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花の聖女様  作者: Mii
1/8

1.ティシアン領

天蓋付きベッドの上で体を起こす。


金で作られた時計の針は、午前7時を指している。




ドアがノックされた。


「どうぞ。」


茶髪のメイド、ベルが入ってきた。

ベルはポニーテールが特徴の、私より5歳年上の女性だ。

腕にはタオルをかけ、手には顔を洗う用のたらいを持っている。


「リリーお嬢様、おはようございます!」


「おはよう。」


「まずは顔を洗いましょう。」

ベルがたらいをサイドテーブルに置いた。


「執事のイーサンから聞きました。今日は王立学園の制服を仕立てに行くと。

貴族にとって王立学園への入学は大切な1大行事ですから、予約の時間に間に合うようにしないと。

体を採寸してぴったり合うようにしてもらうんですから。」


王立学園は王族を含めた貴族全員と1部の平民が通う名門学校だ。


「ベルは貴族の事情をよく分かっているのよね。」


「私は男爵家でしたから、王立学園の卒業生なんです。」


「そうなの?」


私たち貴族にとっては、15際になった子供を学園に通わせるのが常識らしい。お父様が言っていた。


「王立学園にいた時、身分の低さから悪口を言われました。」


「…ひどい。」



この国のランクは高い順から、

王家。

王家と親戚のことが多い、公爵家。

地方へ派遣されその地を治める、伯爵。

伯爵の副官で、伯爵に任された街の管理などをする、子爵。

村や町などを治める一番位の低い貴族、男爵家。

騎士。

商人。

平民、となる。



「その時、私を助けてくれたのがリリーお嬢様のお母様、キャサリン夫人だったんです。」


「お母様が?」


「はい、その当時はキャサリン王女でしたね。

学生時代にリリーお嬢様のお父様、リアム様と大恋愛して、今は夫人となられましたが。

お2人の結婚後、お父様との恋愛がミュージカルにもなりましたよね。


リリーお嬢様、王立学園にいるうちに婚約するのが一般的ですからね?いい人をゲットしてきて下さい!」


「できるか不安しかないのだけど。」


「お嬢様なら大丈夫です!


それと、リリーお嬢様も私みたいな人を見かけたらぜひ助けてさしあげてください。」


「もちろん。」

それはすぐに返事ができる。




これから何が起こるのだろう?



洗顔用のたらいを覗く。



金のゆるりとカールするロングヘアと、金の瞳が目立っている。


私の名前はリリー・ティシアン。

公爵家であるティシアン家の1人娘、つまり跡取りだ。

ティシアン領は『王国1の交易所』と呼ばれる自慢の領土だ。

王都の隣にあり、人の流れが活発である。


顔を水につけて洗う。




ベルからタオルを受け取り、顔を拭く。



「リリーお嬢様、隣の試着室にいきましょうか。」


「ええ。」




ベルが白いドアを開けてくれた。


試着室は私の部屋から行き来できるようになっている。

左の壁一面にドレスが広がっている。ウォークインクローゼットだ。

右にはアクセサリー、髪飾り、帽子、靴のコーナーがある。



ベルが鼻歌を歌いながら、私のドレスを選んでいる。

ベルは衣装が大好きで、私のドレスや髪飾りをいつも選んでくれる。メイクも担当してくれていて、いつも本当に助かっている。


「リリーお嬢様、これはどうでしょうか?」

ベルが緑色のドレスを手に取って、私に見せてくれた。


「ワンピースのような形をしているので、領主の娘だということが分かりにくいです。

服装に詳しい人には1級品だと分かりますが。

これなら1年中賑わっているこの街でも安心だと思います。」


ベルの言う通り、これはワンピースのような形をしていて、シルエットが細い。

やや大きめの丸い襟は白く艶がある。

ウエストには黄色のリボンがかかっていて、とても私好みで可愛い。

小さなゆりがワンピースのあちこちにデザインされている。


「素敵!」


「お気に召したようで良かったです。

着てみましょう。」


「ええ。」



ドレスを着て、メイクもしてもらった。

身支度が終わり、角にある細長い鏡の前に立った。


髪の毛を後ろに払う。



「とてもよくお似合いですよ!」

ベルが目を輝かせている。


「ありがとう。

目を輝かせて言われるほどじゃないと思うけれど。」


「リリーお嬢様はとてもお綺麗ですよ!

輝くようなロングヘア、はちみつのような瞳、優雅な仕草、綺麗な声……。」

ベルが話しながらブラシを手に取った。


「今日はとかさなくていいわ。」


1番近くにあった大きい白色の帽子を手に取る。

宝石で作られたゆりの花の飾りを取り、帽子をかぶってみる。

髪の毛を押し込み、金髪が見えないようにする。


「仕立て屋に行く時、これをかぶるから。」


「わかりました、リリーお嬢様。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜〜


ー 2時間後



ベルと一緒に馬車に乗り込む。


使用人たちが馬車の前に並んでお見送りをしてくれている。

手を小さく振った。



門を出て、角を曲がる。


白いレンガで出来た建物が並んでいる。


その隣の宿屋からは異国情緒漂う旅人たちが見える。


「相変わらず人が多いですね。」


「ええ……。」



さらに角を曲がる。


一瞬見えた暗い路地裏。

私と同い年くらいの男の子と女の子がいる。

前には女の子の腕とお金の袋を掴んだ男性。


「あれは……。」


バッと馬車のドアを開ける。

馬車から飛び降りた。


「リリーお嬢様!?」


走っている馬車から飛び降りたせいで、少しよろめいた。視界が揺れる。

でも、飛び降りた勢いに任せ、そのまま走っていく。

走りながらさっきの記憶を思い浮かべる。


「あった、ここよ。

確かこの路地に……。」


角を曲がってすぐのところにある箱の後ろに隠れる。

そっと奥を覗く。


肩幅の広い男性がいる。

その男性は女の子の手首を掴んでいる。

女の子は目をぎゅっとつぶっている。

男の子は女の子より背が高く、女の子の手を握っている。


それにしても酷い格好…。

3人とも服がちぎれている。

男性は黒のあて布が、赤いズボンの上で目立っている。


男の子と女の子の服なんて、土で汚れたのだろうか、茶色い汚れが付いている。

その上、ちゃんと食べれてるのか心配になるほどかなり細い。



「仕事がほしいんだろう?

