2.仕立て屋ラノワール
このお話を見つけてくださりありがとうございます〜!
今回、1話に比べて少し短いです
ブックマークくださった方々、本当に嬉しいです…
前回が初めての作品投稿で、思っていたより反応が早くて少しびっくりしました
ありがとうございます!
書き終わるのが遅いですが、私なりに頑張るのでぜひよろしくお願いします
石畳の道の上にある、レンガでつくられた2階建ての建物の前に立つ。
入り口を挟んで大きめのショーウィンドウがある。
ショーウィンドウの中には、青のドレス、帽子、オレンジのスカートなどが並んでいた。
その建物の2階のあたりに『ラノワール』と書かれた看板がかけられている。
「ここが予約をしている仕立て屋?」
「はい。」
貴族はあまり外出しない。
私にいたっては、ほぼ外出したことがない。
理由は、この金髪が王族だけの髪色で、普通の令嬢より拉致されやすいからだ。
ぷくーっと頬を膨らませる。
馬車を乗って街を回り、ほしいものがあれば侍女に買ってきてもらったことが数回。
街に足を下ろしたのはたった1回。跡継ぎとして、街の様子を確認するというお父様の仕事に付いていっただけ。
街に足を下ろせるなんて幸せ。
小さく深呼吸をした。
ドアを開けて、帽子を取る。
お母様に教えてもらった通りに微笑む。
ティシアン領は、人と同じように物の流通も多く、取り引きが盛ん。
不正もあるらしい。
その不正を見破り、ティシアン領が栄えていくように、挨拶の仕方、何が適正な値段か、などを教えてもらったのだ。
「公爵令嬢のリリー・ティシアンと言います。
予約に遅れてしまって申し訳ないです。」
少し眉をひそめる。
「リリー様!お気になさらず、こちらへどうぞ。」
少しふくよかな女性、ここの店長が迎え入れてくれた。
木で作られた階段を上り、2階へ上がる。
貴族のお客様用の部屋に案内された。
中央にテーブル、その左にソファー、ソファーの後ろに木の椅子が置いてある。
壁に沿って細長い机がある。
そして右にはトルソーが3つ並んでいる。
「こちらのソファーにお座りください。
侍女の方は後ろにある木の椅子をどうぞ。
私はお茶を持ってきます。」
「ありがとう。」
店長が部屋を出たのを確認して、ソファーにすとんと座る。思いっきり背もたれに体をつける。
「疲れたわ…。」
「そうですよね。
正直、私も疲れました。」
ベルが椅子にだらんと座る。
「こんなことしてたら駄目かしら?
そろそろ店長さん来ちゃうわよね。」
「そうですね…。」
2人でシャキッと座り直した。
ちょうどノックが聞こえた。
「失礼します。
こちらお茶です。
どうぞ。」
店長がテーブルにティーカップをお皿ごと置く。
「ありがとう、頂くわ。」
ティーカップを静かに取って飲んだ。
すっきりとしたミントティーが体に染みる。
ティーカップを置くと、店長がノートを開いた。
ペンを手に持っている。
「早速ですが、本日のご依頼は王立学園の制服で間違いないでしょうか?」
「はい。」
「かしこまりました。
間もなく店員が制服を持ってくると思うのでお待ちください。
その間、体のサイズを測りましょう。」
メジャーで体の端から端まできっちり採寸された。
これは公爵邸で、服を仕立てた時にもした。貴族が服を仕立てる時は屋敷に店員さんたちを呼ぶことが多い。
あれはウィリアムお従兄様の15歳のお誕生日パーティーだった。学園に通う直前のお従兄様と、私たち招待された子たちのいい社交練習になった。懐かしい。
「こちらです。」
いつの間にか店員さんが来ていたらしい。
学園の制服がトルソーにかけられている。
制服は濃い青のワンピースで、スカートはゆったりと足元に広がっている。
首元には襟があり、胸元にはいくつかボタンがある。
「とてもかわいいわ。」
「王立学園の制服は多少アレンジすることができますので、変えたい所があればお申し付けください。」
「襟とスカートの先に、白いレースを付けたらどう?」
「付けましょう!」
職人技で素早くレースの見本が出された。
「お花の模様のレースがいいわ。
