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弔花のウィンジー  作者: 鈴木白紙
1章 山麓の村
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1章-14 魔女

 アルチーナの笑みは少し強張っていた。彼女はそれを誤魔化すように口元を拭った。口元が再び露になったとき、口角が不気味にあがっていた。


「もう一人いたのか。あなたの自信の源はこれかしら、お嬢さん?」


 アルチーナは吹き飛んだ天幕を睥睨した。その上空に、ウィンジーは佇んでいる。赫々たる杖を両手で持ち、フードの陰から覗く両目は鋭い眼光を湛えていた。

外套を激しくはためかせ、おもむろに着地した。


「呪い持ちか。これは面倒だね」


「一目で見破られるなんて。……只者じゃないわね」


「それだけ無駄に魔力を振り撒いていたら誰でも判るさ」


「それでも逃げないのは、なぜ?」


「別に戦いにきたわけじゃない」


 二人の視線が衝突したかに見えた。だが、視線に戦意を孕ませているのはアルチーナのほうだけで、ウィンジーは労わりの視線をミリスに向けた。


「あら。敵を前にして余所見?」


 すかさずアルチーナは杖を構えた。――が、攻撃は放たれなかった。ミリスが反射的に展開した障壁が、所在なげに鼓動している。


「防御もしないなんて」


 アルチーナは溜息をついた。呆れよりも落胆の色が強かった。


「撃つつもりなかったでしょ」


「結果論でしょ? ハッタリにもなっていない」


「ここで殺したらつまらないでしょ?」


「一応、戦意はあるみたいで嬉しいよ。杖も持っているようだし」


「護身用だよ」


「その割に魔力がこれっぽっちも感じられない。飾り? その割には随分と仰々しいけれど」


 アルチーナはウィンジーの杖に鑑別の目を向けた。


 粗削りの赤黒い樹に、持ち手として革を巻いただけの単純な杖。だが、外見や持ちやすさなど一切の拘泥がない素の姿には、魔法具として必要でないものを徹底的に削ぎ落とした美しさがあった。人によっては禍々しいと捉える洗練された恰好を、アルチーナは仰々しいと表したのだ。


「その杖も頂いていいのかしら」


 アルチーナは戦利品である聖樹の杖を見せつけるように弄んでいる。


「一本で飽き足らず、これまで狙うなんて贅沢だね。でも、その右手の杖、それは嫉妬深いよ。浮気は許されないよ」


「でも、お嬢さんはこれを持ちながら、他の杖とも契約していたのでしょう? それなら、問題なく使える筈よ」


「無理だね。妬まれて終わりだよ」


「呪われた私が劣る? そんなこと、あるわけがない……!」


 嘲笑しながらアルチーナは右手を前にだした。だが、その表情は次の瞬間、驚愕に変わっていた。彼女の右手が掴んだのは虚空だった。


「ほら、無理だった」


「今の手応えは……。あんた、なにかしたわね?」


「私じゃないよ。その杖に拒絶されたのさ」


「まさか……」


 アルチーナが右手の杖を見た。けれども、彼女の右手が掴んでいたのは無だけだった。一瞬の動揺、しかし、すぐさま視線はウィンジーを捉えた。


 ウィンジーは両手に一本ずつ杖を持ち、アルチーナを見下していた。


「ほんと、魔女は手癖が悪くていけないね」


 ウィンジーは赤黒い杖を宙に抛った。それを目がけてアルチーナが右手を伸ばす。


 ――杖呼びの魔法。


 だが、アルチーナの右手はなにも掴めなかった。炯々たる杖は倒れることなく、そのまま消失した。


 聖樹の杖は元鞘に納まるが如く、ウィンジーの手に納まっていた。ウィンジーは慈しむように神々しい


「お前程度の魔法使いじゃあ、この杖は認めてくれないよ」


「貴様ッ……!」


 短杖を胸元から取りだした。豊満な胸が我儘に揺れた。だが、緊迫した状況において、それに注目する人はいなかった。


「貴様は……、貴様は、どの程度の魔法使いだというのだ!」


 激昂に駆られたアルチーナは力任せに魔法を籠めた。


「まだいける?」


「はい」


 ミリスは石杖を握り締めた。障壁が展開され、同時に放たれたアルチーナの魔弾を全て受け止めた。


「死にかけなんかに……!」


 間髪入れずにアルチーナは再度充填した。だが、再び魔法が放たれることはなかった。籠められた魔力は方向性なく霧散した。


「だから、戦う気はないっていったでしょ」


 ウィンジーは聖樹の杖で短杖を弾いた。短杖ははくるくると回って、倒れた男の中に転がった。


「…………」


「そもそも戦いにすらならない。魔法の技術が違うってことは、それほどの差があるってことだ。判ったか、魔女」


 しかし、アルチーナはまだ冷静だった。右手を伸ばし、杖呼びの魔法を唱える。それが不発に終わったとき、彼女は隠さず一驚した。


「私の杖が……」


「自分の杖にまで妬まれたのかな?」


 意地の悪い微笑を浮かべた。

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