3章-35
仄かに白い輝きに阻まれて、白をも通り越した空白色の弾丸が弾けた。七色の煌めきが白い輝きの外側で舞っている。これが夜空に舞っていれば名のある流星群となっていただろう。しかし背景が暗黒という一点を除いて、天空の一幕とは縁のないものだった。
ウィンジーは右足を少し引いて、まるで強風に抗うかのようにしている。その背に隠れるようにミリスは身を潜めていた。
澄んだ魔力同士が衝突した甲高い音が繰り返し鳴り響いている。次第に耳が麻痺してくる。音が鳴っていることを理解していても、それはどこか遠くの事象のように感じられてくるのだ。
この気の遠くなるような撃ちあいをして、互いの魔力を擦り減らす。その相手を千年の時を生きるエルフが務めているとはいえ、相手は上級魔人、永劫のハプテキズムである。魔力は修行の期間に比例する。人属から見れば永遠に近い寿命を持つウィンジーが相手しているとはいえ、永劫の二つ名を持つ魔人の寿命に及ぶとは思われない。
「いつまで続けるのですか?」
そのような疑問が口元まであがってくる。その答えは判り切っている。魔力がなくなるまでだ。しかしはそうは答えなかった。
「相手次第だね」
もう長いこと撃ちあいをしている。鳴り続ける高音のせいで感覚が麻痺して、音が遠い世界のもののように聞こえてくる。まるで鳴り止まない耳鳴りのようだった。
ウィンジーの限界はそう遠くないようだ。息遣いが次第に荒くなって、額に雫が浮かんでいる。
他方でハプテキズムは冽を纏う佇まいに相応な涼しい顔で応じていた。彼女は全身から発する冷気で髪は湿気を帯び、猗靡な艶を纏っていた。
坦々と魔法を撃ちあっている様子は衝突を繰り返す振子のように退屈だった。ハプテキズムもあくまでも魔法使いの戦い規範に則って戦いを進めるつもりのようで、搦め手は用いる気配はない。人属の慣わしにも関わらず。
そこに、ミリスは違和感を覚えた。なぜ魔人が人の慣わしに従っているのだろうか。上位の魔人ともなると人属の思想を解するのは判るが、従う理窟までは判らない。
「大丈夫ですか?」
ミリスも緊張状態から完全に解放されていたわけではなかったが、段々と緊張を平静として躰が受けいれ初めていた。
「ちょっと厳しいね」
声色はいつもと変わらなかったが、全てを達観しているようなウィンジーが厳しいと告白した事実だけで緊迫した状況が伝わってくる。
「私が防御を担当しますよ」
「加減が判らないでしょ」
精いっぱいのミリスの助け舟は冷静に否定される。足手纏いでなくとも役立たずであることに変わりはない。ミリスには、打開の一策を献ずるしか活路は残されていなかった。それは生命という点においても同様だった。
ミリスは考える。
二人は今、魔法障壁の中にいる。ここから攻撃を試みようにも、障壁は選択的防御をできるほどの性能は持っていない。ウィンジーもハプテキズムも障壁の外に魔弾を生成しているだけの話だ。魔力操作は離れるほどに難度があがる。特に自身の魔力と性質の異なる障壁に妨げられている先に魔力を精製するのは難しい。そうでなければ、防御魔法なんて意味をなさないではないか。意味があるからこそ、防御魔法は重要な要素なのだ。
――攻撃魔法と防御魔法、どっちが大切だと思う?
いつかの質問が脳裡で再生される。
――攻撃魔法だよ。
その言葉は確信に満ちていた。
つまり今ミリスが考えなければならないのは守備や分担ではなく、攻撃の術である。打開策は攻撃に求めるより外にないのだ。鉄壁の守りを固めても、止まない攻撃を前に動けなければ意味がない。それならば逃避の手段を考えたほうが良い。
しかし攻撃といってもここから攻撃したのではウィンジーの展開している障壁に阻まれて妨害にこそなれ防御どころか攻撃にはならない。
ミリスは心に決めて杖を構えた。ウィンジーの背中越しにハプテキズムを認める。
その目標は……




