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戴冠式

本日1回目の更新です。

……………………


 ──戴冠式



 シャリアーデは女王であったが、戴冠式を済ませていなかった。


 というのも歴代のスターライン王国王が戴冠する聖南十字教会が王都テルスにあり、王都を取り戻さなければ戴冠することはできなかったのだ。


 シャリーアではこの戴冠式の日に国民、国家、星神に対して誠実な女王であることを宣誓し、己の治世がよき治世となることを約束することになる。


 戴冠は星神正教の大主教が行い、シャリアーデは歴代の王たちが受け継いできた王冠を授かることになる。


 王冠は無事に保管されていた。ドラゴニア帝国も歴史的価値に理解を示したのか、大切に保管されていた。王も、王子も、王妃も、兜を被り、王冠は城において戦いに向かったのである。そして、戦死した。


 戴冠式を本来ならば特等席で見守るはずだった古参貴族たちは天竜たちによって粛清されているか、あるいはドラゴニア帝国に亡命している。残った僅かな古参貴族たちは参列し、後は10代後半から30代ほどの若手貴族によって占められた。


「──では、我らを見守る星々の神に誓い、臣民に誠実であり、国家に忠実であり、神に対して尊き信仰を絶やさぬと誓いますか?」


「誓います」


 そして、王冠がシャリアーデに授けられる。


「女王陛下万歳!」


「女王陛下万歳!」


 教会が万歳の声で満ちるのに教会の外でも万歳の声が響く。


 彼らはようやく国を取り戻した。祖国を奪還した。


 だが、彼らの戦いは終わっていない。ドラゴニア帝国はこうしている間にも動きつつあったのである。彼らは属領が勝手に独立するなどいう前例を認めるわけにはいかなかった。そんなことを許せば、いずれは帝国全土で反乱の火の手が上がる。


「軍部の責任だ! サンチーロン元帥を罷免すべきである!」


「無計画に戦線を拡大したのは国家全体戦線党ではないか!」


「なんだと! 我々の新しい経済計画のおかげで帝国は豊かになったのだぞ!」


「なにか経済計画だ! ただの植民地からの略奪ではないか!」


 ドラゴニア帝国議会は紛糾していた。


 昔から軍部を支持してきた保守党と極右政党の国家全体戦線党が対立していたのである。議席数では圧倒的に国家全体戦線党が優勢だが、軍部を支持する保守党の存在は、皇帝エムリルに気に入られ、贔屓されている節があった。


 国家全体戦線党はいわゆる党による政治を掲げ、皇帝の影響力を削ろうとしている。皇帝としてはそれは面白くないので、当然ながら国家全体戦線党の影響力を削ろうとする。その代理戦争が国家全体戦線党と保守党の対立と言えた。


 皇帝エムリルは貴族民主制の下で行われる政党政治を否定はしないが、自らの権力を喪失することは望まなかった。特に国を破滅させかねない国家全体戦線党のような政党が力を持つことには否定的だった。


 彼らの無計画な戦線の拡大でドラゴニア帝国は豊かになったと同時に莫大な軍事費という枷を嵌められたのだ。もし、どこかで植民地経営が破綻すれば、一気にドラゴニア帝国は破滅に向かうことになる。


 スターライン王国での敗北はその前兆と言えた。


 皇帝エムリルとしては責任は国家全体戦線党が負い、大人しく軍部に従ってくれるのが理想的だ。軍部は昔から皇帝の支持層であり、忠実なる皇帝の刃であった。その軍部を攻撃する国家全体戦線党は実に目障りな存在だ。


