両国のお話し合いの時間
本日1回目の更新です。
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──両国のお話し合いの時間
ドラゴニア帝国特使バール・ツー・ドリコデイルス侯爵とドラゴニア帝国陸軍代表トーリニア・ツー・アニング少将にして伯爵と随伴者数名からなるドラゴニア帝国の使節団が、スターライン王国国境の都市フォボスを訪れた。
「全く、我が軍がちゃんとしていれば、今頃はこの土地もドラゴニア帝国の属領だったでしょうに。陸軍にはちゃんとしていただきたい」
バールはぐちぐちと同じことを繰り返していた。彼は国家全体戦線党の党員であり、そのために今回の特使に選ばれている。
「帝国の商人が襲われた、という事件がなければそもそも起きなかった戦争です。武装衛兵隊には後ろめたいところがあるでしょう」
「言うに事を欠いて責任転嫁とは! 帝国陸軍も情けなくなったものです」
トーリニアには帝国の商人が襲われた事件は、武装衛兵隊のでっち上げだったという事実が伝えられている。この戦争は帝国の側から仕掛けた紛うことなき侵略戦争。そうであるならば、ある程度の譲歩はすべきだと彼は考えていた。
「蛮族どもが何を使ったかは分かりませんが、連中に使えるものならば我々にも使えるはず。アニング少将には情報収集をしっかりとお願いしたい。それぐらいのことはしてもらわなくては、わざわざついてきた意味がないでしょう」
「ええ。情報収集は行うつもりです」
いったいスターライン王国はどんな武器を使って戦ったのか。それを把握しなければならない。ドラゴニア帝国陸軍の戦術・戦略は明らかにスターライン王国より上だった。敗北を招いたのは兵器の性能差だということは、東部征伐軍の生き残りの断片的証言とイーデンたちスターライン王国亡命貴族の発言から分かっている。
しかし、いきなり何個も歩兵師団を撃破し、2個飛竜騎兵師団と1個飛竜騎兵旅団を壊滅させた武器とはどのようなものだろうか? 参謀本部情報部が火薬が使われていると分析し、帝国陸軍造兵廠は火薬を使った武器を作成している。
だが、それでも帝国陸軍は敗れた。
やはり当初のように魔術が使われていたという推測が正しかったのか、それともスターライン王国は火薬を使った更に高度な武器を保有しているのだろうか。イーデン達から情報を聞き取っても『東方の商人から買った魔術によらない武器』という、あいまいな答えしか返ってこない。
東方の民は謎に満ちている。まだ航海技術が未発達なこの世界では、自由に東方を訪れることはできない。だが、東方の民は確かにこのスターライン王国の大地にやってきて、スターライン王国に戦況をひっくり返す武器を与えたのだ。
なんとしてもその武器を見定め、ドラゴニア帝国のために情報を持ち帰らなければとトーリニアは決意する。
「しかし、まあなんという辺境か。道路すら碌に整備されていない」
バールはそれが義務であるかのように、いちいちスターライン王国領内で目立った発達の遅れを指摘していく。ドラゴニア帝国でも田舎はこのようなものだということを、トーリニアは知っているので何も言わない。
彼の領地も決して豊かでも、発達した土地でもなく、素朴な人々の営みがある。そんな弱小貴族でもドラゴニア帝国陸軍は正当に評価し、将官にまで任命してくれた。彼は国家全体戦線党は嫌っているが、ドラゴニア帝国に対しては愛国心を持っている。
いや、ドラゴニア帝国に愛国心があるからこそ、国家全体戦線党を嫌っているのかもしれないなと彼は思う。
「まもなく国境の都市フォボスです」
「ようやくか」
馬車がゆっくりと進み、都市を守る兵士たちがやってくる。
「な、なんだあれは!?」
そこでバールが、素っ頓狂な声を上げる。
都市を守る軍としてT-72主力戦車が鎮座していたのだ。
それも1両だけではない、遠くでは演習のために動き回っている戦車が2個中隊26両もいる。巨大な兵器が恐るべき速度で動き回っているのに、バールもトーリニアも呆気にとられる。
「ドラゴニア帝国特使一団の方々か?」
そこで、迷彩服姿のスターライン王国陸軍の兵士が尋ねてくる。
「そ、その通りだ。あれはいったい何かね?」
「あれは戦車と言われる兵器です。詳細は申し上げられませんが、大砲などの砲撃を弾き、大砲より強力な砲弾を放つとだけ」
「大砲を弾くだと……」
バールは唖然とした様子で戦車を眺めていた。
「なるほど」
馬車によらない機動装置についてはかつて発明家が提言したことがある。それは机上の理論だけで、実際にそのような機械は作られなかったが、スターライン王国に武器を売った東方の民はそれを実用化し、さらには鋼鉄のか固まりであるそれが自由自在に動けるほどの高出力なものに発展させたようだ。
「くだらん。見栄を張りおって。化けの皮を剥いでくれるわ」
バールは現実を前に逃避した。
トーリニアにそれは許されない。彼は可能な限り、スターライン王国の兵器の情報を持ち帰る任務があった。それがたとえ理解不能なものであっても、現実として受け入れ、情報を持ち帰るのだ。
彼の情報で多くの兵士の命が救えるかもしれない。
彼らはそのまま都市の中に案内される。
そこで上空から異音が響いてきた。
「む。むむ? あ、あれは……」
異音は轟音となり、ジェットエンジンで加速したMiG-29戦闘機が上空を低空飛行で通過していく。その様子に、またしてもバールたちは度肝を抜かれた。
「ア、アニング少将! 今のはなんだ!?」
「分かりません。あのような兵器は帝国には存在しません」
アレこそ、飛竜騎兵の生き残りが言っていたであろう、恐ろしく速い敵の航空戦力かとトーリニアは思った。あれがあれば、確かに飛竜騎兵など空から瞬く間に駆逐されてしまうだろう。
「君、あれは何という兵器かね?」
「戦闘機というものです。敵の航空戦力を撃墜し、さらには地上にも攻撃が行えます」
「そうか」
第603飛竜騎兵旅団の生き残りの証言と一致する。厩舎がいきなり空から攻撃を受けた。最初は大規模魔術攻撃が飛来したのを見間違ったのではないかと思ったが、あれが本当の話だったのだ。
「我が軍の飛竜騎兵であればあんなもの」
バールは必死に現実逃避を続けている。
「こちらへどうぞ」
そして、両国の会談場所となる市庁舎にバールとトーリニアたちは案内された。
「ようこそ、スターライン王国へ。私は女王陛下の名代を務めさせていただく、ユース・デア・ディオネと申します。今日はどうぞよろしく」
思ったより和やかな様子で、ドラゴニア帝国の代表団はスターライン王国の代表団に出迎えられた。
「私はバール・ツー・ドリコデイルスだ。その慎重な姿勢は評価しよう」
「私はトーリニア・ツー・アニング帝国陸軍少将です。歓迎に感謝します」
トーリニアは既に、ドラゴニア帝国は正面から戦えば莫大な犠牲を払って辛うじて勝利するか、あるいは完全に負けるかということを予想していた。見せつけられた兵器だけでも、それだけ予想できるのだ。
だが……アレは敢えて見せつけたのだろう。これは講和のチャンスを、向こうも求めているのではないかと思われる。
いくら兵器が強くとも、それを操る人間はただの人間。それこそクロスボウでも死に至ることがある。それを考えるならば余計な戦いは避けたがるはずだ。
問題はバールにはそのつもりが全くないということ。
これだから国家全体戦線党はとトーリニアな嘆いた。
「それでは会談を始めましょう」
両国の代表が席に付き、会談が始まる。
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