大儲けですよ!
本日2回目の更新です。
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──大儲けですよ!
砲弾が売れる売れる。
戦車砲の125ミリ弾。各種榴弾砲の砲弾。BM-30自走多連装ロケット砲の砲弾。
その他、迫撃砲弾、Mi-24攻撃ヘリの機関砲弾、ロケット弾なんかも売れている。大儲けだ。砲弾と銃弾の備蓄を吐き出し、足りなければ追加発注し、そうやって取引を継続していくのである。
格安セールの東側の弾薬がピンクダイヤモンドに変わるのだから、笑いしか出ない。
「乾杯!」
「乾杯!」
美人のお嬢さん方が接待してくれるお店で鮫浦とソーコルイ・タクティカルのメンバーがシャンパンで乾杯する。
「この場は俺の奢りだ! 好きなだけ飲んでくれ!」
鮫浦がそう宣言し、歓声が沸く。
「実際のところ、かなり楽な仕事だよな。相手は大したものは持ってない。ただ、数が多いのが気がかりだ。それさえどうにかなれば問題は解決する」
「次に仕掛ける時も地上撃破だな。第三次中東戦争だ。正直、停戦協定はそう長くは続かないだろう。こちらから切らなくても、向こうから切ってくるはずだ」
「その根拠は?」
「これまでの性質の悪い軍閥を見てきた結果。軍閥どもも軍の再編成が終わるまで停戦しておいて、終わったら即座に開戦ってところだった。休戦中の講和交渉もないし、明らかに単なる時間稼ぎだ」
トリャスィーロが尋ねるのに、鮫浦がそう返す。
事実、ドラゴニア帝国は軍の再編成を進めており、講和交渉は国家全体戦線党が拒否していた。彼らはドラゴニア帝国に逆侵攻したスターライン王国を駆逐するまで、戦争を続けるつもりだろう。
何はともあれ、当分講和はあり得ない。
「講和がないとなると予定通りか?」
「まあ、そんなところだな。具体的な作戦変更はなし。航空優勢を確保し、ぶんぶん戦闘機とヘリを飛ばす。問題は長くなるだろう兵站線についてだけだな」
「航空機も総動員で輸送作戦だろ?」
「物資集積所は航空基地の傍に作る。だが、そこからはトラックだ。トラック、トラック、トラック。長蛇の列ができるだろう。何せ1個師団規模の兵隊の飯と燃料、弾薬を運ばにゃならんのだからな」
「そして、その手の車列はゲリラに襲われやすい」
トリャスィーロがそう指摘する。
「ゲリラ戦に相手が出たら地獄だぞ」
「でるだろうな。相手は賢い。正面から戦って勝ち目なしと来たら、搦め手を使うだろう。そうなると困ったことになる。こっちの占領軍は二線級だ。それが周りは敵国人だらけの場所で統率を保って行動できるか。最悪、住民に向かって銃を乱射しかねん」
「そうなると最悪だな。あっという間に住民の反感を買い、住民はゲリラの味方を積極的に行うようになる。そして、住民の支援を受けたゲリラは勝手知ったる土地で、こっちの輸送部隊を相次いで襲撃、と」
「まさに危惧しているのはそれだ。上手いこと統率されるのを祈るしかない」
占領部隊は二線級であることは分かっている。銃の撃ち方と基本的な戦術だけを学んだ民兵にしか過ぎないことは分かっている。それが自国ならともかく、敵国で統制が取れた行動が取れるのかが問題だ。
民兵が暴走するのはさんざん見てきている。民兵は後がない防衛戦ならばともかく、攻勢に使うとなると問題の種だ。特に3年もの間自分たちを占領していたドラゴニア帝国に攻め入るのだ。彼らは完全な敵としてドラゴニア帝国の全てを見るだろう。
「それから聞きたいんだが、他に売れそうな武器はあるか?」
「早期警戒機、と言いたいところだが、今のところ俺たちからはない。だが、重迫撃砲の需要はあるみたいだぞ。迫撃砲は歩兵のもつ最大の火力だしな。それに合わせて軽迫撃砲も売り込んでみたらどうだ?」
