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戦争計画についてご相談

本日1回目の更新です。

……………………


 ──戦争計画についてご相談



 陸軍参謀本部では今後の方針について話し合われていた。


 実際に現地に赴いたトーリニア・ツー・アニング少将も参加し、リスタ・ツー・サンチーロン元帥を中心に今後のスターライン王国との戦いを、もし停戦を破棄した場合どうなるのかについて話し合っている。


「負けます」


 トーリニアは率直にそう述べた。


「敵は機動力、火力ともに我々を上回っています。その上、装甲というものまで展開しているのです。我が軍の重竜騎兵を10倍の防御力にし、機動力を10倍にしてください。それが敵の強さです」


「そのことは既に証明されたな。敵を蛮地の小国と侮ったツケがこれだ」


 トーリニアとリスタがそれぞれそう言う。


「問題はこの敵を前にどうやって戦争を終わらせるかだ。戦って勝てない敵にはこちらから講和を乞うしかない。しかし、国家全体戦線党は帝都が火の海になってもそれを認めようとはしないだろう」


「講和を求めるにせよ、何かしらの戦果がなければ無条件降伏です」


 参謀のひとりがそう言う。


「だが、ひとつだけ分かったことがある。敵の戦力は小規模だということだ。もっと大規模な戦力が存在すれば、間違いなくそれを投入してきただろう。だが、敵は少数精鋭で攻めてきた。そして、敵の武器の供給源は東方の民のそれに限られている」


「つまり帝国全土を占領するのは難しいと」


「そういうことだ。敵は要衝を攻撃するだろう。リヴァーリ、レサルカ、そして帝都レックス。最小限の戦力でこちらに大打撃を与えるにはこの3ヵ所への攻撃は避けられない。敵は間違いなく、この3ヵ所を攻撃してくる」


 リスタの予想は当たっていた。スターライン王国の進軍ルートはそれだ。


「では軍を広域に展開させて、敵の後方連絡線の遮断を」


「それも考えるべきだろうな。正面から戦って勝てないならば、搦め手を使わなければならない。サルイ峠での戦いは恐らく我が軍の敗北で終わる。正面から戦っても連中には勝てない。永久陣地化しても、敵の火力を前にどれほど持つか」


 状況は絶望的。


 敵の火力、機動力、装甲は自軍を遥かに上回る。


 ならば、ゲリラ戦を行うしかない。


 焦土作戦と同時に、ゲリラ戦を展開し、敵の後方連絡線を脅かし、前進を阻害する。それぐらいしか今の帝国陸軍に取れる手はなかった。


「しかし、第501重竜騎兵旅団は敵の後方を攻撃しようとして壊滅しています」


「ああ。敵は後方においても火力を有するらしい。だが、敵の後方連絡線はこれからずうっと伸び続けることになる。その全てに火力を提供できるならば、いよいよ帝国もお終いだ。降伏するしかないだろう」


 そう、問題はスターライン王国陸軍がどれほど火力を全体に配分できるかである。後方連絡線にきっちり行き届くほどの火力を提供する準備は今のスターライン王国にはないのである。


 だが、彼らはひとつ重要なことを忘れている。


 航空優勢をほぼ敵に奪われているということだ。


 本土の防衛に残されている2個飛竜騎兵旅団は防空に使わなければならない。敵地に侵攻して航空優勢を奪うことには使えない。


 使ったとしても先に壊滅したいくつもの飛竜騎兵部隊と同じ末路を辿るのは目に見えていた。よって敵地上空を飛行させることはできない。


 敵の占領下に入った場所で航空優勢が奪われているということは、敵の無人偵察機や攻撃ヘリが飛行できると言うこと。バイラクタルTB2やMi-24攻撃ヘリが自由自在に飛び回っていては、広く散開してゲリラ戦を仕掛けようとするドラゴニア帝国陸軍部隊も捕捉され、航空攻撃によって殲滅されるだろう。


 それがリスタたちの考えていなかったリスク。


「ゲリラ戦に焦土作戦となると祖国の大地が荒れますな……」


「だが、一度でも敵に勝利しなければ。そうしなければ敵に易々と帝都を明け渡すようでは、帝国陸軍末代までの恥」


「そのような恥だのなんだの言っている場合か」


 参謀本部の会議も紛糾する。


「ゲリラ戦しかやりようがないのだ。そうするしかない。そして、祖国の大地だからこそゲリラ戦は行える。敵地では敵国の住民の協力が得られるはずもなく、ゲリラ戦を行うなど不可能。祖国の大地でしか、この作戦は行えないのだ」


 ゲリラ戦には現地住民の協力が必要であることをリスタは理解していた。これまで戦ってきた国々の中にはゲリラ戦でドラゴニア帝国陸軍を翻弄するものたちもおり、それを研究して、ドラゴニア帝国陸軍は対策を立てていたのだ。


 もっとも、そこまで有用な対策は立てられなかったために、スターライン王国による南東でのゲリラ戦を殲滅しきれなかったのだが。


 そして、近代的ゲリラ戦に欠かせないものがもうひとつある。


 聖域だ。


 中立国の国土内。相手が絶対に手出しできない大国内。そういう場所に聖域を有し、そこで部隊の訓練や武器の調達を行えてこそ、長期的なゲリラ戦は可能になる。それらなくしては、ゲリラ戦はただの軽歩兵による自殺行為と変わらない。


 スターライン王国は奇しくも鮫浦の倉庫という聖域を得ていた。彼らは地球という聖域から武器を調達でき、人材も地球で育成された──ソーコルイ・タクティカルのコントラクターたちが投入できたのである。


 だが、ドラゴニア帝国にそのような聖域はない。


 恐らくゲリラ戦はそう長くは続けられないだろう。


「ゲリラ戦は既定路線として、リヴァーリ、レサルカ、帝都レックスの防衛についても考えなければなるまい。表向きにでも軍が都市を見捨てたというのは人心の離反に繋がってしまう」


 ゲリラ戦を行うが、並行して正面切っての戦いも行う。こちらはパフォーマンスの要素が大きい。ドラゴニア帝国陸軍が臣民を見捨てないというイメージ戦略に等しい。実質、負けると分かっているのに兵力を投入するようなものだ。


 戦って勝てないならば戦わなければいい。


 そういうのは単純だが、スターライン王国としてもいつまでもドラゴニア帝国から脅かされるのを良しとするとは思えない。こちら側が停戦破棄せずとも、向こうから停戦破棄するだろう。


「諸君、将兵ひとりひとりに家族がいて、それぞれの営みがあることは私としても分かっている。だが、彼らは宣誓したし、我々も宣誓した。義務を果たすように。ドラゴニア帝国のために、戦うのだ」


 参謀本部は沈黙に包まれ、参謀たちは難しい顔をして地図を睨んでいた。


 どこかで敵主力を上手く撃退できないだろうか。どこかで運よく敵主力に打撃を与えられないだろうか。そう考えている。


 兵士たちに死にに行けと命じるのは愚将の行いだ。誰も好き好んで愚将になりたがるはずもない。結果としてなってしまうだけだ。


「トーリニア少将が言っていたように大規模な戦力を一度に叩きつけるのでは?」


「それで敵が止まらなかったら? 敵が凌いでしまったら? 無謀だ」


 トーリニアの考えた策も同じく兵士に死にに行けと命じるものだ。


「我々は負けるだろう。トーリニア少将が言ったように。だが、上手く負けなければならない」


 リスタは最後にそう言った。


……………………

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