的に15歳から学校に通うけれど、16歳のルイスも通ったことがないらしい。
「リリーお嬢様、」
「ルイス、どうしたの?」
「王立学園はどういうところなんですか?」
「お母様から聞いた話だけど。
この国で1番の名門校。王族も含めた貴族と、使用人を目指す平民たちが通うの。
学園自体が、貴族も平民も平等という考え方を持っている。
2人は使用人コース、私は貴族コースと領主コースで学ぶわ。
あれよ、見える?」
窓の外の小さな島を指さした。
今は学園に続く大きな橋の上を渡っているから、学園とその敷地が近くに見える。
「この島が何か?」
「この島全体が学校の敷地らしいわ。」
「「え??」」
「前の王の離宮を学校にしているらしいの。
コースごとに教室のある棟も、寮などもある。」
「「そうなんですね。」」
カタン、と音がして、レンガの道の上で馬車が止まった。
「着いたみたい。行きましょ。」
「「はい。」」
馬車の扉が開いた。
御者が踏み台を足元に置いてくれる。
「ありがとう。」
御者が私に使用人の礼をする。
「お帰りになられる時にまたお迎えに参りますので。」
「ええ。」
「門に向かえば、この学園の卒業生で今は門番をしている騎士たちが説明をしてくれるとのことです。」
そういえばお母様が言っていた。
この学園の卒業生は領主、貴族、騎士、魔導師、使用人だと。
「分かったわ、ありがとう。」
校門を目指してまっすぐ歩く。
もう数人生徒がいるみたいだ。
植木のそばに、背が低い、ミディアムヘアの女の子がいる。
白い手袋をしている。
履いているタイツも白い。
帽子を深くかぶっていて顔が見えない。
「こんにちは。」
ぱっと顔がこっちに向く。
イヤリングが光る。
イヤリングに希少なスノークウォーツを使っているあたり、ロディア領のご令嬢だろう。
間違いない。
お父様の治めるティシアン領は、王都に近く、商人たちや数多くの領民や旅人で賑わう場所だ。
品物の流通やお客様についてお父様とお母様から教えられているから、それらについて自信がある。
「…こんにちは。」
小さく高い声。
「ごめんなさい、いきなり話しかけちゃって。」
「いえ!そんなことは。」
ふるふると首を振っている。
「良かったわ。
綺麗なイヤリングを付けているのね。」
「ありがとう。
父が商人を屋敷に呼んで特注してくれたの。」
商人を屋敷に呼ぶのは貴族だけ。貴族確定!
「そうなのね。
とてもつばの広い帽子ね。」
「肌が生まれつき弱いから…帽子を付けていて。
日焼けが体に悪いの。」
「アルビノ?」
ぱっと目が大きく開く。
サファイアみたいな色だ。
「知っているの?」
「ええ。
アルビノについて母から聞いたことがあるの。
母のお友だちもアルビノだってみたいで。」
「偶然にしては凄いわ。」
「本当に。」
仲良くなれそう!
気が付いたら門に着いていた。
背がとても高い騎士たちが立っている。
ソフィーと私にそれぞれ礼をした。
「新入生の方ですか?」
「「はい。」」
エラとルイスの2人は、私の斜め後ろで頷いている。
「お名前をお伺いしても?」
白い手袋の手が私を指す。
私からどうぞということらしい。
「リリー・ティシアンです。」
「はい。」
「わたしはソフィー・ロディアです。」
「はい。」
「ルイスと、」
「妹のエラです。」
「確認できました、ありがとうございます。
お進み下さい。
真っ直ぐ歩いていけばたくさん椅子が並んでいる部屋に着きます。
よい学園生活を。」
「ありがとうございます。」
「失礼します。」
ソフィーの方を見る。
私が公爵家ということに気がついていないみたいだ。
他の人たちだったら「公爵家の方とは知らずに失礼しました!」と言われる。怖がらないで、私にも他の人たちと同じように接してほしい。
ロディア領は降雪地帯で王都から遠かったはず。
噂があまり入っていかないんだろう。
正直、その方が嬉しい。
「リリー、どうやって入学セレモニーの場所に行けばいいのか分かる?
