停戦の先行き
本日1回目の更新です。
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──停戦の先行き
スターライン王国陸軍参謀本部がサルイ峠の突破について議論している間、ドラゴニア帝国議会も紛糾していた。
国家全体戦線党は占領下にある都市ワナリアから辛うじて脱出してきたという市民を招致し、意見を述べさせた。占領下の都市ワナリアではスターライン王国の圧政が行われており、ドラゴニア帝国の住民は次々に殺されているという話を市民はした。
実際のところ、その市民が本当にワナリア市民だったのかは分からないが、このような話をされるとなるとワナリア解放をという話になってしまう。
だが、軍部としては攻勢は無謀。守勢でも守り切れるか分からないという状況で、停戦を破棄してもドラゴニア帝国の利益にはならないというのが正直なところだった。
それでも国家全体戦線党は停戦破棄を求めた。
そして、彼らは行動を起こした。
武装衛兵隊を派遣し、非武装地帯の警備に当たっていたスターライン王国の兵士を狙って発砲したのである。
スターライン王国側は3名の死傷者を出し、反撃によって武装衛兵隊5名が死傷した。
これに対してスターライン王国とドラゴニア帝国の双方が抗議。スターライン王国が停戦協定を破ったとドラゴニア帝国は批判し、ドラゴニア帝国が停戦協定を破ったとスターライン王国は批判する。
抗議の応酬の末についに停戦協定は破棄された。
ドラゴニア帝国陸軍は予定通り、サルイ峠の永久陣地での迎撃を目指す。峠は装甲車両が通過しにくく、辛うじて通れるものの、敵が道を爆破したりなどすれば、足元が崩れて落ちるというものだった。
そこで峠を突破するのには、王立機甲連隊を先頭にするのではなく、第7山岳猟兵大隊と第9戦闘工兵大隊を先頭にすることとなった。
第7山岳猟兵大隊と第9戦闘工兵大隊は装甲車を下車し、峠の斜面や山林から敵の防衛線を目指す。砲兵の援護はギリギリまで粘らせ、あくまで奇襲を狙う。
そして、まずはMiG-29戦闘機からの航空攻撃。
これにより設置されていたバンカーの一部が破壊される。
残るバンカーに第7山岳猟兵大隊と第9戦闘工兵大隊が襲い掛かる。
彼らは対戦車榴弾を装填したRPG-7V対戦車ロケットでバンカーを攻撃して撃破し、梱包爆薬をバンカーに放り込んで爆破する。
第7山岳猟兵大隊は元々山岳地帯での戦闘のために訓練されてきた部隊だ。山岳地帯で火力もあるならば、勇敢な戦士となる。敵の陣地を次々に制圧していき、サーモバリック弾や梱包爆薬を使ってバンカーを次々に沈黙させる。
突然の奇襲に驚いたドラゴニア帝国陸軍だったが、立て直すのは早かった。
彼らはマスケットで必死にスターライン王国陸軍の兵士を狙って射撃する。
だが、悲しいかなマスケットではスターライン王国陸軍が装備する56式自動小銃に射程外から撃破されてしまう。それでいて装填速度は遅いのだから、もはや勝負にもならない。だが、まぐれ当たりが発生し、スターライン王国陸軍の兵士が倒れることは皆無ではなかった。
だが、それにより闘志を燃やしたスターライン王国陸軍の反撃を受けて、多数のドラゴニア帝国陸軍の兵士が倒される。
80式汎用機関銃が敵陣地を制圧し、その隙にRPG-7V対戦車ロケットからサーモバリック弾が叩き込まれ、バンカー内が衝撃で押しつぶされる。
だが、スターライン王国陸軍にとっては厄介な敵が残っていた。
大砲だ。
バンカーに収められ、航空攻撃を逃れた大砲がスターライン王国陸軍を砲撃する。流石に大砲の射程は短くなく、56式自動小銃や80式汎用機関銃の射程外から砲撃を加えてくる。RPG-7V対戦車ロケットでは近づくに近づけない。