このゆりの模様があるレースでお願い。」
「かしこまりました。
他にはございますか?」
「大丈夫。」
「では次に試着してみましょう。」
試着後は着たまま微調整された。
「できました!」
濃い青1色だった制服は、レースが追加されて私に似合っているような気がする。
「素敵!」
「良かったです。
では、靴とバックをお選びください。」
ずらりとバックが細長い机に並べられている。
床には白や青、赤などのパンプスシューズがある。
「靴はこの白いのがいいわ。」
「かしこまりました。」
「リリーお嬢様、お嬢様の名前にちなんでゆりを付けては?」
ベルが靴をじっと見ている。
「お願いするわ。」
「はい。」
「バックは…」
「バックも飾り付けが可能です。
ここに並べてあるものの中から選ぶそうです。」
店長が手をすっと伸ばした。
「この白のリュックはどうですか?靴も白なら全て白で揃える手もあるかと。」
どこを見ても白でつやがあるリュックだ。
隣にブラウンのリュックもある。
両方かわいい。
「白と茶色のリュックを買いたいわ。
どちらにもゆりの刺繍を小さくお願いしても?」
既に店長の後ろで、店員さんが刺繍をするためにリュックを回収していった。
この後、手袋やコートを注文した。
今は春。まだ冬の寒さが残っている。
刺繍を頼んでいるから今受け取ることは難しい。
縫い終わった制服も最終チェックするらしい。
領主邸に明日届けてくれるとのことなので、何も持たずにお店を出た。店長さんと全員の店員さんが私にお辞儀をしている。しなくていいのに。
馬車を停めた通りを目指して歩き出す。
「良かったですね。
3日後の入学セレモニーが楽しみです!」
「ベルが楽しみなのは入学セレモニーじゃなくて、私の身支度でしょ?」
「バレましたか。」
「ベルは私の家族と同じくらい一緒にいるもの。」
お互い足を止める。
「そうですね。」
お互いしみじみと顔を見つめる。
「リリーお嬢様?どうかなさいましたか?」
御者が私たちを交互に見ている。
「いえ、何でもないわ。
帰りましょう。」
「了解しました。」
御者が手に持っていた踏み台を置く。
そして、馬車に乗った。
「……でも私、リリーお嬢様のお友だちと婚約者も気になりますよ?
とうとうお嬢様にお友だちと婚約者ができるんですね…。」
「何言ってるの??
王子であるお従兄様は学園にいる間に婚約者を見つけるだろうけど、私は早いでしょ?」
「そんなことないですよ。
貴族はほとんどの方が学園にいる間に婚約者を見つけます!」
「嘘でしょ……。」
頭を抱えたくなってくる。
「大丈夫ですよ、リリーお嬢様ならいいお相手が見つかります!」
「いいお相手って言われたって。」
ベルがずいっと体を私に近付けた。
「いいお相手と言ったらいいお相手です。
もちろんリリーお嬢様にふさわしい性格と能力がある方。
あと、家柄が同じくらいの方がいいですね。家柄が違いすぎると結婚は難しくなります。」
頭がくらくらしてきた。
「結婚の話はまだ早いわよ!
私はまだ学園に入学してもないのに。」
「そうでしたね。」
「というか、なんで私がいいお相手を見つけてくる自信があるの…?」
「リリーお嬢様が素晴らしいからです。
お嬢様はとてもかわいくて、領主にふさわしい優しさを持っていて、仕草に品があって、入学するためのテストでは1位をとったくらい賢くて、」
「それはテストが簡単だったからよ。
入学テストで問われたのは、最低限のマナーを知っているか、文字が書けるか、だけだったわ。」
「マナーについてはお茶会のルールもあったでしょう?リリーお嬢様の送り迎えのために傍に控えていましたが、意外と知らなければ難しいテストでしたよ。
とにかくお嬢様は能力が高いです!
新聞に新入生の中でお嬢様が1番目立つだろうと言われているくらい。」
手で制した。
「新聞?」
「はい、新聞です。」
「何かの間違いよ。
学園生活に不安しかないのだけど。」
「とにかく大丈夫ですよ!」
謎の自信を持つベルの前で、私は微妙な微笑みを浮かべることしかできなかった。
読んでくださりありがとうございました!