真っ直ぐって言っていたけれど、この建物の中に入っていいのかしら。」
前には大きな建物がある。
絨毯が敷かれていてここが入り口だろう。
奥には左と右に階段が見える。
「そうね…。
ここは入り口みたいだけど、ここを通ってもいいのか分からないし。」
2人で立ち止まってしまう。
「こんにちは、君たちは新入生?」
声がした方を見ると、男子生徒が立っている。
私より1回り高い背丈、輝く金髪、爽やかな声、この学園の制服には金色のバッチが付いている。
ウィリアム第2王子だ。
私もソフィーもカーテシーをする。
私の従兄弟とはいえど、王子である。
相手が話すまでカーテシーをするのが礼儀だ。
「丁寧にどうも。
体勢を戻していいよ。」
「し、失礼します。」
「お久しぶりです、ウィリアム従兄様。」
「「「!?」」」
「久しぶりだね、リリー。
友達もできたようで何よりだよ。」
ソフィーの体が少し揺れる。
「ソフィーっていう子よ。」
「ロディア領出身か。
この学園では平民も貴族も平等という考え方を持っている。身分や立場は気にしなくていい。
リリーをよろしく頼む。」
「は、はい。
ありがとうございます。」
「リリーの後ろにいる2人は誰?
使用人の礼をしていたあたり、使用人かな。」
「ええ、私専用の使用人よ。
3日前からね。」
「ルイスです。」
「エラです。」
「3日前??
それにしてはルールがちゃんとしてるな。」
ウィリアム従兄様が目を大きく見開いている。
「あ!そういえば、困っているようだったが。」
「実は入学セレモニーの会場が分からなくなってしまって。ウィリアム従兄様ならご存知かしら?」
ウィリアム従兄様は入り口を指さした。
「案内するよ。
付いてきて。」
「ありがとうございます。」
「助かります。」
ウィリアム従兄様の後ろに並ぶ。
入り口に入り、左の階段を上がる。
「リリーはウィリアム殿下と親しいの?」
「私たちはいとこで、ウィリアム従兄様が学園に入るまではよく遊んでもらったの。
ウィリアム従兄様の方が私より1つ年上。」
「「そうなんですね。」」
「仕草がとても優雅だと思ったら…王室の方だったのね。」
「…ソフィー、今まで通り接してくれる?」
サファイア色の瞳を見つめお願いする。
ソフィーが頷く。
「もちろん。」
「ありがとう。」
「少し気になったのだけれど。
リリーは公爵家、なの?」
「ええ。」
「そうなのね。
わたしは、子爵家なの。」
この国のランクは高い順から、
王家。
王家と親戚のことが多い、公爵家。
地方へ派遣されその地を治める、伯爵。
伯爵の副官で、伯爵に任された小都市の管理などをする、子爵。
村や町などを治める一番位の低い貴族、男爵家。
騎士。
商人。
平民。
「家柄なんて気にしなくていい。
けれど、もしソフィーに何かあれば私が止める。」
「ありがとう!」
「いいの。」
「…そういえば、学園に入るまではよく遊んでもらっていたと言っていたけれど、そんなに忙しくなるの??」
確かに。
「僕は王子として特別教育を受けなくてはいけなかったから忙しかったんだ。」
「特別教育??」
「特別教育は1部の生徒、王子や聖女様、が必ず受けなくてはいけないんだ。」
「なるほど…。」
「特別教育って何をするの?」
「僕は護身術、王家にしか発動しない魔法の使い方、今ある闇の組織や人物とその対処法について学んでいるんだ。」
「大変そうね。」
ウィリアム従兄様はちょっと目線をずらして、その後笑顔になった。
「大変だけど、学ぶことがたくさんあって楽しいよ。」
ウィリアムお兄様はすごい。
さすが次期王の有力候補。
「入学セレモニーの会場に着いたよ。
学園生活楽しんで。」
ドアを開けてくれた。
「ウィリアム殿下、わざわざありがとうございました。」
ソフィーが礼をする。
エラとルイスも礼をしている。
「いいんだよ。
また困ったことがあったら言ってくれ。」
「「ありがとうございます。」」
ソフィーが会場の中を覗いたと同時に、ウィリアム従兄様が私に顔を近付けた。
「手紙を書けたら送るよ。
そのうち、僕の側近候補に会ってほしい。
きっと仲良くなれる。」
「ありがとうございます、楽しみに待ちますね。」
手を振ると、手を振り返してくれた。
「リリー、ここもとても広いわ。」
「「わあ!」」
私は、ソフィーの声とエラとルイスの歓声につられて中に入った。
もしよければ、これからも読んでくださったら嬉しいです〜!