ゲリラが現れた!
本日1回目の更新です。
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──ゲリラが現れた!
ついに恐れていた事態が本格化した。
後方の車列が襲撃を受け、燃料を収めていたドラム缶が撃ち抜かれ、爆発炎上した。トラック1台と兵士3名が犠牲になり、そして即座に護衛部隊が駆けつけて、敵の襲撃者10名を射殺した。
だが、襲撃がこれで終わるとは思えなかった。
「帝都レックス攻略前に敵のゲリラを殲滅したいと思います」
鮫浦は参謀長ピーリア・デア・マーキュリーにそう提言した。
「しかし、ゲリラをどのように掃討するのですか?」
「単純です。包囲して、殲滅する。敵ゲリラの拠点らしきものは既に把握しています。この森の中にある複数の砦です」
「その砦を第13独立空中機動猟兵大隊で強襲を?」
「いえいえ。それだけではゲリラは殲滅できません」
鮫浦が首を横に振る。
「確実に獲物を追い詰め、殲滅するのです。計画はこれをご参考ください」
「ふむ。帝都レックスの攻略は遅れそうですな」
「我々は補給がなければ戦えないのです。ご決断を」
「いいでしょう。女王陛下に進言します」
「ありがとうございます」
こうして対ゲリラ戦がスタートした。
動員されるのは王立機甲連隊から第13独立空中機動猟兵大隊までの全軍。
それらが目標の砦に対して弧を描くようにして展開する。その先には川がある。
「全軍前進、全軍前進」
戦車と歩兵戦闘車が前進を始め、その上空を人狩り機仕様のMi-24攻撃ヘリとバイラクタルTB2無人偵察機が飛び回る。
全軍が前進し、弧を閉じるように進んでいく。
「接敵! 接敵!」
「応戦しろ!」
途中でゲリラたちと交戦に突入し、ゲリラたちが排除される。
だが、多くのゲリラが交戦を避けて逃げていた。
敵の主力部隊と正面から戦うなと彼らは言われていたのである。
交戦を避けるのは賢明な判断。そのはずだった。
だが、スターライン王国陸軍は弧を狭め、ゲリラたちは逃げ惑い、砦を放棄したところに砦に向けて爆撃が行われる。中にあった武器弾薬が吹き飛び、爆炎が舞い上がる。
それでも弧は狭まり続け、ゲリラたちは次第に川の方に押し込まれていく。散開していたはずの多くのゲリラが川を前に追い込まれ、どうしていいのか分からずに右往左往する。川の流れは急で泳いでは渡れない。
そして、追い詰められたゲリラたちの上空をSu-24戦闘攻撃機が通過し、爆撃を加えていく。ナパームの炎が木々を焼き、爆弾がゲリラを吹き飛ばす。
さらには砲兵が砲撃を実施しゲリラたちを徹底して叩く。
包囲網から逃げようとしたゲリラは攻撃ヘリによって排除される。
砲爆撃が続き、30分以上が経ったところで砲撃が止まった。
第13独立空中機動猟兵大隊が砲爆撃で更地になった地点に降下し、生き残りを掃討する。これでかなりの数のゲリラが殲滅された。
ドラゴニア帝国は最終手段だったゲリラ戦まで封じられ、ついに手も足も出なくなった。この他の地点でも同様の作戦が繰り返され、ドラゴニア帝国陸軍の組織したゲリラが殲滅されていく。
そもそも住民たちがスターライン王国に懐柔された時点で作戦としては失敗だったのだ。ゲリラは人里に隠れることもできず、森林地帯で殲滅され続け、ついにはほぼ壊滅してしまった。
「サンチーロン元帥の解任を要求します!」
ドラゴニア帝国議会ではヒルニアルが叫んでいた。
「度重なる敗北! 責任の所在は軍にある! 解任するべきです!」
ヒルニアルはリスタ・ツー・サンチーロン元帥を指さし皇帝エムリルに向けて叫ぶ。
「では、サンチーロン元帥を解任した後に誰が指揮を執るのだ?」
皇帝エムリルが尋ねる。
