電撃作戦です
本日2回目の更新です。
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──電撃作戦です
スターライン王国陸軍は交通の要衝リヴァーリの制圧準備に向けて進んでいた。
野戦航空基地が敵の砲撃の射程外に設置され、そこにAn-12輸送機が大量の物資を運び込む。MiG-29戦闘機も拠点を移し、出撃と爆撃を繰り返す。
MiG-29戦闘機は最初は夜間に敵飛竜騎兵の厩舎を狙って爆撃を行い、それからは運河で機動しようとしている敵兵力を爆撃で撃破していった。彼らの消費する航空爆弾も後方から運ばなければならない。
砲兵の方は今は沈黙していた。
民間人の犠牲は最小限に、というシャリアーデの願いから、都市への無差別砲撃は今のところ行われていない。砲兵であるソーコルイ・タクティカルのコントラクターとしても、自分たちが味わった苦い経験から都市を無差別砲撃するのには躊躇いがあった。
今はただ攻撃の合図を待つのみ。
上空を我が物顔で飛行するMi-24攻撃ヘリは嫌がらせのようにちまちまとした攻撃を繰り返しており、それが砲兵による圧力の代わりになっていた。
さて、ここで地形を整理しよう。
敵の都市リヴァーリは都市の中央を運河が流れている。
そして、その運河を交差する形で街道が走っている。
この運河は兵力の機動にも使用されており、運河で帝都レックスや海軍都市レサルカから船で兵力が機動してくる。今はそれを阻止しているところである。船を爆撃し、機関砲の掃射で撃沈し、リヴァーリに敵の兵力が結集しないようにしている。
だが、既に1個師団規模の兵力がリヴァーリに到達したとの報告もあり、ますますリヴァーリ攻略を急がなければならなかった。
その攻略をどう行うのかが問題点だった。
王立機甲連隊を突入させるのか、第7山岳猟兵大隊、第9戦闘工兵大隊というエリート歩兵によって確実に制圧するのか、それとも第13独立空中機動猟兵大隊を投入するのか、あるいは全部か。
スターライン王国陸軍参謀部は王立機甲連隊による突入こそベストと思っていたが、いざ都市を目にすると道路は街道に沿っている範囲では広いものの、入り組んだ細い道も走っており、T-72主力戦車や86式歩兵戦闘車では行動できないと思われた。
そこで第7山岳猟兵大隊と第9戦闘工兵大隊の投入が決まる。
それと同時に民間人に被害者を出さず、都市を制圧するために夜間に第13独立空中機動猟兵大隊が奇襲を仕掛けることが決定する。
結局のところは全部乗せというわけだ。
敵歩兵は既に武器を完全にマスケットに置き換えており、クロスボウの姿は見せない。城門には大砲が設置され、狙いを城門の外に定めている。
「それではこれでよろしいでしょうか、陛下?」
参謀長のピーリア・デア・マーキュリー少将がシャリアーデに尋ねる。
「できる限りのことはしました。戦争には犠牲はつきものです。ある程度の被害は致し方ないでしょう。その上で、万全を尽くしてください」
「はっ」
そして、ゴーサインが出る。
時刻0300。スターライン王国陸軍作戦開始。
風魔術によってローター音を消したMi-24攻撃ヘリとMi-8輸送ヘリが接近し、Mi-24攻撃ヘリが城門上の敵を機関砲で一掃するとMi-8輸送ヘリから第13独立空中機動猟兵大隊の兵士たちが降下していく。
第13独立空中機動猟兵大隊は西門東門という街道沿いの城門を制圧。次に南門北門という運河にかかった城門の制圧を目指す。攻撃ヘリの支援を受けながら第13独立空中機動猟兵大隊は南門北門を数分の戦闘の末に制圧した。
「レトリバーよりオーバーロードへ。全城門制圧、全城門制圧。これより城門を開く」
