大規模動員と再編成
本日2回目の更新です。
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──大規模動員と再編成
スターライン王国ではシャリアーデの戴冠式も無事終わり、いよいよドラゴニア帝国に対する対抗策を話し合うときが訪れた。
鮫浦が見たところシャリアーデは一連の戴冠式関連の行事で緊張し、些か疲れた様子だった。だが、軍務のことになると、今回は陸軍大元帥の礼服を纏い、きりっとした様子で職務に臨んだ。
「まずは人事案と再編成案から」
最高司令部としてシャリアーデを最高司令官とし、それを補佐する参謀長としてこれまで大隊同士の連携をソーコルイ・タクティカルの支援の下で行なってきたピーリア・デア・マーキュリー中佐を特例で昇進させて少将とし、任命する。
第77独立装甲猟兵大隊、第8独立装甲猟兵大隊を王立機甲連隊として扱い、連隊長としてピーリア同様に大隊同士の連携に携わってきたユーフ・デア・ウーラノス中佐を特例で大佐に昇進させて任命する。
新たに志願兵によって編成された第4独立装甲猟兵大隊と第6独立装甲猟兵大隊を王立機械化歩兵連隊として扱い、連隊長としてデズマ・デア・カロン中佐を特例で大佐に昇進させて任命する。
第7山岳猟兵大隊、第9戦闘工兵大隊、第13独立空中機動猟兵大隊は引き続き最高司令部直轄とする。
軍団補給大隊を3個大隊として軍団補給連隊へ再編成。軍団整備大隊も2個大隊に増強。そして、新しく軍団工兵大隊を設立。軍団工兵大隊はMTU-72架橋戦車とIMR-2戦闘工兵車,、WTZ-3装甲回収車などを装備する。
第77独立装甲猟兵大隊と第8独立装甲猟兵大隊の戦車中隊は2個戦車中隊に増強。また装甲偵察小隊としてGAZ-2330ティーグル装甲車からBRDM-2偵察戦闘車を換装。余剰になった装甲車は第4独立装甲猟兵大隊へ。
また各大隊にはBTR-70装甲兵員輸送車をベースにした指揮通信車両が配備される。
各大隊長については変更なし。
第4独立装甲猟兵大隊にはウォレン・デア・テーベ少佐。
第6独立装甲猟兵大隊にはゲルニス・デア・グリーゼ少佐。
第7山岳猟兵大隊にはレアン・デア・ケンタウリ少佐。
第8独立装甲猟兵大隊にはボルト・デア・プルート少佐。
第9戦闘工兵大隊にはハーサン・デア・マース少佐。
第13独立空中機動猟兵大隊にはティノ・デア・カリスト少佐。
第77独立装甲猟兵大隊にはアウディス・デア・イオ少佐。
「古参貴族たちが完全にいなくなりましたね」
「一部には参謀職や司令官職を打診したのですが、『年寄りにはもう新しい戦争にはついていけない』と断られてしまいました。この人事は新しいスターライン王国陸軍の戦い方を熟知した人間が採用されております」
「そうですか。彼らの意志がそうだというのならば、受け入れましょう」
鮫浦とティノたちも、古参貴族たちが将官を務めている方が都合がいいだろうと思ったのだが、古参貴族たちは若手に後を任せ、自分たちは引退することを告げた。古参貴族は最年少で53歳であり、今から機械化された部隊を指揮するのは難しいというわけだ。
「砲兵や空軍についてはこのままソーコルイ・タクティカルの傭兵の方々に」
「82ミリ迫撃砲については訓練が完了しております。ソーコルイ・タクティカルからスターライン王国陸軍正規軍の手で運用するのがよろしいかと」
「では、そうしましょう。補給部隊についてですが、この規模で兵站は維持できますか? もちろん、私もドラゴニア帝国への逆侵攻案ができてるのは知っています」
シャリアーデが踏み込んでくる。
「ギリギリのラインです。空軍も補給任務に参加しますが、航空機に頼る場合は航空基地を整備しなければなりません。航空基地は前線から遠すぎてもいけないし、近すぎてもいけないものです。となると、やはり車両がメインの補給手段となるでしょう」
