その裏では内緒の話
本日2回目の更新です。
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──その裏では内緒の話
「ドラゴニア帝国の使節の人、顔真っ青でしたね」
「だな。まあ、技術格差を考えれば何かしらの幻でも見せられているような気分だっただろうさ。あのマスケットと大砲じゃあな」
天竜と鮫浦がそう言葉を交わす。
「けど、使節団の代表の人はまだ強気に振る舞ってますね」
「調べたが、連中は国家全体戦線党とかいう政党に属していて、その国家全体戦線党というのは、帝国を拡大することで利益を得ましょうって政党らしい。侵略戦争を公約に掲げてる政党が与党ってのも凄いが、連中は実際に属領っていう植民地を作りまくったらしい。もしかすると、そこから兵力を引っ張ってくるかもな」
「数で押されたら不味くないですか? 砲弾も銃弾も限りがありますよ」
「まあ、地上軍はどうにかなる。一度に戦場に投入できる戦力には限りがあるからな。ただ、不味いのは航空戦力だ。自走対空砲と戦闘機、地対空ミサイルだけで防ぎきれるかどうかって話になる」
飛竜騎兵はその数が多い。航空戦力としては異常なほどだ。
だが、彼らは密集陣形で攻め込んでくる。レーダー連動式のZSU-23-4シルカ自走対空砲はもちろんのこと、無誘導のガントラックでも撃墜は可能だ。
それにスターライン王国には敵に気づかれずに敵陣地上空まで到達でき、高空から誘導爆弾で攻撃できる能力がある。飛竜騎兵も飛び立つ前に撃破してしまえば脅威ではない。イスラエル空軍は第三次中東戦争でそうやって航空優勢を奪った。
「俺にはまだまだ買ってもらいたい兵器がある。お前の給料にも響くからな。敵の脅威は過剰に宣伝しろ。そして、こっちの武器はもっと過剰に宣伝しろ」
「了解!」
これで武器がもっと売れれば文句なしである。
「サイード。準備はできたか?」
「ええ。聞こえます」
「どれどれ」
鮫浦がサイードからヘッドフォンを受け取って耳に当てる。
『だから、彼らとは講和するべきだと言っているのです。陸軍としては彼らと戦っても勝利は約束できません。仮に勝利できたとしても屍の山が積み重なるでしょう』
『なんたる弱腰か。それだから陸軍は敗北したのではないか? 我々は戦える。常に戦える。戦い続けられる。それを帝国陸軍の将官たるものが、あのようなちんけなパフォーマンスを見ただけで怖気づくとは』
『ちんけではありません。我々には再現不可能な技術を使ったものです。我々より強力で、我々には対抗できないものです』
『戦争に勝つのが陸軍の仕事だろう! この程度のことで帝国陸軍たるものが弱音を吐かないでいただきたい!』
『無理なものは無理です。こればかりはどうしようもない』
『全く、全く。とにかく帝国陸軍には次こそ勝利してもらう』
鮫浦たちはドラゴニア帝国使節団の宿泊する宿を盗聴していた。
だが、このことはシャリアーデたちには伏せられている。鮫浦たちが知りたいのは、帝国が戦争を続けるかどうかであり、武器が売れるかどうかなのだ。そのような目的で盗聴を行うのをシャリアーデたちがいい顔をするはずがない。
「陸軍の軍人は冷静だが、国家全体戦線党の方が主戦論だな。それも精神論染みている。これは交渉が決裂しそうだ」
「戦争ですね」
「戦争だな。儲かるぞー」
「ふへへ。天竜ちゃん、人間が殺し合うの大好きー!」
ふたりして悪い顔をする鮫浦と天竜。
「サイード。盗聴を続けてくれ。国家全体戦線党の方に注意を。決めるのは連中だ。軍部はあくまで軍部らしい。決定権は国家全体戦線党の奴の方にある。奴が継戦を支持したら、それで決まりだ」
「了解」
サイードが盗聴を続ける。
「さて、戦争が続くとしてこれから何を売るかだ」
「戦車は概ね掃けましたしね」
