味方
「――もうこれ以上、未来の様子を見る必要もないじゃろう。 見ての通り未来は酷いイジメを受けており、未来がいずれ自らの命を絶つ選択をする事は容易に想像できる。 一刻の猶予なくワシらがこの現状を是正しなければならぬ……」
市松はそう言うと、にわかに震え出した――。
――すると――
突然、教室の全ての蛍光灯が同時に「バリン」と激しい音を立てて破裂した!
「――キャー!!」
女教師と生徒達が悲鳴を上げて、降り注ぐ蛍光灯の破片を浴びながら廊下へ逃げだす――。
未来も教室の外へ慌てて逃げ出した。
生徒の中では突然の出来事に動揺し、泣いている生徒もいた。
「――な――何!? 突然――」
廊下へ避難した女教師が廊下から教室を覗き込んだ。
教室は何故か窓が開け放たれ、不気味な風がカーテンを激しく揺らしている――。
すると騒ぎを聞きつけ、隣の教室である2年2組の教師や生徒も廊下へ出て来た。
――2年2組の担当教師は若い男性教師であった。
男性教師は、日頃から2年1組の生徒達の粗暴な振舞いを良く思っていなかった。
他クラスの生徒達からも『2年1組内でイジメが行われている』と指摘があったので、度々《たびたび》女教師に様子を聞いたり、授業中に教室のドアから2年1組の様子を確認しようとしたりした。
しかし、女教師はこうした男性教師の疑いに「みんな仲良くしている」と言って釈明し、教室のドアは廊下からは中が覗けないように布で目張りしていた。
「――教室のドアから『誰か覗いている』と未来ちゃんが叫ぶので、仕方ないから目張りすることにしているんですよ……」
女教師はそう言って、あろうことか全ての行いを未来のせいにしていたのであった。
――しかし、そんな狡猾な隠ぺいを行っていても、やはり隣のクラスには全てを隠し通せる訳もなく、その男性教師は「女教師が生徒たちによる未来のイジメを容認しており、あまつさえ、それを煽り加担さえしている」と教頭に度々訴えていたのだが、女教師は校長の娘であるので、教頭も口頭での注意に止め、これ以上深入りはしたくないという後ろ向きな姿勢であった――。
「――先生――! 何かあったのです――!?」
男性教師は女教師に不審な顔をして聞くと、女教師は「――いえ、蛍光灯が突然割れて……」と酷く動揺している様子であった。
男性教師が2年1組の教室を覗き込むと、確かに教室の蛍光灯が全て割れており、床には夥しい破片が散乱していた。
「――こりゃ、酷い――!」
「――!?」
男性教師が床に散らばる蛍光灯の破片を心配そうな顔で見ていると、教室の奥にミカン箱とその上に置いてあるノートと筆記用具が見えた――。
男性教師は、ズカズカと蛍光灯の破片も気にせずにそのミカン箱の前まで近づいて行った。
開け放たれている窓からは強い風が吹き込んできており、ミカン箱の上のノートが、風が吹くたびにパラパラとめくれている――。
「――!?」
「こ――これは――?」
パラパラとめくれているノートから、男性教師の目に恐ろしい一文が飛び込んできた。
『――死にたい――』
男性教師は、そのノートを手に取って自らパラパラとめくって、内容を確認する――。
すると、未来の苦悩に満ちた訴えが、震える文字でノートに書き連ねられていた……。
「――山下先生――!!」
男性教師が怒気を含んだ声を上げた。
その山下という女教師は「まずい……」と感じたのか、先ほどの恐怖はすっかり何処かへおいてきて、慌てて男性教師の元へ近づいて、男性教師から未来のノートを取り上げようとした。
男性教師はそれをかわして、山下の顔にノートを突き付けて詰め寄った。
「山下先生、何ですか? これは――?」
女教師は一瞬顔色が悪くなったが、すぐに気を取り直し平然として言い放つ――
「――いや、これは未来ちゃんのノートですよ。 未来ちゃんは精神的に落ち着かないからこんな事をノートに書いて、椅子にも座りたがらないから、こうして仕方なく段ボールの机で勉強させているのです。 これも、未来ちゃんがそうして欲しいって言うもんだから――」