「サンチーロン元帥。お聞かせ願いたい。この未曽有の敗北にどう対応されるのかと! ドラゴニア帝国陸軍最高司令官として責任ある意見を求めたい」


 国家全体戦線党党首ヒルニアル・ツー・アルバレスは、陸軍最高司令官リスタ・ツー・サンチーロン元帥にそう尋ねた。


「私は既に何度も意見を述べている。属領からの撤退。これがなければ、戦力はこれ以上提供できない。軍としては兵士がいなければ、何もできない。早期に友好的な現地政府を樹立し、統治はそちらに任せ、我々は撤退するべきである。そして、戦線を整理した上で、スターライン王国との交渉に入るべきだ」


「交渉? 交渉と仰ったか! 属領の独立を許すのみならず、属領の蛮族どもと交渉しようというのですか! 信じられない!」


 議会で一斉にブーイングやヤジが飛び交う。


「現状、スターライン王国は我々を遥かに上回る武器を有している。交渉は現実的な提案だ。敵の力量も確かめずに、無為無策に戦争を行うのは愚策。ここは一度相手を見定めるために交渉を行うべきだ」


「話にならない! スターライン王国への懲罰はあっても交渉はない!」


「では、軍としてはそのような作戦は無謀であることを事前に言っておく」


 ヒルニアルがリスタを睨むのにリスタは余裕を持った態度でヒルニアルを見ていた。


「アルバレスよ。余の任命した陸軍最高司令官の言葉であるぞ。それを理解せよ。交渉団をスターライン王国に派遣すると同時に、属領の反乱に備え、属領統治の軍への依存度を引き下げよ。属領を独立させるのか。あるいは別の統治方法とするかは任せよう」


「……畏まりました、陛下」


 やはり自分たちが主導権を握らなければドラゴニア帝国は発展しない。属領を独立させなどしていては、属領から入ってくる富は僅かなものとなる。


 こうして国家全体戦線党が政権を握っているのも、ひとえに属領経営のおかげなのだ。属領から入ってくる富でドラゴニア帝国は豊かになり、その豊かさが帝国臣民にまで行き渡っているからこそ、国家全体戦線党は支持を受けているのだ。


 属領に関しては分断統治と同化政策を加速するしかない。属領民の一部はドラゴニア帝国の二等市民と同程度の扱いをしてやろう。そして、残るはあくまで属領民とする。こうして社会に分断と格差をもたらし、そのことで不満がドラゴニア帝国に向かうことを避けるのである。


 軍に頼らないとなると現地で武装衛兵隊を募集するというのも手だろう。外国人を雇うことはドラゴニア帝国軍は避けるが、武装衛兵隊はドラゴニア帝国軍の指揮系統にない。属領各地でドラゴニア帝国に好感情を持った民を武装衛兵隊に組み込み、そのものたちも二等市民としようではないか。


 しかし、スターライン王国との交渉はどうする?


 そんなもの破談で終わらせればいい。どうせ相手は東部の蛮族だ。陸軍が消極的だったせいで負けただけであり、まともに戦えば勝つのはドラゴニア帝国だ。


 確かにリスタは正しい。今のドラゴニア帝国には兵力が不足している。忌々しいことだが、認めるしかない事実だ。属領からドラゴニア帝国陸軍部隊を引き上げさせるまでの時間稼ぎに交渉を使うのはいいことだろう。


「交渉団には陸軍からも人を出したい。よろしいか、アルバレス党首」


「ええ。交渉団に受け入れましょう。では、交渉すべき内容ですが。まず、帝国陸軍の戦死者に対する補償と、捕虜の即時返還。それからドラゴニア帝国の友好国となるのか、それともそれを拒否して戦争とするのかを問い詰めましょう」


「外交交渉が求められているのだと認識しているが」


「蛮族に対してこれぐらいで済ませるのは甘いぐらいです」


 それから再び保守党との協議が始まり、罵詈雑言が飛び交い、帝国議会が今日も荒れる中、ヒルニアルは今度の交渉で得られるものをえておかなければという思いがあった。


 そこで彼は思い出した。ドラゴニア帝国に移送されたスターライン王国の貴族たち──イーデンたちのことを。


……………………

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