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弔花のウィンジー  作者: 鈴木白紙
3章 回帰の魔窟
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【閑話】 道占い

 案ずるより産むが易し、というのはこのことだろうか。これほどの迷宮だから、抜けだすのも一苦労と思っていたが、歩き始めて数日、二人は無事に樹林の外にいた。


 これもきっとハプテキズムの恩寵だろう。あるいは、彼女にとって邪魔者をさっさと遠ざけたかっただけなのかも知れないが。


 ミリスは燦然と輝く陽に向かって手を翳した。これほど眩い陽光は久しく見ていなかった。ウィンジーは深々と被った外套の襟元を少し緩める。しばらくぶりの日向は彼女にとっても慣れないところがあったのだろう。


「眩しいですね」


「眩しいね」


「次はどこに向かいましょうか」


「冒険はもう結構だけど、旅には目的地がつきものだからね」


「私は大きな街にいってみたいです」


「例えば?」


「……帝都とか?」


「ダ・センツルムか。あそこは遠いんだよね」


 ウィンジーは目を逸らして、俯いたまま面倒そうに呟いた。そのまま少し唸ると、パチンと軽快に指を鳴らした。


「占いで決めようか」


「…………」


 ミリスが呆然としていると、彼女は聖樹の杖を呼んだ。杖先でペンのようにして、地に円を二重に描いた。中に不思議な紋様を描くと、その中心に杖を立てた。


「地にあられる精霊たちよ。我らは迷える旅人なり。行方の定まらぬものなり。地の赴くままに次なる標を示したまえ。スピリタス・インデチム」


 聖樹の杖が仄かに光を帯びた。ウィンジーが手を放しても杖は直立したままだった。それは均衡を崩すのではなく、杖の先で縁を描くように回転を始めた。


「どうなるのですか?」


「杖が道標を示してくれる」


 ウィンジーは自信満々に頷いた。ミリスは不安だったが、こうなれば成行きに任せるより外になかった。


 聖樹の杖は途端に停止し、ウィンジーと対極の位置に倒れた。


「こっちの方向は……。ええと」


 彼女はなにかを思いだすように細い指で顎をかいた。そして思いだしたように指を鳴らした。


「あそこなら、ちょうどいいかな」


「目的地が決まったのですか?」


「決まった? いや、決めたんだよ」


「どこですか?」


「ツンフト・ロンドニオン。知らない?」


「どんなところなのですか?」


「商人たちの街だよ。とても活気があるんだ」


「それは、楽しみです」


 ミリスは少し窮屈になった服を見下ろした。成長期の彼女にとって、いつまでも同じ服を着続けるのは難しいところがあった。


「クレンツェの結晶を売って、そのお金で新しい旅装束を拵えるとするか」


「はい!」


 と元気よく頷いてから、ミリスは首を傾げる。


「クレンツェの結晶の価値はなくなったのはないのですか?」


「道具としての価値はね。流通しなくなったからこそ、観賞用として好事家が集めているのさ」


「宝石みたいなことですか?」


「そんな感じ。それに、魔法使いの中には、魔力の予備として持ち歩いている人もいるからね。需要はあるんだよ」


 御守みたいなものだけどね。ウィンジーは呟いた。


 確かにウィンジーほどの魔力を持っていれば、予備を持ち運ぶ必要はないだろう。そう思われたが、ハプテキズムと相対したとき、途方もないと思われていた彼女の魔力にも減少が見られた。ハプテキズムの魔力に衰えは見られなかったが、いくら上級魔人といえども際限ない魔力とは考えにくい。墓前に捧げられたクレンツェの結晶は、その魔力と関係がありそうだったが、今から踵を返して確かめにいく気にはなれない。


 ミリスは陽光で熱を帯びた石杖を撫でながら、そう考えた。


「それにしても、ずいぶんと長居をしてしまいましたね」


「これは旅人としてあるまじきことだね」


 そういうウィンジーの声は僅かに弾んでいた。ミリスは相好を崩した。


「なら、早くここを発たねばなりませんね」


「そうしようか」


 どちらからともなく、一歩を踏みだした。

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