『――そんな訳ないでしょう――!!』
男性教師は、山下の言い訳に声を荒げて否定をした。
「……とにかく、奥野未来君には私の方から改めて状況を聞きます――」
そして、男性教師は続けて山下に指示を出す――。
「――今はこんな状況なので授業を再開できません。 山下先生、あなたは教頭にこの状況をご説明して、生徒達を下校させてください」
しかし、山下はそんな若い男性教師の指示を聞くと、みるみる恐ろしい形相へと変わって行った――。
「久納先生――! あなたに指図される覚えはありません!」
「私はお父様……いや『校長』にこの事を報告しますからっ!」
そう言って、山下はドアの方へ巨大な尻をプンプンと揺らせながら歩いて行った。
――そして、ドアの前で矢庭に後ろを振り向いた。
「――久納先生、あんまり他のクラスに首を突っ込むものじゃありません……。 これ以上首を突っ込むと、あなたの首が飛ぶかもしれませんよ――」
山下はミカン箱の前に佇む久納に対して、意地汚い捨て台詞を吐いた。
そして、高笑いしながら廊下で待機している生徒達を押しのけて職員室の方へ歩いて行った――。
久納は歯ぎしりをしながら廊下へ出ると、生徒達が心配そうな顔をして久納を見つめている。
「――君たち、もう授業は終わりだ! 教室へ戻らずに今日はもう帰りなさい。 お父さん、お母さんには先生の方から後で電話連絡をして今日の事を伝えておくから!」
そう言って、久納は生徒達に下校の指示を出した。
そして、生徒達のランドセルを教室内から廊下へと運び出し各生徒に渡してあげて、2年1組の生徒達は全員帰宅させることになった。
――未来を除いては――
久納はとりあえず自分の生徒達を教室へ戻るように促し、自習を命じた。
そして、塵取りと箒を持って、駆け付けて来た他の職員と一緒に2年1組の掃除を始めた。
すると、未来が先生と一緒に掃除を手伝い始めた――。
「奥野君……」
痩せこけた体にアザだらけの未来は手に持った箒で、床に散らばっている蛍光灯の破片を健気に、そして丁寧に掃いている――。
久納は、未来に近づいて、箒を履いている手を止めさせた。
「奥野君、君はそんなことまでしなくて良いんだよ……。 それより、少し待っていてくれ。 掃除が終わったら先生――奥野君と話がしたいんだ」
そう言って、未来の肩を優しく抱いて未来を廊下へ連れ出した。
掃除が終わると、久納は未来を2年1組で待たせて2年2組の授業を続けた。
その間、久納の同僚の女性教師『吉岡』が未来の話相手をしていた。
久納は授業が終わった後、吉岡と共に職員室へ行った。
職員室では、山下がドヤ顔をして待っていた。
「久納先生、吉岡先生――ちょっと話があります――」
そう言って、山下は二人を校長室へ来るように促した。
周りの教師たちは皆、席に座って、見て見ぬふりをしている――。
山下と一緒に校長室へ来た二人は、恰幅の良い悪代官のような出で立ちの校長と対面した――山下の父親である。
校長は居丈高に久納と吉岡を睨みつけている。
「――君たちは山下先生の指示を無視して勝手に生徒達を下校させ、しかも、山下先生の担当するクラスに口出しをしたそうじゃないか!」
「一教師の対応としてはあるまじき行為! よって、この事態を重く見て、君たちにはしばらく謹慎を命じる――!」
校長はそう言い放ち、偉そうに葉巻をくゆらせて、革張りのチェアーにふんぞり返った。
久納と吉岡は(申し訳をしても無駄だ)と分かっていたので、そのまま何も言わずにお辞儀をして、ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべている山下を横目で見て校長室を後にした。
「――くっそ! あのバカ親子め!」
久納が拳を握りしめて、歯ぎしりをしながら山下と校長を罵倒する。
その様子を心配そうに見ている吉岡。
「それはそうと、未来ちゃんをこの後どうするの――?」
