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1 神様……だよね?

「あ、あれ……ここは……どこだ?」


 俺は気づけば知らない場所にいた。

 ピンクの部屋に、ピンクの調度品や家具の数々。

 そのうちの一つ、シングルベッドのそばでは、沢山の可愛らしいぬいぐるみたちが静かに佇み見守っている。

 うん、どう考えても俺の部屋じゃない。マジでわからない、ここはどこだ?


「うぉほほ。ようやく目覚めたか。待ちくたびれたぞう」


 どこから声が聞こえてきた。

 しわがれた老人の声だ。

 だが辺りを見回しても誰の姿も見当たらない。


「ここじゃあ!」


 瞬間、がばりとシングルベッドの掛け布団がめくれ上がった。

 そこから白髪まみれのおじいさんが現れた。

 え……


「ばぁ」


「えーっと、誰ですか。マジで意味がわからないといいますか」


「む、せっかくのドッキリじゃというのに随分とつれない反応じゃのう。最近の若者はこういうのに鈍感なのかのう」


 その人物はヒゲをひねりながら肩を落としていた。

 白い貫頭衣に身を包み、一応身なりは小綺麗に整えてあるようだ。しかしこの女の子女の子した部屋とはあまりに似合わない存在だった。


「あの、誰なんですか。まずここがどこなのかまったく分からないんですが」


「まぁ、そう急かすでない。えーっと、町宮まちみやりゅうくんと言ったかな。儂は俗にいう神様じゃ、よろしくな」


 え……なんでこの人俺の名前知ってんの?

 というか神様とか名乗ってるし、本当に意味が分からなすぎる。うーん、ありえる線でいけばストーカーとか? いや、自分でいうのもなんだがとても人に好かれるような人生は送ってきていない。ごく普通のぱっとしない高校生だ。そもそも高齢者のじじぃにストーカーされていたなんて気持ち悪すぎて微塵たりとも考慮したくない。


「ほほぉ、その顔はだいぶ怪しんでおるようじゃな。ではここがどこか教えてやろうか」


「どこ……なんでしょうか」


「ここはいわゆる天界じゃ。神やそれに属す者のみが暮らしておる。当然普通の人間なぞ入れるわけもない」


「ではなぜ僕はここにいるのでしょう」


「それは儂が特別に呼び寄せたからじゃな。これを見てみよ」


 おじいさんが何か宙で操作すると、目の前にホログラムのウインドウのようなものが現れた。

 それが俺の方についーっと滑ってくる。

 そこにはとある映像が流れていた。

 というか俺が歩いていた。


「え?」


 見間違えかとも思ったがやはり鏡でよく見る冴えない顔をした俺そのものだった。

 学校からの帰宅時の映像らしく、制服を着て歩いている。

 そんな俺の様子が上空から綺麗に録画されていた。


「やっぱあんたストーカーじゃねぇか!」


「どうした急に。まぁ見ておれ」


 おじいさんがそう言った矢先、画面の俺の様子が急変した。

 突如、胸の辺りを押さえ、その場に倒れ込んだのだ。


「え? どうしちゃったんだ俺……」


「突発的な心臓発作じゃな。帰り道突発的に発症し、発症から約十四秒後に意識を失っておる。まぁよく持ったほうじゃわな」


 そう言われ考えてみる。

 ……言われてみれば最後の記憶が思い出せない。俺は確かに普通の高校生活を送っていた。しかし最後にどうなったかの記憶がまるで抜けてしまっている。


「え……これってひょっとして……」


「うむ、流石に勘づいたようじゃな。実は映像のお主の目をちょびっとだけデカくしておる。これでちっとはお茶目になったじゃろう」


「そんなこと気づくかッ! 余計な加工してんじゃねぇよ! そうじゃなくて心臓発作ってことは俺は死んだってことなのか?」


「その通りじゃ! お主は地球にて死に至ったが、その際儂がお主の魂を素早く回収し、天界へと呼び止めたのじゃ。どうじゃ? だんだんと理解も進んできたか?」


「まさか……それじゃあ、あなたは本当に、神様……?」


 改めて眼前の人物を見てみる。

 言われてみれば神様っぽい雰囲気が出ていなくもないような気がしてきた。やっぱり気のせいかもしれない。


「さて、状況を理解できたところで、儂から大切なお知らせがあるんじゃが」


「ちょ、ちょっと待って! 死んだとか言われてもそう簡単には納得できないというか……心臓発作、だっけ。言ってはなんですけど僕は割と健康体でした。ましてやそんな発作につながるような持病なんて持ってませんでしたし……」


「…………」


 神様は押し黙っていた。

 顔を伏せていて表情はあまり見て取れない。


「あの……どうしたんですか」


「……それなんじゃがな………………儂のミスじゃ」


「え?」


「じゃから……儂がとある悪人と間違えてお主に制裁を……」


 バッ!


 神様は素早く土下座の体制に入った。


「すまんかった! 儂がミスって殺してしまったんじゃ! この通りいいいぃぃ!」


 綺麗な土下座だった。

 俺はそれを冷めた目で見つめていた。


「ぐぐ、じゃが仕方なかったんじゃよう……あまりに名前が似ていたもんで……ちっ、あの極悪人め、紛らわしい名前を!」


「……なんて名前だったんですか」


かん みんじゃ」


「どこが似てんだよ! なに人だよそいつ!」


「ま、まぁあれじゃ。ケアレスミスというやつじゃ。ほら、お主もテストなんかで『くそ、こんな簡単な問題を……!』みたいな感じでやらかしたことくらいあるじゃろう? んんぅぅ? そういった経験がある以上は、儂のことはあまり責められんな」


「どの口が言ってんだ……」


 俺は怒りを通り越して呆れてしまった。


「本当にすまんかった! まさかこんなミスをしてしまうとは……ほんとに悪気はなかったんじゃ」


「はぁ、もういいですから。とりあえず土下座はやめてください。見てられませんから」


 なんでこんな神様を気遣ってるんだろう……。

 俺はものすごく釈然としない気持ちになった。

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