他のバンカーに隠れて攻めあぐねていたところに助っ人が到着した。
Mi-24攻撃ヘリだ。
攻撃ヘリはロケットポッドから対戦車榴弾をバンカーに向けて叩き込むと沈黙させ、続いて残存するバンカーも潰していく。第7山岳猟兵大隊はそのままヘリとともに戦闘。第9戦闘工兵大隊はバンカーを土魔術で撤去し、道を強化して戦車を始めとする装甲戦闘車両が通行可能なように整備する。
T-72主力戦車が姿を見せ、バンカーの残骸を突破し、こうしてサルイ峠での戦いはスターライン王国陸軍の勝利に終わった。
ドラゴニア帝国陸軍は2個連隊の戦力を損耗し、敗退。
ワナリア奪還どころか、敵にさらなる侵攻を許すことになった軍部の責任がドラゴニア帝国議会で追及される。だが、元を正せば軍部が維持していた停戦協定を勝手に武装衛兵隊を投入して破棄に追い込んだ国家全体戦線党にも責任があるという話になった。
国家全体戦線党はもはや国防は軍部のみに任せておけないとして、武装衛兵隊を拡充し、第1武装衛兵師団、第2武装衛兵師団、第3武装衛兵師団と3個師団を立ち上げる。
軍部はこれに人的リソースの奪いあいになることと、指揮系統が混乱するという実に真っ当な理由で解体を求めたものの、国家全体戦線党は応じず。3個師団はさらに属領から集めた兵力も加えて5個師団にまで膨れ上がった。
こうなっては軍部もお手上げであり、国家全体戦線党の好きなようにやらせることにした。ただし、軍需産業に関わっている人間の徴募などは絶対に反対という立場を取っている。国家全体戦線党としても、編成した5個師団に与える武器がなければ困るため、これを認めることとなった。
ドラゴニア帝国では愛国心が声高に叫ばれ、祖国防衛のときであると喧伝された。
これまでは侵略戦争ということで関心を持たなかった市民たちも、自分たちの国土が脅かされるという事実に恐怖し、同時に奮起し、愛国心を胸に武装衛兵隊かドラゴニア帝国陸軍へと志願した。
志願兵は瞬く間に集まり、彼らはドラゴニア帝国陸軍か武装衛兵隊か、各々の選んだ方に配備された。
だが、この動きは遅すぎたと言えば遅すぎた。
せめて、停戦中に行なっておけばよかったのだが、停戦協定は既に破棄され、サルイ峠もすでに突破されている。
スターライン王国陸軍の次なる目標は交通の要衝リヴァーリ。
今のところは補給に問題はないものの、街や村を占領していくにつれてスターライン王国の不安は強まる。
サルイ峠の戦いの残存兵から攻撃を受けることもあり、スターライン王国陸軍はピリピリとた空気が流れていた。
補給部隊もDShK38重機関銃をマウントしたテクニカルが随伴し、周囲に警戒しながら軍団工兵大隊が整備した道路を進んでいく。
上空は常に2機のMi-24攻撃ヘリが飛行し、サーマルセンサーで不審な人影がないかを確認する。発見した場合、地上軍に知らせ、地上軍が確認したのち、攻撃するか、それとも見逃すかを選ぶ。
これまでの戦いと違って解放者として歓迎されることのない戦いだ。だが、ドラゴニア帝国の脅威が残り続けるのでは、平和は訪れない。そして、ドラゴニア帝国憎しでも、その憎しみを抑えて民間人とは接しなければならない。
彼らをドラゴニア帝国から離心させる必要があった。
スターライン王国陸軍は街道を整備し、ドラゴニア帝国陸軍が撤退する際に毒を投げ込んだ井戸を浄化し、民生支援を行うことでドラゴニア帝国市民からの友好を得ようとした。新たに軍団民生支援大隊を組織し、その部隊が専門的に任務に応じた。
その甲斐あって、今のところドラゴニア帝国市民とのトラブルはない。
だが、伸び続けていく後方連絡線は常に攻撃の危機に晒されていた。
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