「――ああ。 奥野君は、どうも家庭でも虐待されているようだ……。 幸い今日は、原因は分からないが2年1組の蛍光灯が全部割れるという不可解な現象が起きた。 これを理由にして、僕は奥野君の自宅に電話して、奥野君が怪我をしたとウソを言って今日は自宅に帰らせないようにする」
「でも……両親が学校へクレームを入れたりしてこないかな……」
久納の説明に吉岡はと心配そうに言う――
「なに、子供のことを心配などする親じゃない――」
久納は吉岡の心配を一蹴し、吐き捨てるように言った。
――そして、二人は未来の待つ2年1組へ行った。
未来は大人しく2年1組で待っていた。
教室は夕日が窓から差し込んで来ており、未来の悲壮な横顔を照らしていた......。
未来は何故かミカン箱の前に正座していた。
「未来ちゃん! こんなところに座らなくてもいいの――!」
吉岡が駆け寄ってきて未来を抱き上げようとする――
すると、未来は「......ううん。 先生がここに居なさいって......」と言って目を伏せる。
久納はそんな未来の頭を撫でながら言う――
「……奥野君、もう山下先生の言う事を聞く必要は無いんだよ」
「先生たちが奥野君を必ず助けてあげるから、今日は吉岡先生の自宅へ泊りなさい」
しかし、未来は首を横に振って「......ううん。 家に帰らないと『お父さん』に怒られる......」と言って、吉岡に抱き着いた。
「――お父さん?」
吉岡が不審そうな顔をする。
「……ああ。 奥野君の両親はすでに離婚していて母子家庭なんだが、どうも最近母親が新しい男を連れ込んできているらしい……。 その男が奥野君にこんなひどい仕打ちをしているようだ……」
久納はそう言って、未来の擦り切れた服をめくった。
「――!」
――すると、恐るべき折檻の後が吉岡の目に映った。
吉岡は思わず目を瞑り、未来を抱きしめる――。
「――未来ちゃん! 私たちがあなたを守ってあげるから、今日はもうお家には帰らないで!」
吉岡は未来に懇願するが、それでも未来は首を横に振り「ううん。 お家に帰る......」と言っている。
久納は苦虫をかみつぶしたような、苦渋の表情で吉岡に言う――
「くっ……家に帰らなければ、両親に折檻されるので怖がっているんだろう。 僕たちが強引に奥野君を保護すれば、逆に奥野君の身がさらに危険にさらされることになるかも知れない……」
そして、にわかに久納の言葉が荒々しくなる――
「――証拠だ!! あのクソ教師、あのクソ親どもからの虐待の証拠を掴むんだ! だが、虐待の跡を見せたところで、それは証拠として見てくれない……。 虐待をしている現場の写真、動画を何とかして撮って、それを警察に提出するしかない!」
そして、吉岡に抱き着いている未来の頭を撫でて言う――
「奥野君、必ず先生たちが奥野君を助けてあげるから、それまで家で頑張って待っていてくれ――」
すると、久納の言葉に未来は頷いた。
「うん――。 でも、お母さんがいつか私を助けてくれるから……大丈夫だよ……」
未来の言葉に、久納と吉岡は涙が流れるのを止めることが出来なかった。
「……くっ……こんなに健気で優しい子供に……。 奴らを僕は許す事が出来ない!」
そう言って、拳を握りしめる久納を見て、泣き顔で頷く吉岡。
こうして二人は未来を車に乗せて、悪魔の棲む自宅へと断腸の思いで送り届けた――
――
――市松が蛍光灯を破壊して、ここまでに至る状況を徹は黙って空から見守っていた。
徹は、市松が何故いきなり蛍光灯を破壊したのか良く分からなかった。
市松に聞いてみても「久しぶりにムカついたのじゃ……」と言っただけで、特に具体的な理由はなかったようだった。
「――うーん。 あの二人の先公は未来ちゃんの味方をしているから、あの先公たちを使って何とかしてーな……」
徹は市松と一緒に、未来を白い車に乗せてレストランに連れて行っている久納と吉岡の様子を上から見下ろしている。
