女王の決断
本日1回目の更新です。
……………………
──女王の決断
リヴァーリの広場に降りたシャリアーデ。
「ドラゴニア帝国市民の皆さん!」
シャリアーデが告げる。
「我々にこの都市を併合する意図はありません。この都市は戦争が終われば、ドラゴニア帝国に返還されるでしょう。我々に領土拡大という意図はないのです」
シャリアーデが演説するのに、リヴァーリの市民たちが集まってきた。
王立機甲連隊の間で緊張が走り、第7山岳猟兵大隊、第9戦闘工兵大隊にも緊張が走る。ここで女王が銃撃されたりすれば、リヴァーリの市民に対してそれ相応の報復を行わなければならない。
「繰り返します。我々は征服者ではありません。あくまで戦争のために一時的にこの都市をお借りするだけです。あなた方に我々の言語や宗教を押し付けるようなことは決してしません。我々の占領下では軍の行動さえ妨害しなければ自由です」
市民たちがざわざわとざわめく。
「社長。あれって放っておいていいんですか?」
「俺たちがどうこう言えるもんじゃないだろ。放っておくしかない」
鮫浦たちは心配そうに群衆を見つめていた。
グッドリックとマクミランは念入りに警戒する。
何かシャリアーデに危害を加えようとする人間がいれば容赦なく射殺しなければならないが、この群衆の数をふたりで相手するのはぞっとする。辛うじて王立機甲連隊などの部隊も警戒に当たっているが、戦車が市民を轢き殺せば対立は決定的なものになる。
「我々は両国の不幸な意見の食い違いの末にここにいます。全てが終われば去りましょう。それまでは我々に協力してください」
シャリアーデがそう言う。
「この侵略者め!」
そこで子供の声が響き、石が装甲車にぶつかる。
グッドリックとマクミランが即座に声の方向を向き、HK416自動小銃の銃口を向ける。
石を投げたのは9歳ごろの子供だった。
「いいえ。我々は侵略者ではありません。我々はあなた方の自由を取り上げたり、宗教や言語を強制するつもりはありません。この不幸な戦争を終わらせるためにここにいるのです。我々の工兵は街を修復するお手伝いをしましょう。我々の衛生兵は病気の方の面倒を見ましょう。我々はただこの不幸な戦争を終わらせるためだけにここにいるのです」
そう言ってシャリアーデが少年に近づく。
「侵略者だと思う気持ちは分かります。ですが、我々は本当に侵略者ではないのです」
「本当に、ですか?」
「本当にです」
少年はシャリアーデの言葉に頷くと、頭を下げた。
「女王陛下、そろそろ」
「ええ」
シャリアーデは装甲車に乗り、広場を後にした。
「見事に市民の抵抗心を骨抜きにしましたね」
「ありゃ大したもんだよ。女王というより前線指揮官だな。それでいて大局は見えている。前線部隊並みの臨機応変さと、女王として大局を見据えて、このリヴァーリを最小限の戦力で押さえておく準備を整えた」
「喜ぶべきことですかね?」
「ゲリラ戦が苛烈化したら、アフガン侵攻時のソ連軍並みに軍事費を費やしてくれそうだが、そうはならないのが何だな。まあ、勝ってるならそれでいいだろ。今のところは、俺たちもスターライン王国の味方だ」
対ゲリラ用Mi-24攻撃ヘリやZSU-23-4シルカ自走対空砲。そういうものが売れるのもいいことだが、まずは戦争に勝利してもらわなければ。
「社長。ちょっとスターライン王国に肩入れしすぎでは?」
「仕方ないだろ。ピンクダイヤモンドだぞ? 他に価値のありそうなものがここにあったか?」
「ないですねー」
「だろ? というわけでピンクダイヤモンドを掘り尽くす勢いで武器を売りまくり、戦争に勝利してもらう。それだけだ」
そして、要衝リヴァーリを押さえたスターライン王国陸軍は前進していく。
そこで恐れてきたことが起きた。
敵のゲリラによる攻撃だ。
後方の補給部隊が襲撃を受け、重機関銃と自動小銃の射撃で撃退した。幸いこちらには損害はなし。ただ、これからも同じことが起きるとなると対応が完全にできるかは疑問視されるところだった。
常にMi-24攻撃ヘリに上空から見張らせ、バイラクタルTB2も飛ばす。
シャリアーデが行く先々の村々で征服の意志はないことを表明していき、戦争が終われば自分たちは撤退することを約束した。
いくつかの村では民生支援部隊の丁重なサービスから戦争が終わった後も残ってほしいとまで言われる状況だった。
それもそうだろう。ドラゴニア帝国は戦略的要衝を除けば防衛を放棄して撤退した。自分たちは見捨てられたと多くの村々の市民は思い、ドラゴニア帝国に対して失望したのである。
中には怪しい動きをしていたとして自分たちでゲリラを通報して、連行してくるものたちまでいた。それほどまでにスターライン王国の占領政策は順調だった。
今のところ、住民とのトラブルはほぼなし。
だが、純軍事的な問題がのしかかっていた。
次の目標である海軍都市レサルカにドラゴニア帝国陸軍の大部隊が駐留しているのが確認されたのだ。数にして6から7個師団。それだけの戦力が乗船して、河川を使って機動しようとしていた。
そうなると要衝リヴァーリが危ない。
リヴァーリを守るために先手を打って敵部隊を撃滅したいが、砲兵は移動が遅れているし、王立機甲連隊、王立機械化歩兵連隊も道路事情が悪く進軍速度が落ちている。
遠隔地の敵を叩きのめすには。
「女王陛下。ここは新しい武器を導入しましょう」
そう、鮫浦はシャリアーデに言った。
「どのような武器ですか?」
「今までの戦闘機より強力な対地攻撃能力を備えた機体です。それを投入しましょう」
「分かりました。それが最善であるのならば、そうしましょう」
「ありがたく存じます」
そして、導入された兵器は──。
「こいつか」
「ああ。よろしく頼むぜ、トリャスィーロ」
「任せておけ。片っ端からふっ飛ばしてきてやるよ」
航空機。ロシア製のものだが、ウクライナ空軍も装備していた。
それはSu-24戦闘攻撃機である。
爆弾を下げる量ならばこのSu-24だ。MiG-29戦闘機はマルチロール機として戦闘攻撃の両方が行えるが、Su-24はそれ以前の戦闘攻撃機というカテゴリーの航空機だ。純粋な対地攻撃能力ならば、こちらの方が優れている。
「敵は地獄を見ることになるだろうな」
「ああ。敵に地獄を見せてやってくれ。現代兵器の火力って奴を教えてやってくれ」
「了解。さあ、爆撃の時間だ」
Su-24戦闘攻撃機は前線の航空基地に運ばれ、そこで爆装する。
500キログラム航空爆弾4発とZAB-500ナパーム弾4発。
それらを搭載した機体が4個編隊分12機。
スターライン王国の研ぎ澄まされた刃は、今まさにドラゴニア帝国への懲罰を行おうとしていた。ドラゴニア帝国の海軍都市レサルカを壊滅させることによって。
爆撃の準備が進む。
殺戮の準備が進む。
……………………