「たしか60ミリ軽迫撃砲があったな。それから160ミリ重迫撃砲も」
「売るにはいい機会じゃないか。軍団砲兵連隊はスケジュール通りにしか砲撃しないことが多い。歩兵が自由に扱える火力が増えるのは向こうも喜ぶだろう」
迫撃砲は歩兵部隊に配備される遠距離火力だ。砲兵に頼らず、自分たちだけで火力支援を行うことができるので重宝される。西側がイスラエルを除けば120ミリレベルの重迫撃砲しか装備していないのに東側は240ミリレベルの重迫撃砲を装備している。
榴弾砲より射程は落ちるが、歩兵が自らを援護できるというのは重宝される要因でもある。砲兵は他の部隊と取り合いになるし、前進観測班や射撃指揮所を通さなければならない。
必要だと思ったら即座に自分たちの判断で投入できる迫撃砲は、まさに歩兵の友だ。
「じゃあ、迫撃砲の売込みをかけてみるか。とにかく今は売れるものは売らないとな」
「なあ、いつまであのゲートは開いていると思う?」
「分からん。閉じたら終わりのような気がして、半開きにしているが。まあ、永遠には繋がっていないだろう。いずれ閉じる時が来る。それまでに稼げるだけ稼ぐ」
「俺も助かっている。人の血を吸ったピンクダイヤモンドだが、祖国の復興には役立つ。あんまり俺たちが大きな寄付をするものだから、財団はどこからこんな寄付が行われたのかって困惑しているらしい」
「匿名で寄付しているのか?」
「ああ。そうするべきだ。祖国だって誰かに借りを作るのはもうごめんだろう」
ウクライナの復興は道半ば。各国から支援は寄せられたが、それでも戦争で被った損害を完全に回復するまでには至っていない。
「あんたは立派だよ、トリャスィーロ。俺は自分の稼ぎをそんな風に使うなんて想像もできない。俺の金は俺の金として使ってしまう。人様のために使おうなんてこれっぽちも思わない。せいぜい、こういうめでたい場で奢るぐらいだ」
「あんただって祖国が瓦礫の山に変われば、ちょっとは考えるはずさ」
「どうだろうな」
トリャスィーロは祖国のために戦っている。鮫浦はもう祖国のことなどどうでもよかった。愛国心、愛国心、愛国心。それは確かに立派な考えだ。個人は集団のために、集団は個人のために。だが、鮫浦は正直祖国に失望していた。
「それにしても凄い飲むな、あんたの部下たち」
「ただ酒ほど美味いものはないっていうだろ?」
「そりゃそうだ」
今日の鮫浦の護衛はサイード。天竜は倉庫番だ。
「それにしてもあんたたちは作戦計画の立案や指導まで行うんだな。俺は東側の兵器を扱うプロフェッショナルとだけ思っていたよ」
「兵器だけあっても、扱う戦術や戦略がなければ意味がないだろう? 俺たちは包括的なサービスを提供してる。東側の兵器を使った作戦立案と作戦指導。兵器というものは使う側のドクトリンに応じて開発されるものだ。開発された背景にあるものに応じて、作戦も立案しないとな」
「今のところは東側のやり方、ってわけか?」
「東側は東側でも、ロシアや中国とはまた違うぞ。あくまで東側の兵器を最大限にいかせて、西側のドクトリンも取り入れたものだ」
「ふうむ。俺は武器を集めるだけだし、陸戦や空戦の専門家でもないので分からないが、結構大変なように思えるな」
「ま、現役時代のやり方さ」
トリャスィーロはそう言い、ウィスキーを呷った。
「もっと、もっと兵器を売らないとな。それが連中の勝利に繋がるし、俺たちの儲けに繋がる。気前のいい客は大歓迎だ」
鮫浦はそう言ってシャンパンを呷った。
彼らは遅くまで飲み明かした。
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