「……ふむ。 ちょうどあの二人が良い事をいってくれたのう。 証拠を掴むとかなんとか――」
市松がそう言うと、徹は頭の上に電球が光ったように「そうだ! 閃いたぜ!」と言って、興奮しながら市松の顔を見た――。
「――俺たちが証拠を撮って、あいつらに渡してやれば良いんだ! そうすりゃ、あいつらはその証拠を持って、お巡りのところに行く――いや、我ながら素晴らしい閃きだ!」
「……まあ、貴様じゃなくとも、話聞いていればその選択肢は思い浮かぶのじゃがの……」
市松はそう言って呆れて見せたものの「――まあ、チンピラにしては良くここまで考えを練り上げたものじゃ」と徹を見て微笑んだ。
「ほんじゃ、早速明日、また学校へ行ってカメラ回して――」と徹が言いかける――
すると、市松は「その必要は無い――」と言って着物から何やら小さな機械を取り出した。
「――ほれ。 もう既に今日の彼奴等の蛮行はワシが記録に収めておいた」
見るとその機械はデジカメであった。
市松はすでに、今日行われた未来に対する山下と生徒たちの虐待を克明に記録していたのだった。
「――えー!? なんだ市松、お前未来ちゃんが学校で虐められていたのをすでに知ってたのか?」
徹が驚いた顔で市松に聞く――
すると、市松は「アホ! いい加減人の話をちゃんと聞かんか! 依頼を受けた段階ですでに知っておるわ――!」と怒鳴った。
徹は「……あっ、そうか……すまんすまん……」と舌を出した。
そして「あー、だからとりあえず様子を見ると抜かして、その間カメラ回してたんだな」と妙に納得したように「うん、うん」と頷いた。
しかし、徹にはやはり一つ気になる事があった。
「――いきなり蛍光灯を破壊したのは、やっぱりあれ単に『ムカついた』からなのか?」
徹が聞くと、市松は恥ずかしそう赤面した。
「……あれは、単にムカついただけじゃ。 別に細かい事は考えておらんかった……」
徹は意外な顔をしたが、すぐに笑顔になり「まあ、あのお蔭で隣の先公が『良い奴』だって事が分かったし、結果的には良かったんじゃね?」と市松に言った。
市松も徹の言葉に笑って答え「――はは、まあそうじゃの」と言って、徹と出会ってから初めて少し和やかな雰囲気になった。
地上を見ると、すでに久納と吉岡は未来を連れてレストランから出て来た後で、未来を家まで送り届けようと白い車を走らせていた。
そして和やかな雰囲気の中、おもむろに市松が懐からデジカメを取り出した――。
「さてそれでは、この彼奴らの悪行を余すところなく記録した写真をだな――」
『――ネットに晒し上げる――』
徹がそう言うと、市松はニッコリと頷く――
「うむ、うむ――うん――?」
「――ちがーう!!」
市松は徹の頭を引っぱたいた――。
「――バカ者!! そんなことしたら、イジメをしていた生徒達が晒上げにあって彼らが自殺でもしたらどうするんじゃ!」
徹はだいぶ市松の折檻にも慣れてきたようで、頭のコブを抑えている。
「……んじゃ、近所にでもバラ撒くか――それとも、あの味方の先公二人に渡すか……」
市松はその提案も否定する。
「――いや、校長とあのバカ娘の教師、そして生徒達の親に見せる」
「はぁ――!? そんな事したら、またイジメを隠し出すんじゃねーのか?」
徹が目を丸くして市松に聞く。
「――そうじゃ。 隠すじゃろうな――イジメ自体を無き事実として――」
市松はそう答え、後ろ手に組んで空中を散歩し出した――。
「お主、もう一度ワシらの目的を思い出してみたらどうじゃ――?」
「……」
「……あのガキの自殺を止める事……だろ」
徹は、市松の問いかけに(何をいまさら)と言ったような顔をして答えた。
市松は「……ガキではない『未来』だ」と徹を窘め話を続ける――
「――そうじゃ。 自殺を止めるためには、教師や生徒達のイジメを止めなければならん」
「その為に、何も過去のイジメをワシらが糾弾する必要はない。 今後一切、未来がイジメられなければ良いのじゃ」
徹は不満そうな顔をしている……。