「歩兵戦闘車と装甲兵員輸送車もな。残りは予備だ。最終的には予備も全部買い取ってもらうつもりだが」
鮫浦がタブレット端末で残っている兵器を眺める。
「独立装甲猟兵大隊に120ミリ迫撃砲を買い取ってもらいたいな。MT-LB装甲牽引車で自走迫撃砲化したものを。それから榴弾砲ももうちょっと買い取って欲しい。後は地対空ミサイルが幾分かってところだな」
「BM-30自走多連装ロケット砲は?」
「ああ。それがあった。それも買い取ってもらわないとな」
リストを眺めながら、鮫浦がチェックを入れる。
「後は榴弾砲の増強に伴う装甲牽引車の導入。地対空ミサイルは売れるか分からん。流石に長距離地対空ミサイルは飛竜騎兵相手にはコストが大きすぎるだろう」
リストにはS-300地対空ミサイルも含まれていた。
「迫撃砲はもっと買ってもらいたいですね。火力が充実すると、敵が数で押してきても怖くないですし、照明弾で夜戦もできますし」
「だな。ばんばん買ってもらって、ばんばん儲けようぜ、天竜ちゃんよー」
「いいですね、いいですね。ピンクダイヤモンドで懐ぬくぬくですよー」
また悪い顔をするふたり。
一方のドラゴニア帝国使節団は軍部と国家全体戦線党の意見が衝突していた。
「このままでは勝てません。戦争はドラゴニア帝国を破局に導きます」
「分かっていないな、貴公。いいかね。ドラゴニア帝国の属領が勝手に独立して、それを承認するようなことになったら、各地の属領が相次いで反乱を起こすだろう。もちろん、我々はそのような場合にも備えてきたが、利益が減るのは確実だ」
それにだ、とバールが続ける。
「このような屈辱的な敗北をドラゴニア帝国が被ったというだけで諸外国は我々を舐めてくるだろう。あのような蛮地の小国に敗れた帝国軍など恐れるに足らずと、軍を進めてくるかもしれない。そうなればドラゴニア帝国はスターライン王国と戦争をする以上の損害を追うかもしれないのだぞ?」
「スターライン王国には勝てません。現状では無理です」
「どうにかしたまえ。それが君たち軍部の仕事だろう。皇帝陛下に任命されたあの偉そうなサンチーロン元帥が率いる軍部の仕事だ」
「無理な戦争を止めるのも軍部の仕事です」
「戦争をするかどうかを決めるのは軍部ではない。我々だ!」
凄まじい剣幕でバールが叫ぶ。
「勝利か、死かだ。軍部は皇帝陛下に忠実過ぎるあまり、我々国家全体戦線党を軽んじてる節がある。だが、実際の政務を行なっているのは我々国家全体戦線党であり、皇帝陛下はそれを承認なさるだけだ。その点を勘違いしてもらっては困る」
「では、国家全体戦線党は皇帝陛下を軽んじられるのか」
「そうは言っていない。ただ、我々の意見にももっと耳を貸すべきだと言っているのだ。軍部は皇帝陛下の管轄だとしても、外交は政権与党たる国家全体戦線党の管轄だ。戦争をするか、しないかを決めるのは我々である」
バールはそう言って息を吐いた。
「軍部としては断固継戦に反対する。講和するべきだ」
「決めるのは我々だ。軍部の意見など必要ない」
「血を流すのは国家全体戦線党ではなく、軍部の軍人たちですぞ」
「それでもだ。君たちも宣誓して軍に入ったのだろう。国家と皇帝陛下に絶対の忠誠を、と。ならば国家の代表である国家全体戦線党にも忠誠を誓ってもらおう。継戦は決定だ。今は時間稼ぎをするが、いずれあの蛮族どもに恐怖の通告を行う」
「何も分かっていない。あのパフォーマンスを見ても何も分かっていない」
「分かったとも。あの程度のもの、帝国陸軍がちゃんとしていれば撃破できるということぐらいはな」
最後にそう言い合ってトーリニアとバールはそれぞれの寝室に戻った。
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