鮫浦は今からいったいどれだけのガソリンなどの燃料を調達しなければいけないかと考えて、頭痛がしてきていた。彼は武器商人であって、燃料のディーラーではないのだ。これだけ大規模な燃料をどうやってあの倉庫に運ぶか考えるだけで頭が痛い。
「分かりました。ドラゴニア帝国への逆侵攻案について聞かせてください」
「それは参謀長のマーキュリー少将閣下から」
そこでピーリアが立ち上がる。
「はい。ご説明いたします。我々の対ドラゴニア帝国作戦では全面的な国土の占領というものは最初から放棄します。どう考えても兵力が不足し、補給も困難になります。そこで要衝を押さえて、敵に降伏を強います」
鮫浦からサービスしてもらったプロジェクターでドラゴニア帝国の地図を映す。
「まず、このドラゴニア帝国にとってスターライン王国への侵攻拠点となるだろう後方都市ワナリアを制圧し、敵の侵攻をこの地点で迎え撃てるように準備します。それから敵の動きにもよりますが、次に交通の要衝であり兵力を機動できる運河の通る都市リヴァーリを制圧。続いて港湾都市にしてドラゴニア帝国海軍の軍港があるレサルカ。最後に帝都レックスを陥落させます」
「占領部隊を置くとなると、前進はどんどん難しくなるのでは?」
「実は王国全土から志願兵が殺到しており、装備はトラックと自動小銃だけですが、後詰の部隊としては機能する自動車化歩兵部隊がいくつか編成できております。練度の面から正面切っての戦いに投入するのは難しいですが、占領する分には十分です」
「そうですか」
シャリアーデは納得したように頷いた。
「ですが、ドラゴニア帝国領土内は我々が初めて経験する敵地での戦闘になります。住民は我々に非協力的であるでしょうし、トラブルも起きるでしょう。そのため、憲兵が必要になります。敵地であろうと我々が市民に蛮行を行うことがないよう、そして市民が我々の作戦を妨害せぬよう。憲兵部隊の設置が必要になります」
「編成にはありませんでしたが」
「ドラゴニア帝国への逆侵攻が決定した場合設置いたします。主に衛兵をやっていたものたちを集め、騎馬部隊、または自動車化部隊として運用します。各占領地に1個小隊規模、各大隊にも1個小隊規模の憲兵部隊を配属する予定です」
「ふむ。再編成案に加えてください。詳細な計画を知りたいと思います」
「畏まりました。のちに反映させた資料をお渡しいたします」
憲兵は敵前逃亡の防止というよりも、初めての敵の民間人を相手にした場合に、3年もの屈辱の日々を負わされた兵士たちが暴走しないようにするためだった。ドラゴニア帝国の野戦憲兵が取り締まっていたように、占領地で軍がトラブルを起こすのは占領に支障をきたすのである。
「細かな兵站計画や軍の進軍経路についてはお手元の資料をご参考ください。私からは以上です」
ピーリアはそう言って席に着いた。
「では、このまま訓練と再編成を進めてください。特に司令部は図上演習を。敵の脅威はまだ分かりません。こちらの武器は強力ですが、数で攻められた場合、破綻する可能性もあります。最悪を想定して計画立案を」
「はっ!」
列席した各大隊長、連隊長、参謀たちが了解する。
「それでは軍の作戦については以上ですね。内部省から軍に復興計画のために、工兵を貸してほしいとの要望が上がってきています。支障がなければ、軍団工兵大隊から──」
そこで扉をノックする音が響いた。
シャリーアでの従兵が応じる。
「陛下。ドラゴニア帝国から今後について話し合いたいと使者が来たようです」
「ふむ……。応じましょう」
そして、会談が決定した。
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