市松はそんな徹の顔を見て『満足げ』な顔をした。
「まあ、お主の気持ちは分かるがの――」
「――だが、ワシらは罪を裁く閻魔ではない。 あくまで自殺を止める為に来ただけじゃ――」
市松はそう言って徹に近づき、徹の肩を叩こうとしたが寸前で止めた。
徹は市松の話を「おう……」と言って不承不承了解したようだった。
だが、市松が何故イジメを行っていた当事者たちに、自らの悪行を記録した動画や写真を見せるのかまだ分からなかった。
「――でも、何でイジメをした奴らに写真を見せるんだ?」
すると、市松は「ああいう輩はのう、今ある地位を何よりも大事にする者たちなのじゃ」と言って下を向き、地上を走っている白い車を目で追いかけだした……。
「――あのバカ親子にとって、恐るべき悪行が白日の下に晒されれば、己らの地位が失墜する事は自明であろう。 よって、彼奴等も写真や動画を撮影した者を必死になって探すじゃろう――」
「――まず、疑われるのはあの二人じゃ――」
そう言って、地上を走っている白い車を追いかけながら指さした。
久納と吉岡は、未来を自宅へと送り届けた後、自分たちの自宅へと戻っている途中であった――。
「それじゃ、まずいだろ――」
徹は慌てたように市松に言う。
しかし、市松は泰然としている。
「なぁに、あの二人に詰め寄ったり、よしんば殺そうとしても、証拠が回収出来なければ意味はない――」
そう言って、市松は『ニヤリ』とした。
「いくら探しても、いくら脅しても証拠が見つからなければ、最後にやる事といえば賺す事――つまり懐柔じゃ――」
市松がそう言っている間――白い車はアパートの前に止まり、運転席から久納が出てきた。
その後すぐに助手席から吉岡が出てきて、アパートの玄関口まで来た。
――と思ったら――二人は抱き合って口づけを交わした……。
市松は、そんな様子を空から見ながら言葉を続ける――
「あの二人は、しばらくは脅しに耐えて行かねばならんがの――だが、二人一緒であればその脅しにも耐えていくことが出来るじゃろう」
「それに、バカ親子はイジメに加担した生徒達の親どもの『お守り』でこれから夜も眠れぬほど忙しくなるじゃろうて、あの二人に構っている時間はそれほどないかも知れんしのう……」
市松がそう言うと、徹は顎に手を乗せて頷いた。
「――なるほどね。 イジメっ子たちの親に写真をバラまくのはそういう狙いか」
「――そうじゃ――」
そう言って市松は徹の方に体を向けた。
「先ほども言ったように、ああいう輩は『地位』が失墜する事を非常に嫌がる。 それはイジメっ子の親も然りじゃ。 自分の子供が凄惨なイジメに加担していたという事が近所にバレれば、あ奴らの近所における自分の地位が失墜することになるじゃろう」
「――だから、必死で子供らにイジメを止めさせ、イジメ自体を元々無き事実として隠蔽しようとする」
「だが、それがネットなどに晒された後であればどうなるか――? 今度は必死に自分の子供を守ろうと、開き直りよる」
「バレそうになればそれを隠蔽しようとし、バレればそれを他人のせいにして遁走を図る――」
市松はそう言って「......はぁー」と一つため息をついて空を見上げた。
「――古今東西、浅ましい人間の行いは変わらんからのう......」
そして市松は、再び徹の顔を見て言う――
「まぁ要するに、じゃ。 イジメを行っていた者どもに自らの悪行を突き付ければ、彼奴等は必ず自己保身に走るという事じゃ」
「――『バレる前に有耶無耶にしてしまえ』とな」
「そうすると、あのバカ親子は証拠を隠滅しようとし、それが出来なければ証拠を持っているであろうあの二人を懐柔しようとするじゃろう」
「――そして、イジメっ子の親どもは、子供にイジメを止めさせようとする――」
市松の説明に、徹は納得した様子で腕を組んだ。
「なるほどなー。 ほんじゃ、早速デジカメを印刷して写真を奴らに送り付けるかっ!」
そう言って、徹は不敵な笑みを浮かべた――。




