4.入学書類と使用人の寮
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今回は、エラちゃん目線のお話です!
エラちゃんはのほほんとした性格で、お兄ちゃんのルイスが唯一の家族です
孤児院を出なくてはいけない年齢になって仕事を探していた2人は、公爵家に雇ってもらえることになりました
エラちゃんはリリーちゃんの専属メイド、お兄ちゃんは護衛として
「あと3日で学園生活が始まるから、改めてマナーをお母様に教わってくるわ。」
リリーお嬢様が、シツジ(よく分からないけど、スケジュールの管理をする仕事らしい)のイーサンさんと執務室を出ていった。
わたしたちは頷いて見送った。
リアム領主様の執務室に残ったのは、わたしエラとお兄ちゃんのルイス、リアム領主様、メイドのベルさん、護衛の方だけになった。
「今、2人の入学に必要な書類を書いてしまおうと思う。
推薦書と、入学用書類があって良かった。」
リアム領主様が書類を取り出し、咳払いした。
「まず兄から聞こう。
名前は?」
「ルイスです。
平民で、名字はありません。」
書類に、透き通るようなガラスペンで書き込んでいる。
「誕生日は?」
「分かりません。
孤児院に初めて行った日、2月8日を誕生日として祝ってもらっていました。」
「今は何歳?」
「多分16歳です。」
「分かった。
リリーの1つ年上だな。
一般的に、王立学園は15歳でないと入れないのだが。」
「「え!」」
お兄ちゃんと通えないの??
「まあ大丈夫だ。
その他の欄に、孤児院育ちのため年齢は確かではないと書いておく。
15歳ではない年で入学した人もいるにはいる。
それに、妻キャサリンの祖父、この国の王に推薦者になって頂こうとしている。
推薦書には3人の成人した推薦者が必要だ。
ティシアン家は自分と、妻のキャサリン、娘のリリーしかいないからな。」
「「へ??
キャサリン夫人は王族なんですか?」」
「知らなかったか。
この国のお城の城下街で、ミュージカルの脚本になっているくらい有名な話だ。
当時、王女のキャサリンが体調が悪かった。
そこで、私が体調によく効くポーションをつくって王立学園でキャサリンに贈った。
キャサリンの体調が良くなり、王立学園で共に過ごすことが増え、結婚したんだ。
あの金髪は王族だけの髪色だ。」
「「そうなんですか??」」
「ああ。
リリーは公爵家という王家の次に偉い位の跡継ぎだ。
公爵家でいらっしゃるんですか、凄いですねなどと、身分だけ褒められると悲しそうな目になる。
家柄だけで判断されるのが嫌なんだろう。
キャサリンと親戚たちを傷付けたくないのか、キャサリンの教育のおかげか、笑顔は絶やさないが。」
家柄も良くて、見た目も良くて、優しいリリーお嬢様でも悩むことがあるんだ…。
「入学希望方法は推薦、と。
住んでいる場所はティシアン家の領主邸。」
リアム領主様がわたしを見た。
「名前は?」
「エラと言います。
私も名字はありません。
誕生日は同じ日ということになっているけど、私は15歳だと思います。
あとは全てお兄ちゃんと同じです。」
「そうか。
あと書いていない記入欄は…。
入学証明書には顔の絵が必要なんだ。
2人ともこのまま胸から上を写して良いだろうか?
魔法を使って紙に写す。」
「「え?あ、分かりました。」」
リアム領主様の指の動きに合わせて煙が出た。
書類の左上がパッと光った。
「これで入学書類ができた。
そうだ。2人とも、使用人の寮があるんだが、そこに住むのはどうだろう?」
「「いいんですか?
何から何までありがとうございます。」」
「ベル、2人を案内してあげてくれ。」
「分かりました!
こっちに来て。」
領主邸を出た。
後ろを振り返る。
領主邸は、わたしが今まで見た中で1番大きな建物だと思う。
前を向いて、お兄ちゃんとベルさんの後に付いていく。
右側に、領主邸までじゃないけど、大きな建物が見えた。
横長の建物でレンガで出来ている。
「ここですか?」
お兄ちゃんがベルさんに聞いた。
「そうよ。
ここが使用人の寮。」
「領主邸までじゃないけど、ここも大きいですね。」
「領主邸は大きいから、たくさんの使用人が必要なのよ。
1階は共用スペースで、手を洗える洗面所とお風呂がある。
ちょうど空いている部屋は2階の手前だったかしら。」
階段を上がった。
ベルさんがメイド服のポケットから鍵を出す。
ドアが音を立てて、開いた。
黄色いカーテンが風になびいている。
部屋の角に2段ベットが1つ。
その隣にクローゼット。
部屋の右側には、椅子まで付いている作業机がある。
どれも汚れていない。
「綺麗…。」
「ここがわたしたちの部屋ですか?」
「そうよ。
ちょっとのんびりして待ってて。
私は持ってくる物があるから。」
「「はい。」」
部屋をぽわわんと見つめた。
ベッドにぽすんと座ってみる。
「お兄ちゃん、孤児院のベッドより寝心地が良さそう!」
「本当?」
お兄ちゃんも座る。
「これ、すごくいいね。」
「わたし、リリーお嬢様に会ってからずっと感謝してばっかり。」
「それはエラを見るだけで分かるよ。」
お兄ちゃんが苦笑いしている。
なんかそれは嬉しくないなあ。
「これからの生活が不安だけど、でも、楽しみになってきた。」
「…良かった。
僕も同じだよ。」
ノックの音がした。
「はい、これをどうぞ。
使用人の服と、上着、日用品よ。
日用品はここに箱ごと置いておくわね。」
ベルさんが箱を床に置いた。
腕には使用人の服がかけられている。
手にも何かを持っているみたいだ。
「「こんなにたくさん?」」
孤児院ではこんなにたくさんもらったことがなかった。
ここでは箱に入れるくらいの荷物をもらえるんだ。
使用人の服はお兄ちゃん用とわたし用で、それぞれデザインが違う。
わたしのメイド服は、白いパフスリーブのシャツに黄色いエプロンというデザインだ。
「かわいい。」
「そうでしょ?
メイドの仕事まだ慣れないと思うけど、安心してね。
黄色のエプロンは見習い中の証。
失敗しても理解してもらえるわ。」
そう言って、わたしにメイド服を手渡してくれた。
カーディガンもコートも、手に持っていた靴下も。
「あなたはルイス君だよね?
護衛は人の命がかかっているから、誰がベテランか分からないようにみんな同じ服なのよ。
でも、新しい使用人が入ったことは知っていると思うから新人だって分かるはず。」
お兄ちゃんの服は、白いシャツと黒いスーツだ。
細かいことまでよく考えられている。
「大丈夫です。
ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
「…何かあったら頼ってね。」
わたしたちを見つめる瞳が急に悲しげになった。
床を見つめて、口を開いた。
「私、昔は男爵家の令嬢だったのよ。
男爵家は貴族の中でも1番低い位。領土が貧しかった。
王立学園に入学する直前に没落しちゃって、平民になったの。
だから、貴族しか選べない貴族コースじゃなくて、使用人コースに行った。
貴族のことも平民のこともよく知っているわ。」
小さくわたしたちに微笑みかけた。
「「そうなんですね…。
きっと大変でしたよね。」」
ベルさんが小さく頷いた。
「今日は2人とも休んでね。
仕立て屋さんの店員さんたちが領主邸に着いたら、制服の採寸のために呼び出すわね。
休んでいい代わりに、明日はしっかり朝から働いてもらうわ!」
「「はい!」」
ベルさんが優しく笑って、部屋を出ていった。
ありがとうございました!
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