「国家全体戦線党党員であり、優秀な軍人であるイーティア・ツー・ケラトプス大将です。彼を元帥に昇進させ、全軍の指揮を執らせます」
軍部にも全く国家全体戦線党の党員がいないわけではなかった。一部の軍人は国家全体戦線党の党員であり、これまでの侵略戦争を支持してきた。
イーティアもそのひとりだ。
「ふむ。却下だ。そうだな。ケラトプス大将には帝都防衛を命じよう。敵は帝都に向けて前進してきているときく。それを阻止できれば、その功績を讃え、元帥に昇進させてもいいだろう。そうでなければその人事案は受け入れられない」
「いいでしょう。ケラトプス元帥は必ず帝都をスターライン王国の手から守るでしょう。この帝都には5個師団にも及ぶ国家全体戦線党の忠実にして勇猛な兵士たちがいるのですから」
勝ち誇ったようにヒルニアルはそう言って議論を続けた。
皇帝エムリルとリスタはドラゴニア帝国議会閉会後皇帝の執務室で会談を行なった。皇帝エムリルは椅子に座り、リスタに茶を勧め、今回の会談の意味を語り始めた。
「サンチーロン元帥。率直に聞くが、帝国は負けるな?」
「はい。負けます。今のところ勝ち目はありません。敵が圧倒的過ぎます。小細工を凝らしても敵は力技でねじ伏せてきました。ゲリラ戦ももはや下火です。敵の補給線を脅かすこともできない。そして、敵の正面戦力と戦えば、敗れる」
リスタは既に敗北を悟っていた。
ゲリラ戦による敵の後方連絡線を脅かすという手段は大規模なゲリラ狩りによって潰えた。敵の正面戦力は今も帝都レックスに迫っている。これを迎え撃って、勝利するのは、敵が手を抜くか、奇跡が起きるかでもしない限り不可能だ。
「では、どう負ける?」
「スターライン王国との不可侵条約の締結。幾分かの領土割譲。それから恐れながら皇帝陛下の退位というところでしょうか。敵は主要都市を制圧しただけで、帝国全土を支配したわけではありません。向こうにはそれだけの戦力がない。これは講和交渉においてこちらにとって有利に働きます。敵が戦闘継続を望むのならば受けて立ちましょう。いずれ敵も兵力が散らばり、各個撃破の機会が生まれます」
「なるほど。やはり余は退位せねばならぬか。まあ、異論はない。帝国臣民の安全さえ保障されるならばそれでよい」
リスタの提言に皇帝エムリルは頷いて返した。
「サンチーロン元帥。帝都は戦場になる。帝国臣民の犠牲は最小限に抑えたい。帝都に暮らすものたちの避難を頼む。国家全体戦線党が文句を言うようならば、余が勅令を下す。今でも余の勅令は効果があるようだからな」
「畏まりました。帝都市民の疎開を急がせます」
「よろしく頼むぞ」
リスタと皇帝エムリルはそう言葉を交わして、会談を終わらせた。
一方のヒルニアルは武装衛兵隊を増強すべく、徴募を行なっていた。帝国臣民たちに武装衛兵隊に加わり、ともに侵略者であるスターライン王国を打ち倒そうと訴えていた。
だが、反応は芳しくない。
海軍都市レサルカから逃げてきた兵士たちが話を広げたのだ。地上が炎に覆われ、軍艦が爆散する様子を伝えたのだ。
それによって衝撃を受けた帝国臣民はもはや抵抗しても勝てる相手ではないと、ドラゴニア帝国陸軍が主導する疎開作戦に参加し、地方に脱出していった。
国家全体戦線党は逃げる市民を拘束して無理やり戦わせようとしたが、それは勅令によって禁じられた。
「ケラトプス大将。この戦い、勝てるだろうな?」
「はっ。敵の戦車については亡命貴族から有益な情報を得ました。対抗可能です」
「頼むぞ。この一戦に、帝国の興廃はかかっているのだ」
ヒルニアルはそう言って、屋敷へと戻った。
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