表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弔花のウィンジー  作者: 鈴木白紙
4章 魔女の夜宴
82/90

4章-1 ツンフト・ロンドニオン

 目の前にしたツンフト・ロンドニオンはあまり活気がなかった。数々の職種のギルドが集まる街なだけあって繁栄はしているし、大通りに並んだ露店も営業中だが、活気がないのだ。


 普通に見れば、平生の光景と違わぬと思うだろう。現に住人は、普通の状況として認識しているようだった。街並みは整っているし、そこを行く人足はあるし、恐慌を示すような浮浪者の姿はなかった。


 けれども、そこを歩く人々はどことなく覇気がないのだ。なにが、どこが、そのような指摘をウィンジーはすることができなかった。精気がないという語が相応しいかも知れない。ただ、そう思うだけだった。


 その横で、ミリスは訝しそうに右顧左眄した。


「なんか、魔力が多くありませんか?」


「そうだね。まるで、大規模魔法の残滓みたいだ」


 といわれれば、確かにそう思える。


 しかしミリスはコクンと首を傾げた。


 大規模な魔法にしては痕跡が少なすぎる。ミリスが感じたのは目に見える爪痕がないことだ。大嵐があれば必ず痕跡が生ずる。魔法も同様である。だからといって、その線を完全に否定できるわけではない。例えば誰かが大規模魔法を行使し、別の誰かが相殺すれば現況のようになろう。加えて、どちらも魔法も失敗したとなれば、魔法行使に使用した魔力のほとんど全てが魔力残滓となるから、想定よりも小さい規模の魔法の可能性もある。


 そう考えていると、ミリスは額の端を抑えた。彼女は萎れた花のように首を傾げていた。


「調子悪いの?」


 風邪でも引いた? ウィンジーはミリスの顔を覗きこんだ。


「いえ、ちょっと」


「今日の観光は少しやめたほうが良さそうだね。早めに宿を取ろうか」


「助かります」


 その声には覇気が欠け落ちていた。


「落魄れた冒険者は野党と同じだからね。こういう人が集まるところには多いんだよ。万全でないなら、休んだほうがいい。狙いを明確に定める分、魔属よりも厄介なところがあるからね」


「……はい」


 ミリスは力なく頷いた。


 宿場町のほうへ歩いていると、ウィンジーはなにかを嗅ぎつけたように鼻を動かした。なにかを嗅ぎつけた野生動物のように、なにかに誘われて歩き始めた。


「どうかしました?」


「ん? ん~?」


 よく判らない呻き声をだしながら歩くウィンジーを、ミリスは少し感覚を取って追いかけた。よく判らない路地裏に這入ったところで、ウィンジーは不意に足をとめた。そこは汚臭など直接的な嫌悪の対象はなかったが、どことなく不快な空気が蔓延していた。


「魔力にあてられたね」


「…………?」


「魔力に?」


「魔力に酔うことだってあるよ」


 これだけ濃厚な臭気を漂わせていたらね。ウィンジーはなにかを払うように顔の前で手を振った。


「ハプテキズムのときは酔いませんでしたけれど」


「あそこの濃度は凄まじかったけど、とんでもなく澄んでいたからね」


「そういうのも関係があるんですね」


「あるさ。未熟な魔法使いは躰の中の魔力が外の魔力に影響を受けるからね」


「鍛錬が足りないということですか?」


「まあ、そういうことになるかな。ハプテキズムのところがウオすら棲めない清水だったのに、こっちはなにも寄りつかない汚泥といったところだからね」


「そんなに、ですか?」


「宿に戻ってから心眼を開くと良いよ」


「……そうですね」


「最近、サボっていたでしょう?」


 その言葉に、ミリスはぶるっと背筋を震わせる。頭痛も相まって、悪寒のように感じられた。


「私の目は欺けないからね。魔法書も読んでいないでしょう?」


「これは……。言い訳できませんね」


 ミリスは肩を落とした。


「この間の魔法陣を見て理解できてなさそうだったからね。あれ、初等魔法だよ?」


「すみません」


 項垂れて謝罪をするミリスの背中を、短杖が軽くつついた。不快だった感覚が遠退き、少しだけ躰が楽になったような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