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抵抗の崩壊

本日1回目の更新です。

……………………


 ──抵抗の崩壊



 第77独立装甲猟兵大隊と第8独立装甲猟兵大隊は前進を続けていた。


 地球においては重機関銃で穴が開くと言われ、さらには地雷で呆気なく撃破されるために兵士たちが兵員室に入らず、タンクデサントしていたロシアのBMP-1歩兵戦闘車のコピーである86式歩兵戦闘車であるが、これは輸出向けに増加装甲が付けられている。地雷に弱いのはそのままだが、銃弾ごときで装甲を貫かれることはない。


 T-72主力戦車に至っては敵はどうしていいのか分からず、戦車を狙ってマスケットによる銃撃を加え、そして弾かれて125ミリ主砲やPKT同軸機銃に薙ぎ倒される有様であった。ここにはジャベリン対戦車ミサイルを持った歩兵も敵の第3世代主力戦車もいない。戦車ならば圧倒的な活躍ができる場所なのである。


 塹壕を制圧していき、後方に突き抜ける。敵の王都テルス奪還はほぼ失敗しており、司令部は既に陥落。師団司令部も砲撃で吹き飛ばされるか、第77独立装甲猟兵大隊によって制圧されていた。


 指揮は師団司令部から連隊司令部に下がり、その連隊司令部も砲撃で通信機が破壊され、完全に指揮機能を喪失していた。


 伝令を走らせようとすれば後続の第6独立装甲猟兵大隊や第7山岳猟兵大隊に銃撃され、発煙矢では細かな指示が行えない。


 そもそも戦場で咄嗟に命令を下すということをドラゴニア帝国陸軍は重視してこなかった。最初から戦闘計画を立て、それに従って全軍が機械的に行動することのみを良しとしていた。細かな調整はそれこそ師団か旅団、連隊レベルの話であり、咄嗟に大隊や中隊が動くようなことは想定していない。


 ドラゴニア帝国陸軍がそのような指示を下さなければならないときは既に敗北寸前の状況であるという前提があり、実際に今のドラゴニア帝国陸軍は敗北寸前だった。


 既に勝敗は決したと悟った連隊司令部では司令官が自決し、残った参謀たちが塹壕の泥の中で、参謀としては何もできずただの歩兵として戦おうとする。


 ドラゴニア帝国陸軍は事前の計画通り、縦深のある陣地を展開し、敵の足止めを図ったが、決戦兵器であった大砲は呆気なく破壊され、マスケットは敵の戦車と装甲車には通用しない。


 ふと、どこかの司令部のミスで撤退の合図を知らせる発煙矢が打ち上げられる。


 そうなるとあっという間だった。


 鉄の規律を誇っていたドラゴニア帝国陸軍ももはや圧倒的戦力差と技術格差を前に撤退することしかできず、我先にと兵士たちが逃げ出す。大隊長レベルでも兵士をひとりでも生かして祖国に帰してやろうと撤退を叫び、戦線は崩壊した。


 そして、損害とは正面から向かい合った戦闘よりも、撤退する際に生じる。


 砲弾が降り注ぎ、撤退しようとするドラゴニア帝国陸軍の兵士を吹き飛ばす。BTR-70装甲兵員輸送車からはKPVT14.5ミリ重機関銃の銃弾が放たれ、ドラゴニア帝国陸軍の兵士を薙ぎ倒す。


 銃火と砲火の嵐の中で、ドラゴニア帝国陸軍の兵士たちにはもはや自分がどうしてここにいるのかすら理解できなくなり、足を止めて空を見上げる。


 砲弾が無情にも降り注ぎ、兵士たちが爆散する。


「降伏だ! 降伏を指示しろ!」


「しかし、中隊長殿! 大隊長殿は撤退せよと……!」


「この状況で撤退などできると思っているのか!?」


 敵の砲撃は激しく、また敵の装甲車には銃弾も通用しない。そもそもマスケットとは集団で運用して、低い命中率を補おうという武器なのだ。それがもはや壊走状態のドラゴニア帝国陸軍に行えるはずがない。