お金でその娘と交換してやるって言ってるんだ。

女の子は奴隷として働けるんだぞ?」


「妹は誰にも売らない!」


人身売買……!


法を破っている!



隣にあるパイプを掴んだ。

とにかくこの男の子と女の子を逃がさないと。


私は背も一般的な高さだ。

力も強くない。

でも、このままじゃ……。


「もう良い!力ずくで連れて行ってやる!」

女の子が震えている。

男の子が女の子の手をより強く掴んだ。


駄目!


全力で走り、パイプを思いっきり男性の腕にぶつけた。

男性の、女の子を掴んでいた手が離れる。

「痛っ!」


それでもまだ男の子はまだ女の手を握っている。



「こっちよ、着いてきて!」

私は男の子の手を掴んで走る。


「待て!」


馬車まで行けば馬車で逃げられる。

そこまで走れれば!


後ろを振り返る。

男性が角を曲がったのが見えた。


「ペースを上げられる?」


2人とも息が荒い。


「もう何日も食べてなくて…力が出ない。」

男の子が額を袖で拭う。


「そうよね…、とりあえず今のまま走りましょう。

きゃっ!」

ドンという衝撃が私の体に響く。

前に細身で高い男性が私の目に写った。

急いで立ち上がり、咄嗟に振り返ると、後ろにさっきの男性が追いつきそうな距離に見える。


唇を噛み、腕を広げて2人を守る。


「これはこれは…身なりからすると大商人の娘さんってところか。身代金も手に入れられそうだ。」


ぎゅっと目を閉じた。

売られてしまう……。



鈍い音が響く。

連続して何度も。

「治安警備隊だ!逃げられないぞ!」

驚いて目を開けると、いつの間にか前に、背の高くがっちりとした男性が立っているのが見えた。

手には警棒、体には鎧を着ている。

「治安警備隊!」


「くっ……。」

男性2人が逃げ出した。

しかし、他の治安警備隊に取り押さえられた。


「この人たちを運んでくれ。

俺は状況を聞き次第戻る。」

部下であろう人たちに司令を出していた。


そして、素早く私たちに向き直る。

「私は治安警備隊のワイアットだ。

大丈夫か?」


「はい、ありがとうございます。」

「「ありがとうございます!」」


「リリーお嬢様!」

ベルが震える足で駆け寄ってきた。


「ベル!

ごめんなさい、心配かけて…。」


「リリーお嬢様が無事なら大丈夫です。」


ベルに微笑む。

「治安警備隊を呼んでくれたのね、ありがとう!」


「お礼なら治安警備隊を結成した現領主のリアム様に言ってください、リリーお嬢様のお父様に。」


こくこくと頷く。


「あ、あの……リリー?さん、ありがとうございました。」

女の子から、か細い声が聞こえる。


「どういたしまして。

それより、大丈夫?」


「はい!」


「よかった…。」


「その子たちは?」

ワイアットさんが兄妹に1歩近付く。


「わたしはエラです、ありがとうございます。」


「僕はルイスです。

妹を助けてもらいありがとうございます!」


2人に深々と礼をされる私たち。


「気にしないでくれ。

ところで、リリー様がなぜこんな事件に絡まれてしまったのですか?」


「私は侍女のベルと、王立学園の制服を仕立てるためお店に馬車で向かっていたのです。

街並みを眺めていたら、3人を見つけて…飛び降りました。」


「なんと勇敢な…


ああそうだ、君たちに身寄りは?」


「ないです…。

僕たちのいた孤児院には年齢制限があるんです。

僕は16歳ですが妹が孤児院を出なくてはいけない年齢、15歳ではなかったので許してもらっていました。

でも、妹も15歳になってしまって。


働き先を探しながら旅していました。

でもどこに行っても、うちは人が足りている、と言われました。

宿屋に泊まるお金も尽きてきて…外で妹と働き先について話し合っていたら、あの男性たちに聞こえてしまったようで…。」


「そう…。」


「なるほど。」


「こんな歳なのに。」


街は人手が足りている。

お金をあげるだけでは、また事件に巻き込まれてしまうかもしれない。

この2人が必要なのは働く場所。


「ベル、この子たちを屋敷で雇えないかしら?」


ベルは手を顎に当てている。

「当主様に聞かないと分かりません。

でも、この前メイドと下働きが必要だと言っていたので、もしかしたら。」


「お父様に聞きましょう!」


「「いいのですか?」」


「もちろん。

困っている人を助けるのが当主の仕事。

私もできるようにしないと。


もし人手が足りていても大丈夫よ。

雇ってもらえるように私からお父様に頼むわ。」


きっとお父様なら雇ってくれる。


「「ありがとうございます。」」


私は2人を見つめながらほほえんだ。


「失礼ですが、一応怪我のチェックをしたいです。

1度この2人を預かっても?

何も問題がなければ公爵邸に2人を連れて向かいます。」


「助かるわ、お願いします。」

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