『オーバーロード、了解』
通信兵が合図し、第13独立空中機動猟兵大隊によって城門が開かれる。
「城門が開いているぞ!?」
「守備隊は何をしている!」
城門内でいつもの嫌がらせの攻撃かと思って待機していた第1武装衛兵師団の兵士たちはパニックに陥る。そう、運河を機動して運ばれた1個師団の戦力とは第1武装衛兵師団だったのだ。
開かれた城門から王立機甲連隊が突入し、T-72主力戦車を先頭に街道沿いの敵戦力が制圧される。可能な限り、民間人がいるだろう建物への攻撃は避け、敵の歩兵を狙って攻撃を加えていく。
王立機甲連隊に続いて第7山岳猟兵大隊と第9戦闘工兵大隊が突入。細かな通りに潜む敵を排除していき、完全に都市を制圧していく。建物の中にまで突入し、決死の抵抗を図る第1武装衛兵師団と交戦する。
第1武装衛兵師団は大砲用の炸薬を梱包爆弾として利用し、敵に向かって爆薬を投げつける。この攻撃によって第7山岳猟兵大隊に若干の損害がでるも、第7山岳猟兵大隊も手榴弾を使って抵抗し、炸薬が誘爆して真夜中の都市に大爆発が吹きあがった。
その後も戦闘は続き、各地で自爆覚悟の攻撃を仕掛けてくる第1武装衛兵師団と第7山岳猟兵大隊、第9戦闘工兵大隊が交戦する。王立機甲連隊も火力支援を行い、第1武装衛兵師団の立て籠もる建物を砲撃する。
爆炎が夜中の街に幾度となく瞬き、市民たちは恐怖の夜を過ごした。
しかし、都市を無差別砲撃しなければならないような事態は防がれた。
戦車の砲撃と攻撃ヘリの攻撃だけで火力支援は適切に行われ、守備隊は降伏。第1武装衛兵師団だけは全員が降伏せず自決を遂げた。
そして、夜が明けて戦闘の様相が見えてくる。
破壊された建物。戦車橋が架橋された運河。街のあちこちに存在する戦車と装甲車。集められる死体。
「な、なんということだ……。このリヴァーリが陥落してしまうなどとは……」
街の代表者として呼び出された市長や守備隊長が青ざめた表情で降伏交渉場所となる市庁舎に集められた。
「第77独立装甲猟兵大隊の大隊長アウディス・デア・イオ少佐です。今回はこのリヴァーリの降伏に同意していただきたく、参りました。都市は完全に我々の占領下にあります。今から抵抗しても遅いでしょう。是非とも賢明な判断を」
アウディスからそう言われて市長と守備隊長が顔を見合わせる。
「民をどう扱うかお聞きしたい」
「人道的に取り扱います。運河の使用は一時的に止めていただきますが、市民生活に口出ししたり、言語や宗教を強制することはありません」
「ほ、本当ですか?」
「本当です」
アウディスはそう言って頷く。
「捕虜を奴隷などには……」
「守備隊については武装解除の末、解放を。一応憲兵隊に見張らせていただきます。これは我が軍が犯罪行為を行わないか監視するためでもあります」
「な、なるほど」
スターライン王国など蛮地の小国。それゆえに残虐だと思っていた市長は考えを改める。彼らはドラゴニア帝国陸軍並みに理性と知性をあわせもっていると。
「では、降伏していただけるでしょうか?」
「降伏しましょう。しかし、先ほどの約束を文章にしていただきたい」
「こちらに文章にしたものを用意しました。どうぞ、署名を」
「ええ」
こうして交通の要衝リヴァーリは陥落した。
そのリヴァーリにシャリアーデを乗せたGAZ-2330ティーグル装甲車が現れた。装甲車はゆっくりと走行し、スターライン王国の軍旗をはためかせた状態で停車して、シャリアーデがグッドリック大尉とマクミラン曹長の護衛を受けて降車した。
ドラゴニア帝国市民は初めて敵国の女王を見ることになった。
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