 誰もが逃げ惑い、そして砲弾と銃弾に薙ぎ倒されている。


「責任は俺が取る。降伏を合図しろ」


「了解」


 そして、白旗が掲げられた。兵士のシャツだった白い布が振られ、そこで攻撃が止まる。ドラゴニア帝国陸軍の兵士たちは武器を捨て、両手を上げていた。


 そこに装甲兵員輸送車から降りて来たスターライン王国抵抗運動の兵士たちがやってきて、彼らを捕虜にした。


 それからは連鎖的に降伏が行われ、主に中隊レベルで降伏が行われる。


 大隊規模では未だに撤退の方針が指示され、何度も撤退を指示する発煙矢が打ち上げられる。それに従って逃げる兵士たちを後方で将校たちが取り纏めるも、彼らは王都テルスに逃げ込むこともできず、かといってあのスターライン王国抵抗運動と戦うこともできず、ただひたすらに帝国本土の方に逃げるしかなかった。


 食料はないが、武器はある。


 これで近くの農民でも脅して食料を手に入れ、逃げるしかない。そう考えて将校たちは取りまとめた兵士たちを指揮して、帝国本土に向かって逃げる。


 それでも無事逃げおおせたのは2個大隊程度であった。ほぼ2個師団の戦力が降伏か壊滅したのである。第603飛竜騎兵旅団もこっそりと撤退していた。


 捕虜は武装解除され、1ヶ所に集められる。


「ハーサン子爵。ドラゴニア帝国の武器を見たか?」


「見ました、アウディス伯閣下。彼らがこれほどまで早く銃で武装してくるとは」


「今回は幸運にも被害がなかったが、これから先は一方的な戦闘というわけにもいかないだろう。ところで、君の土魔術で同じものが作れると思うかね?」


「全く不可能ではない、と言いたいところですが難しいでしょう。それに魔術で生み出すのは効率が悪いです。ここは我が国も冶金技術を高め、銃の量産を行えるようにしたいですね。今の武器をそのまま作るのは不可能だとしても、帝国のものより命中率の高い武器を作るヒントは鮫浦殿より受けています」


「ほう。どのような工夫を?」


「ライフリングというものです。これらの銃にはライフリングという溝があり、その溝で銃弾を回転させることにより高い命中精度を達成しているのです。ですが、鮫浦殿が言うにはこの手の前装式の銃では装填速度が遅くなるという弱点もあるとかで」


「ふうむ。難しいな。一先ずはドラゴニア帝国から鹵獲したものをコピーしたいところだ。我々は戦後のことも考えなければならんよ」


「そうですね」


 戦争が終われば武器商人である鮫浦たちは去る。


 これからスターライン王国がどのような方針を選ぶにせよ、これでドラゴニア帝国との決定的対立が決まった。ドラゴニア帝国にここまでの損害を負わせて、戦後が保証されるはずがない。


 武器を持って対峙し続けるのか。それともドラゴニア帝国本土侵攻を実行するのか。


 ドラゴニア帝国が崩壊したとしても、戦後また同じような侵略の危機に晒されたとき、今度は自力で対抗できるようにしておきたい。今回は偶然鮫浦がいたからいいものの、こういうラッキーは何度も起きるとは限らないのだ。


 その後、生き残っていた最高位の軍人であるドラゴニア帝国陸軍中佐が全軍の降伏を宣言し、戦闘は正式に終結した。


 スターライン王国は3年もの年月をかけて王都テルスを奪還した。


 王都テルスは喜びの声に満ちている。


 GAZ-2330ティーグル装甲車のハッチからシャリアーデが顔を出して手を振り、民衆から盛大な歓声が上がる。


 ソーコルイ・タクティカルのコントラクターたちも何かを思い出したのか涙している。この即席の戦勝記念式典には王都の道路事情を考えてBTR-70装甲兵員輸送車だけが参加し、他は城門の外で待機となった。


「さて、これからだ。これからどうなるかだ」


「帝国はきっと逆襲してきますよ」


「だろうな。それを迎え撃つのにまた祖国の大地を戦場にするのか。それとも今度は帝国の連中の土地でドンパチやるのか。どっちだろうな?」


「いずれにせよ、武器が売れますよー」


「そうだぜ。大儲けだぞ、天竜ちゃんよー」


「ふへへ。大儲けですね、社長ー」


 ふたりが捕らぬ狸の皮算用をしているとき上空をソーコルイ・タクティカルのMiG-29戦闘機が飛行していった。


 彼らなりに勝利を祝福したようである。


……………………

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