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弔花のウィンジー  作者: 鈴木白紙
2章 黒墨の郷
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2章-11 地の利

2023/12/25 加筆修正

 これだと旅っぽくないから少し周辺を探索しようか、というミリスの一声で陽が傾きかかっている中、二人は郷の外へと踏みだした。


 郷から街道へと続く道は赤焦げた敲き土で、その脇は暗灰色の小石がびっしりと敷きつめられている。白煙と黒煙に包まれた郷へと伸びる細道は、その景観は地獄への細道のようで、若干どころではない禍々しさを放っていた。


 二人は郷を背にして低木の生茂るほうへと向かった。ウィンジーはよく、エルフは森の民だから、といっている。これも、エルフの性なのかも知れない。


 灌木を前にして振りかえると、黒墨の郷を抱く山をちょうど一望にできる名所だった。そこから臨む静寂不動の山岳は、あの賑やかな郷を抱くものとは全く想像できない威厳を放っていた。


 その風景を前に、ウィンジーは恍惚として眺望していた。ミリスは風景というより、ウィンジーのその横顔に見惚れていた。そのとき、ウィンジーの瞳が不意にきらりと揺らめいた。それがミリスを現実へと引き戻した。


「どこに向っているのですか?」


「ん? 探索だよ」


 と、ウィンジーは取りあわない。


 いつものように不安定を装った足取りでウィンジーはよろよろと歩いている。ミリスは少し離れて後ろに続いた。


 残滓を踏む軽快な跫音に、荒んでいた心が少し洗われる。けれども、ミリスにとって、それを快く受け容れるのは憚られた。それでも一歩前へ進むたびに音は鳴るし、何度聞いてもそれは耳に心地好いのだ。


 ウィンジーは無駄にザクザクと踏み鳴らしながら、千鳥足に歩いている。


「そろそろ、ミリスも地理を憶えないとね」


 一人で旅はできないよ、ウィンジーの口ぶりはそう語っていた。ふらふらと躰を傾けながら――。


 けれどもミリスは複雑な表情のまま、沈黙している。果たして私は一人でも旅をするのだろうか、その問いにミリスは素直に頷けなかった。


 ウィンジーはおもむろに振り返り、フードを払った。足元に草一つない荒野で、周辺は人影どころか影を落とすものすらもなかった。


「山はね。大きく二種類あるんだよ。判る?」


「火山か、そうでないか、ですね」


「正解。センリョクのところは火山じゃなかったね」


 そういわれて、ミリスは頷いた。あの山は緑豊かで、火山のようなものとは無縁の存在だった。それとは面持ちは全くといっていいほどに異なるが、物腰柔らかで穏やかな表情は共通している。


「動く火山と出会ったところは、火山だらけでしたね」


「『インジェンス火山帯』、あれは世界一の火山帯だからね。この山も、それほど活発ではないけど、一応火山だよ。古い文献には『マグナ・フラメア』という名前で呼ばれてるよ。今ではドワーフの御神岩としか呼ばれてないけどね。私の記憶にある限り、一回だけ靄を吹きだしたことがある」


「この山が……」


「歴史書によれば、この山が本格的な噴火をしたときは、巨大な火砕流が周辺一帯を破壊しつくして、舞いあがった噴煙は世界の半分を覆い尽くしたって話だけどね」


 穏やかそうな面持ちで白と黒の霧に覆われた黒墨の郷を抱擁する様子は、凶悪な噴火とは結びつかない。噴煙を立ち昇らせているだけでも想像できないのに、近隣に破滅を齎す様子など毛ほども考えられない。


「この、足元のこれが名残ってわけね」


「そういえば、火山帯でも似たような小石を見た覚えがあります」


 足元に敷きつめられたボコボコの小石を見た。火山帯では乳白色のものが主流だったが、ここにあるのは暗灰色である。その違いはあるが、踏み心地は近しいところがある。


「そう。この穴だらけの石は火山特有のもので、これを見つけたら近くに火山があることを示してる。ただ、風向き次第で遠くまで飛ぶこともあるから、それは難しいけどね」


「はい」


 返事をしながら、ミリスは足元の小石を一つ抓みあげた。それは石の重みはなく、触れた指先に粉のようなものを付着させた。


「不思議な石です」


「いい着眼点だ。これは一般的に石と呼ばれるものより軽いことが多い。つまり、投射の魔法を使うとき、不利になるってこと」


 急な話の転換に、ミリスは思わず固唾を吞んだ。


「他にも、活発な火山の近くには水が少ない。飲水を用意しないといけないのはもちろんだけど、相手が火の魔法を使ってきたときの防御手段が乏しいんだ」


「勉強になります」


「魔法使いは、剣士みたいに躰一つで戦うわけじゃないからね。その地の影響を受けやすいんだ。魔力に満ちた場所もあるし、ここみたいに魔力に乏しい場所もある。常に地の利を得られるわけじゃないけど、知らないと一方的に不利な状況になっちゃうこともあるんだ」


「はい」


 ミリスは手元に魔力を込めてみた。確かに充満した感じは受けられない。しかし、指摘されるまで魔力の乏しさに気づけなかった。


「難しいです」


「山が高くなると少し息苦しくなるでしょ?」


「はい」


「普通にしていたら余程じゃないと気にならない。そういう状態だったってこと。常に魔力の状態を意識しないとね」


「気をつけます」


「まあ、こればかりは知識と経験だけどね」


 ウィンジーは、また気紛れに歩き始めた。

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