進軍というのは疲弊するものなのです
本日2回目の更新です。
……………………
──進軍というのは疲弊するものなのです
都市ネレイド陥落からドラゴニア帝国陸軍は徹底した守備に入った。
騎兵部隊は田畑を焼き、家畜は全て毒で殺された。井戸にも毒が投げ込まれる。つまりは、ドラゴニア帝国陸軍は焦土作戦に打って出たのである。
この世界の軍隊は補給は現地調達が基本だ。それ以外の補給方法では、馬車が大量に必要になり、その馬車を引く軍馬に食わせる飼い葉が必要になりと補給は恐ろしく困難になってしまうわけである。
なので、ドラゴニア帝国陸軍は自分たちがやられたら嫌な手段を取ったのだ。スターライン王国の土地を焼き、水を汚染し、住民たちから補給を受けられないようにしようと、そう考えたのである。
だが、スターライン王国抵抗運動にとっては大した打撃にはならなかった。
彼らは高性能の水浄化装置を装備して井戸の水を使えるようにし、食事はレーションを使用することでまかなっていたからである。
後方からの物資輸送もトラックだけに頼っていない。
An-12輸送機が航空基地に物資を運ぶ。後方の航空基地から必要な物資を運んでいる。航空基地からトラックでさらに輸送され、前線に物資が届く。航空機の燃料であったり、予備のパーツであったりすれば航空基地に保管される。
An-12輸送機は実績のある輸送機だし、ウクライナ軍にも配備されていたためソーコルイ・タクティカルのコントラクターたちにも扱えるものだったが、いかんせん古い機体である。それだけが欠点である。
それでも基本はトラックによる物資の輸送がメインだ。物資集積所を作り、そこから物資を運ぶ。トラックが長蛇の列を作り、必要な物資を輸送する。
ガソリンが恐ろしく消耗されていく。鮫浦はガソリンの調達でひいひい言っていた。
兵士たちの士気は揚々だが、後方の物資輸送を担う補給部隊はこのまま王都テルスまで本当に進軍できるのかと疑問に思い始めていた。
偵察小隊の装備するGAZ-2330ティーグル装甲車が前方の様子を探る中、T-72主力戦車もトラックで輸送されていた。戦車というのは意外とデリケートな兵器であり、自走させて前進するのは得策ではない。戦闘がないときはトレーラーで運んだ方が、履帯を損傷したりすることもなく、コンディションが維持できる。
まして敵は既に王都テルス付近に陣地を展開しているとの報告もあり、それまでの道のりはただ進むだけである。
このただ進むだけという行為にも馬鹿みたいに金がかかるということを考えると、戦争なんてするもんじゃないなと考えるものである。
それでも戦争が起きて、武器商人が儲かるのだから、世の中分からないものである。
次々と都市を解放し、住民に歓迎されるスターライン王国抵抗運動。
女王シャリアーデは装甲車からドレス姿で顔を出して、彼女の臣民たちに手を振る。
「女王陛下万歳!」
「スターライン王国万歳!」
万歳の声がこだまし、兵士たちに花束が贈られ、町娘が兵士に接吻する。
「まるでパリを解放した連合軍みたいだな」
「地方都市でこれですからねー。王都取り戻したらそれこそパーティーじゃないですか? 天竜ちゃんはそれでもいいですけど」
「とはいえな、王都を取り戻しました、ってところで戦争が終わるとも限らんのよな」
天竜と鮫浦はソーコルイ・タクティカルの運転手の運転する連絡用の装甲車の車内でそう言葉を交わす。
「敵は奪還しに来るでしょうねー」
「ああ。それもあるし、そもそもドラゴニア帝国をスターライン王国全土から蹴り出さなきゃならん。一部でも奪われたままになっていると既成事実を作られ、将来的な領土問題になる。それから、スターライン王国が夢叶って再独立となっても、ドラゴニア帝国が存在する限り、その独立は危ういということ」
ドラゴニア帝国は巨大な国家だと聞いている。師団を次々にお替わりするぐらいの国家なので、実際にデカいのだろう。そんな国が占領地の王都を奪還されたぐらいで、独立を許し、それからもずっと独立を保障するか?
あり得ないだろう。いずれまたドラゴニア帝国は侵攻してくる。その時に鮫浦たちがいるという保証はない。
「社長はドラゴニア帝国への逆侵攻を考えているのですか?」
サイードがそこで尋ねる。
「まあ、それも考えなけりゃならんだろう? 第二次世界大戦だってそうだった。侵攻してくる枢軸軍を撃退し、枢軸軍の本土に侵攻してようやく戦争は終わったんだ。ここには停戦監視を行なってくれるような国連軍もいないし、国際常識がどんなものかもわからない。なら、相手国の首都を取って講和って話になるってもんだ」
「そうですね。現実にそれを行う能力があるかどうかは別として、必要性はありますね。敵はそう簡単には敗北を認めないでしょう。彼らから話を聞きましたが、ドラゴニア帝国はスターライン王国のような占領地を多く抱えているそうです。スターライン王国がこのまま勝利すれば、そのような占領地に不味いメッセージを与えます」
「まあ、この世界の国民意識とやらがどの程度なのかは分からないが、自分たちを隷属させる連中にそこまでいい顔はできないわな。連中が負けたとなれば、ドラゴニア帝国は弱いとばかりに占領地で蜂起祭り」
ドラゴニア帝国は頭を抱えるだろうなと鮫浦は完全に他人事でそう言った。
「問題は、ですよ。今の第6独立装甲猟兵大隊、第7山岳猟兵大隊、第8独立装甲猟兵大隊、第9戦闘工兵大隊、第13独立空中機動猟兵大隊、第77独立装甲猟兵大隊。この6個大隊を運用するだけでも兵站がひいひい言っていることです。アメリカ様並みに兵站に力を入れないと、困ったことになりますよ」
「ううむ。確かにな。これからは補給部隊の方に人を回してもらうか」
トラックの余剰はまだまだあるしなと鮫浦が言う。
足りなければ追加で発注するだけだ。軍縮で余剰になった車両は大量にある。ロシアからでも、中国からでも、好きなだけ仕入れられるだろう。
「まあ、スターライン王国にはあるだけ武器を買ってもらって、それが終わればさようならって関係だ。そこまで俺たちが深刻に考える必要はない。だろ?」
「そうですねー。あくまでビジネスです!」
「そうそう、ビジネス、ビジネス。相談役になった以上、王都テルス奪還までは保証するが、それ以上のことは知らん」
鮫浦はあっさりとそう言ってのけた。
この間にも第77独立装甲猟兵大隊を先頭としたスターライン王国抵抗運動は前進を続け、シャリアーデは解放された都市で志願兵を募った。
新しい志願兵たちはトラックの運転方法を叩き込まれ、2個大隊に増強された軍団補給大隊に配属される。彼らは後方から物資を運び続け、それによってスターライン王国抵抗運動の前進は支えられたのである。
陰の英雄とは彼らのことを指すのだろう。
……………………
本日の更新はこれで終了です。
では、面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!